夜の閃光
『奪取』の苛烈な攻撃を躱し、防ぎつつフロウは再び魔構式を展開。
しかし、またしても消失。
そして前方からは先程まで構築していた魔法が飛んでくる。
即座に魔力で壁を張り、僅かに威力と速度を殺し何とか回避する。
外したか。と、即座に追撃の魔構式を展開する・・・が、目の前には放たれた魔力。
即座に防御魔法を構築し防ぐが・・・今度は側面から直線状の魔法。
速いな。と、後方へ下がり難なく躱す・・・が、今度は目の前にフロウ。
突っ込んできた!?
僅かに動揺したが即座に防御態勢をとる。
魔力の込められたフロウの蹴りを何とか防ぐが、大きく後方へ下がる。
「これも防ぐのかい?やれやれ・・・中々に手強いじゃないか」
息を整えながら呆れた様に頭を掻く彼女に、『奪取』もまた不敵な笑みを浮かべる。
「それはこちらの台詞よ。流石にやるわね。ねぇ、少し休憩しない?疲れちゃったし、聞きたい事もあるし・・・どうかしら?」
「あぁ、構わないよ。久々にこんなに沢山動いたから私もクタクタだよ。小話なら付き合うとしよう」
警戒せずにその場に座る彼女を見つつ、目を細める。
この女・・・どこまで本気だ?
いや、今はそんな事はどうでもいい。
痺れた腕を何度も握り、折れていない事を確認する。
さっきの話・・・『足からでも魔力を出せる』というのは、あながち嘘ではないようだ。
脚部に魔力を集中させ、一気に距離を詰めての接近戦。
確かに、『剣』の様に近距離型の魔女は存在するが・・・遠距離での戦いを主とする魔女にあるまじき戦術。
こちらが遠距離しか攻撃手段がないと判断してだろうが、それにしても迷いがない。
息を整え、魔力を感知すると共に周囲の状況を確認。
『剣』の方は・・・問題なさそうだ。
流石に普通の魔女では3体の処刑人形を相手にするので精一杯。
いや、むしろよく耐えていると言ったところか。
だが、数の上でも兵の質でもこちらが有利なのは変わらない。
造船所方面からの援護攻撃はあるが、増援が来る気配は無い。
魔獣もいるのだ・・・あちらは負けようがない。
あの亜人種の方は・・・ん?
動きが止まってる?
やはり逃げているだけではなかったか。
しかし何を?
処刑人形との距離はそこまで離れていないぞ?
まもなく接敵するが・・・まさか迎え撃つ気か?
何か策でもあるのか?
どの道・・・正気じゃないな。と、含み笑いをしつつ、フロウを見る。
「それにしても・・・貴方、惜しいわね。その力があれば一国を支配する事も出来るはずよ?ねぇ、今からでも遅くないわ、私の配下にならない?正直、私は奪う事が好きなだけでその後の面倒な事には興味ないの。私の下につくのならこの国は貴方にあげるわ。そうしたら、あの花・・・えっと・・・『タレト』だっけ?好きなだけ食べてもいいわよ?どうかしら?」
「私にこの国を統治しろって言ってるのかい?」
「えぇ、そうよ。悪い話じゃないんじゃない?」
これは本心からの誘い。
ここでこの女を殺すには惜しい。
戦わずして手元に置ければ、自分は更に上に・・・
だが、その考えはたった一言で無に帰る。
「興味ないね」
面を喰らっていると、彼女は鼻で笑う。
「私は今のこの平和をもう少し謳歌したいんだ。誰かの為に時間を使うなんて論外だね」
「平和?今が?」
「あぁ、そうさ。君は私の本当の魔名を知っているのだろう?だったら分かるはずさ。殺す事しかしてこなかった私が今では大切な友人達と下らない事を話して笑っている。これを平和と言わずに何を平和と言うんだい?」
「・・・今の世界の情勢を知らないでしょ?知っていたら平和なんて言葉でてこないわよ?」
「知ったこっちゃないよ。だが、この国は平和だったよ?君達が来るまではね」
「貴方「それに前にも言ったはずだ。私は『これ見よがしに下品な乳袋を見せつける服装をした赤毛の魔女が大っ嫌いなんだ』と。そして・・・あの花の名前は『タレッセ』だ。二度と間違えるな・・・と」
「交渉は決裂ね」
フロウは魔構式を展開するが・・・消失。
前方から襲い掛かる魔法を躱し、態勢を整える。
対峙する『奪取』の魔女は考える。
仲間に引き込めなかったことは残念だが・・・負けは無い。
幾らあの女が強かろうと、その僅かな魔力量ではそろそろ限界を迎えるはず。
こちらの魔力はまだまだ余裕がある。
それに何より対魔女に関して言えば、自分の右に出る者はいない。
『奪取』の魔名は伊達ではないぞ?
相手の構築した魔構式を奪い、自分の物にする。
最後に魔力を流し込むだけだ・・・魔構式の意味など解らなくても問題は無い。
魔法を撃てない魔女と魔法を奪う自分。
勝敗は火を見るよりも明らかだろう。
勝利を確信し、『奪取』は笑みを浮かべ再び猛攻を開始する。
防御魔法すらも奪われ、自らの魔力で何とか防ぎ続けるフロウだが・・・表情は変わらない。
「あっはははは!貴方のその余裕の表情を早く奪ってあげたいわ!!これは避けられるかし―――っ!?」
一瞬・・・ほんの一瞬、気を取られた。
何だ?
亜人種の方の処刑人形の魔力が消えた?
何で?
何が起きた?
一瞬で消えただと?
どういう事だ?
視線を移した先に見えるのは―――巨大な炎の鳥。
何だ・・・あれ・・・?
魔力の塊・・・?
何がどうなって・・・
「素晴らしいタイミングだ・・・パルシィ君」
「しまっ―――」
完全に不意を突かれた・・・が、まだ間に合う。
フロウの構築済みの魔構式を奪い、即座に魔力を流し込む。
瞬間―――空が塗りつぶされ、辺りを闇が支配する。
『奪取』は激しく混乱した。
(何・・・何よ!?どうなっているの!?さっきの魔法・・・攻撃魔法じゃないの!?何で空が暗く・・・夜になった?まさかっ!?)
気が付いた時にはもう遅い。
上空で星が輝くと同時に、無数の魔力が氷の大地に降り注ぐ。
決死の覚悟で防御魔法を張り、何とか防ぐ・・・が、降り注ぐ魔力の間を何かが凄まじい速度で向かって来るではないか。
油断した・・・!と、奥歯を噛み締めるが・・・必死に平静を保つ。
こちらは防御魔法を張っている。
先程の攻撃魔法も防げたのだ、これも問題は無い。
厄介なのはあの女の姿が見えない事だ。
一体どこに・・・
次の瞬間―――世界が反転した。
「・・・え?」
訳が分からず声を漏らした『奪取』の目に映っているのは・・・地面に崩れ落ちる自分の下半身だった。
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