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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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君に任せた


 「おやおや・・・教えておいてなんだが、あまりその名は出さないでいてくれたほうが嬉しいかな。どこで誰が聞き耳を立てているかも分からないしね」

 「え、あ、そ、その・・・ご、ごめんなさい!」


 キョロキョロと辺りを見回すシャルロットに微笑み、手招きをする。


 「いやいや、そこまで警戒しなくてもいいよ。別に隠しているつもりは無いんだ。バレたらバレたでどうにでもなる。それよりも君も一杯どうだい?」

 「え?あ・・・はい。あ、ありがとうございます」


 足早に近寄る彼女にグラスを渡し、再び外に目を向ける。

 溢れんばかりの笑顔で自慢の踊りを披露するパルシィの姿。

 そんな彼女の舞と掴み取った自由に熱気を帯びる大衆。

 ドロワに引っ張られ町を歩くナナシは呆気にとられた表情をしている。

 全ての民に感謝を述べ、柔らかな笑顔を浮かべる国王の姿。

 目尻を下げ、緩む口元を隠す事もせずシャルロットに向き直る。


 「どれ、乾杯といこうか。そうだね・・・この国の平和とタレッセ君にと言うのはどうかな?」

 「・・・は、はい!」

 「では―――乾杯」


 グラスを合わせ、透き通る音が心に染みる。

 一気に飲み干し・・・シャルロットは思い出す。




 『私は『不老』の魔女じゃない。私の本当の魔名は『星月』だ』


 突然の言葉に思考が止まる。

 だが、疑う事は無かった。

 彼女が話した昔話。

 それは、口伝にしてはやけにリアルな・・・『灰の時代』話。

 自分達が知っている歴史とは異なっている点が多々あったが・・・違和感はない。

 それどころか、彼女の話の方が不思議と真実に聞こえる。

 何故・・・この話を自分に?

 そう尋ねると、彼女は大地に身体を預けて大の字になる。


 『簡単さ。君は勇気が欲しかったんだろう?英雄と呼ばれる魔女が隣で戦うと分かれば・・・少しは勇気が出るかと思ってね』


 ・・・え?

 それだけ?

 たったそれだけの理由で・・・こんな大事な事を?

 言葉が出ずに瞬きを繰り返りていると、彼女は軽く笑みを零す。


 『それに、自分を慕ってくれていた友の頼みだ。無下にもできまいて。恨まれる事は数多くしたが・・・慕われるのは久々だからね』


 表情とは裏腹に、その瞳には悲しみが溢れていた。

 あぁ・・・この人は・・・本物だ。

 本気でこの国の為に・・・タレッセの為に戦おうとしてくれている。

 だとしたら・・・ここで自分が尻込みする訳にはいかない。

 タレッセの為にも・・・この国の為にも・・・!

 



 策?と、国王が首をかしげる。

 頷き、彼女は説明を始めた。

 兵力や質で劣るこちらが勝つには相手の魔女を潰すしかない事。

 その為に数名の兵にとある地点に向かって欲しいとの事。

 先方は『剣』に任せ、相手の力量を確認したいとの事。

 パルシィを兵達とは真逆の地点に単独で向かわせたいとの事。

 自分が魔女を仕留められなくても・・・ナナシが必ず仕留める事。

 その他にも事細かに説明するが、その言葉は殆どの者の耳には届いていない。

 代わりに聞こえてきたのは彼女の作戦を反対する意見ばかり。

 幾らなんでも無茶が過ぎる!

 失敗したらどうなる!?

 やはり、今まで通りに防戦にした方がいいのでは?

 国の命運を得体の知れない魔女に任せるなど・・・どうかしている!

 様々な意見が飛び交うが、国王は黙してフロウを見つめ続ける。

 暫くし・・・重い口が開かれた。


 『勝算は?』

 『100%です』


 即答し、フロウは頭を下げる。


 『陛下が民と国を思う様に、私も友との約束を命を賭けて果たす所存です。だからお約束ください。魔女以外の命は可能な限り奪わぬ事と・・・勝利を掴んだ先の自由と平和を』


 吸い込まれる様な金色の瞳に・・・返す言葉は無い。

 続けざまに『剣』も頭を下げ、懇願。

 静寂が包み込む部屋にたった一言。

 

 『約束しよう』


 その言葉に感謝を述べ、フロウは再び頭を下げた。




 「・・・かい?大丈夫かい?シャルロット君?」

 「うぇ?・・・ひゃ、ひゃい!」


 気が付くと目の前にはフロウの顔。

 

 「いやさ、顔が随分と赤いから・・・もしかして、あまりお酒は強くないのかな?」

 「そっ、そそそそ、そんな事は・・・」


 即座に我に返り、顔を仰ぎながら口ごもる。

 何とか空気を変えなければ・・・と、ここで尋ねたかった事を思い出した。


 「そ、そういえば・・・せい・・・じゃなくて、フロウさん。この町にはいつまで居られるのですか?」

 「ん?ナナシ君が起きたからね。まぁ、明日か明後日には発とうと思っているよ」


 そんなに早く?

 もう少しゆっくり・・・いや、いっその事このままこの国で・・・

 その考えを察したのか、彼女は優しく微笑む。

 

 「この国は君達が自分達の力で勝ち取ったものだ。ここを守るのは・・・『剣』、君の役目だ。頼んだよ?」

 「・・・はい!」


 そうだ。

 いつまでも頼ってはいられない。

 自分がこの国を・・・皆を守るんだ・・・!

 決意を新たにし・・・ここでもう一つ思い出す。


 「あ・・・そ、そうです!フ、フロウさん。あの・・・その・・・」


 歯切れの悪いシャルロットに首をかしげる。


 「ナ、ナナシさんのす、好きな物って・・・何でしょう!?あっ、えっと、ド、ドロワが・・・その・・・」


 なるほどね。と、彼女は頷く・・・が


 「私もナナシ君の好物はよく知らないし・・・彼に手を出すのはあまりおススメ出来ないかな?」


 どうして?と、聞き返そうとしたが・・・すぐに気が付いた。

 そういう事か。

 ナナシとフロウは・・・そういう関係で・・・

 ドロワが入り込む隙は・・・元々・・・

 顔を赤面させていると、彼女は再び視線を外に戻した。


 「ナナシ君は―――処刑人形だ」

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