純粋ないい子
数日にも及ぶ宴が終わり―――港にはナナシ・フロウ・パルシィの姿があった。
旅立つ彼等を見送るべく、港には国王を筆頭に大勢の人々が詰めかけていた。
ナナシとパルシィが共に戦った兵士達やドロワと別れの挨拶をする中、フロウはシャルロットと共に国王と談笑していた。
「時に陛下。一つお聞きしたのですが、よろしいでしょうか?」
「そう畏まらなくとも良いと・・・まぁいい。何だ?」
「王都は『リスリオン』ですが、この国の名前は・・・『エルトカルド』と記憶していますが、間違いはありませんか?」
「うむ・・・そうだな。それがどうかしたか?」
首をかしげる国王に対しフロウは薄く笑う。
「陛下。この国はカルド帝国から独立をしたではありませんか。だとしたら・・・国の名前に帝国の名が入っているのは如何なものでしょう?」
なるほどな。と、国王は頷く。
確かに彼女の言っている事は尤もだ・・・が、いきなりそんな事を言われても国の名前を変えるとなると自分一人では・・・
それに、新しい国名なんて簡単には・・・
「そこで一つ、候補を考えてきました。頭の片隅にでも置いてくだされば幸いです」
「ほう?聞いてみようか」
「『エルトタレッセ』・・・と言うのはどうでしょう?この国の名産であるタレッセと・・・この国の発展に尽くし民と共に歩み続けた『硬壁』の魔女を忘れぬように」
「・・・いい名前だ。善処しよう」
口元を緩める国王に対し、フロウも感謝を述べ頬を緩める。
その後も暫く談笑を続け、国王へ別れを告げてその場を後にする。
ナナシ達の元へ向かう道中、隣を歩くシャルロットに一つのぬいぐるみを手渡す。
これは?と、困惑する彼女に薄く笑う。
「それなりの魔力が必要だが、私個人の転移魔法の式が入っている。何かあったらいつでも呼んでくれたまえ。合言葉は『魔女さん大好き』だ。必要は無いと思うが・・・他の魔女がどう動くか分からないからね。用心に越した事は無いだろう。少なくともあの戦いを見ていた数人魔女の魔力には覚えがある。厄介な連中だ。・・・とまぁ、そうは言っても私も偶にはここに来るから使う事は無いだろうさ。友情の証だと思っててくれたまえ」
ケラケラと笑いながら国王から貰った水晶を見る。
それは『転移水晶』と呼ばれる物。
大陸間の移動を簡易的にする為、各地に設置されている転移門に使用すると瞬時に移動できる。
水晶の中の魔力を使う為、人間でも使えるが連続での使用は不可能。
自然に魔力が回復するのを待つ必要があるが、それを除いてもかなり便利な事には変わりない。
上機嫌で歩き出すフロウとは対照的に・・・シャルロットの表情は浮かないまま。
原因は1つではない。
あの戦いを他の魔女が見ていた?
全然気付かなかったぞ?
転移魔法の式?
そんな複雑な式をこのぬいぐるみに?
そして何より・・・この国を1人で守らなければならないという重圧。
今まではタレッセに助けられ、今回はフロウに。
だが・・・もうここに残っているのは自分しかいない。
国王はフロウに王国付きの魔女の打診をしていた。
もちろん自分も賛成したが・・・彼女は首を振るだけ。
もしも他の魔女が攻めてきたら?
もしも他の国が攻めてきたら?
もしも魔獣が群れを成してきたら?
こんな臆病で弱虫で情けない自分だけでは・・・
「君は1人じゃない。見たまえ」
心の中を見透かしたかのような言葉に我に返る。
そこに映る光景は港に集まる人々。
「この国が危機に瀕した時、君と一緒に立ち上がった者達だ。国の為、故郷の為、大切な者の為・・・理由は様々だが、皆共に戦ったんだ。皆が手を取り合い協力すれば、越えられない難局など存在しないよ。タレッセ君が守った場所を君も守ってくれ。これは『星月』から『剣』にではなく・・・フロウからシャルロットへのお願いだ」
それだけを言い越し、フロウは駆け出す。
彼女が向かう先にいたのはナナシとドロワ。
楽し気に笑みを浮かべ会話をする2人に混ざり、彼女も笑みを浮かべる。
ふと、あの夜の会話が蘇る。
ナナシを殺すといった彼女に恐怖を感じていた・・・が、彼女はすぐに表情を和らげる。
『だが・・・さっきの言葉とは矛盾しているが、私は彼を殺したくは無いんだ』
意味が分からず思わず聞き返した。
すると彼女は先程までとは打って変わり、儚げな表情でこれまでの話を始める。
初めて出会った時の話。
彼が転移魔法で彼女を呼んだ時の話。
タレッセが亡くなった時の話。
パルシィと出会った時の話。
決戦前夜の話。
『ナナシ君はね・・・純粋なんだ。純粋でいい子。自分を省みず、他人の為に行動できる。他人の為に本気で怒り、本気で涙を流し、本気で戦える。私はそんなナナシ君を気に入っている。彼が『処刑人形』だろうが関係ない。彼はどんな人間よりも人間らしい。願わくば・・・彼とはこれからも良好な関係でいたいと思うのは我儘だろうか?』
そう言った彼女の表情は―――優しくもあり、悲しいものだった。
「ナナシ!これ私が焼いたパン!味は・・・ちょっとあれかもしれないけど」
伏し目がちなドロワに礼を言うと、その隣にシャルロットが現れる。
「・・・ナナシさん。これは私からのお礼です」
手渡されたのは・・・指輪?
・・・え?
その場にいる一同が硬直し、シャルロットが慌てて説明をする。
「・・・え?あ!え!い、いや!ちっ・・・・ちちち、違いますよ!?決してそう言ったものじゃないんですよ!?そ、それには簡易的な魔法の式が入っているんです!そ、それから・・・身に着けているだけで一応、身体強化の魔法も・・・」
早口で説明する彼女に苦笑いを浮かべていると、パルシィが現れる。
彼女の両手には大量の箱。
中身は・・・大体予想がつく。
彼女も暫く同行したいとの事で快く快諾はしてある・・・が、食に関しては不安が残る。
出航の時刻が迫り、船へと歩き出そうとした時・・・再びシャルロットの声。
「ナナシさん!最後に1つお願いが・・・」
「何だ?」
「そ、その・・・つ、剣を・・・に、握らせては・・・くれませんか・・・?」
え?と、意味が分からず困惑していると、フロウの声。
「・・・いいじゃないか、ナナシ君。頼みを聞いてあげたまえ」
まぁ、別にいいけど・・・
首をかしげつつ手渡すと、彼女の顔色が僅かに変わる。
小さく息を吐き、彼女から剣を受け取る際・・・囁く声。
「フロウさんの事・・・お願いします」
「?・・・あぁ、わかった」
とりあえず返事はしたが・・・どういう事だ?
しかし、考える間もなくフロウとパルシィに急かされ乗船。
3人は港に集まった人々に別れを告げ、本大陸へと向かう。
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