黒髪金眼の魔女
屋敷に辿り着くと、そこにはフロウの姿。
彼女はしゃがみ込み退屈そうな顔をしていたが、2人に気が付くと満面の笑みを浮かべ手を振る。
「やぁやぁ、2人共。随分とおそ・・・くはないね。うん。予想通りの時間だ。ささっ、早く国王に挨拶しようか。私達の為にわざわざ時間を作ってくれたみたいだ。時間は有限。あまり待たせるものじゃないだろう。それが終わったらすぐに作戦会議に入るみたいだから、尿意を感じているのなら早めに済ませておきたまえ」
「ちょっと待てよ、国王に挨拶って・・・聞いてないぞ?」
喜々として話す彼女に聞き返すと、やれやれと肩をすくめる。
「ナナシ君・・・挨拶は基本だろう?駄目だよ?礼儀は大切にしないと。そもそも、素性の知れない私達がいきなり手助けを申し出るなんて、怪しい事この上ないだろう?私達を見極める為に直に見てみたいってところじゃないのかな?・・・まぁ、この国にそんな余裕は無いと思うけどね」
それだけを言い、行こうか。と、彼女は歩き出す。
腑に落ちないが、仕方ない。
彼女の後を追うとパルシィが耳打ちをする。
「フロウちゃん、何だかご機嫌じゃないですか?何かいい事でもあったんでしょうか?」
「さぁ?あいつがおかしいのはいつもの事だろ?それよりも・・・不安なのはあいつが真面に挨拶をするかだよ」
「だ、大丈夫ですよ!・・・多分」
だといいな。と、苦笑いを浮かべる彼女に返事を返す。
それなりに彼女の事は信用しているが・・・正直不安だ。
国王の前でふざけた態度をとったり、意味不明な事を言わないだろうな・・・?
それが逆鱗に触れて処罰されるなんてゴメンだぞ?
次々と浮かび上がる最悪の事態を考えると頭と胃が痛くなる。
そんなナナシの気持ちなど知る由も無く、フロウは扉の前で立ち止まると警備の兵士と言葉を交わす。
それじゃあ、行こうか。
話が終わり中へと進むと、部屋中の視線が集まる。
少し居心地の悪さを感じながら部屋の中を見回す。
(あれが国王・・・?思ったよりも若いな)
容姿は40後半といったところか?
初老と呼ぶにはまだ早い中年の男性がこちらを見つめている。
そしてその隣に佇む女性。
どこかで見た様な・・・
思い出そうとした瞬間―――目を疑った。
当然だ。
目の前に立っていたフロウが急に跪き、頭を下げているのだから。
「国王陛下、此度は拝謁の時間を賜り感謝いたします。それと、挨拶が遅れた事ご容赦ください」
・・・誰?
ナナシとパルシィは唖然とした。
今目の前にいるのは・・・本当にフロウか?
いつもの彼女とは全然違うぞ?
暫く呆けていた2人だったが、我に返り続いて頭を下げる。
頭を上げてくれ。
国王の言葉に従い頭を上げ、フロウは再び口を開く。
「ありがとうございます。ご挨拶が遅れました。私は『不老』の魔女。わが友『硬壁』の魔女との約束の為、この国を守る手助けをさせて頂きたいのです。ご許可を頂けますか?」
再び頭を下げる彼女に続き、2人も下げる。
国王は暫く3人を見つめ、隣にいる女性に視線を移す。
女性は頷き、1歩前に進む。
「陛下、『剣』の魔女が具申いたします。この者達は『硬壁』の魔女、ひいてはタレッセの村の友人でもあり恩人です。私が保証いたします。十分信頼に値するでしょう」
・・・え?
『剣』の魔女って・・・シャルロット!?
思わず顔を上げ女性を見る。
確かに・・・よく見たら彼女の面影がある。
でも・・・。と、何度も瞬きを繰り返す。
ぼさぼさだった髪は綺麗に整えられて艶があり、分厚かった眼鏡を外し隈は消え、話し方や表情からは昨日までは無かった凛々しさが垣間見える。
たった1日でこんなに変わるのか?
本人・・・なのか?
昨日のあの子が実は影武者とか?
状況が理解できずに混乱していると、国王の声。
「わかった。『剣』がそこまで言うのなら、彼女達は信頼できるだろう。『不老』の魔女、国と民を守る為・・・その力を貸してくれ」
「はっ!『不老』の魔女の名において、必ずや守り抜くと誓います」
頭を下げる3人に頷き、国王は部屋中の者全てに号令を出す。
「この時をもってこの者達は同志だ!よいな!」
「「承知しました!!」」
「ではこれより軍議を始める!各々「陛下」
言葉を遮られた国王が視線をフロウに視線を移す。
「私に策がございます。発言をお許し願えますか?」
「私達はすでに同志だ、そう畏まらなくてもよい」
「お心遣い感謝いたします」
「して?策とは?」
頭を上げるとフロウはナナシとパルシィに視線を向ける。
「策の要はこの2人です」
「・・・は?」「・・・え?」
部屋中の視線が一気に向けられ、限界だった頭がパンクした。
意味が分からない2人は間の抜けた顔でフロウを凝視し続けた。
上機嫌で鼻歌を歌い、『奪取』の魔女は風呂を堪能していた。
(明日・・・明日にはあの国は私の物。ふふっ、うふふふ)
「随分と暢気なものだな」
仕切られた布の向こうにいる人影の声に薄く笑う。
「あら・・・お風呂の最中に来るなんて礼儀が無いのね。それとも、貴方も一緒に入る?」
溜息を吐く人影に対し、つれないのね。と、再び笑う。
「それで?どうだったの?」
「あぁ、お前の考えてる通りだ。『始祖』の魔女から『不老』の魔名を受けた魔女は存在しない」
「ふぅん。やっぱり・・・」
目を細め、フロウの顔を思い出す。
黒髪金眼の魔女・・・考えの通りなら・・・
「『始祖』の魔女からって言い方は・・・気になるわね」
眉唾な話だ。と、人影は話始める。
一通りの話を聞き・・・『奪取』の魔女は笑みを浮かべた。
(これは・・・楽しくなりそうね)
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