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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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開戦前夜


 「そっか・・・だから訓練所にいなかったんだ」

 

 あぁ。と、頷く。

 決戦前夜―――明日に備えて準備を進める集団の中にナナシとドロワはいた。

 すまなかったな。

 謝るが彼女は首をかしげる。


 「え?何が?」

 「いや・・・パン作ってきてくれたんだろ?悪いな、食べれなくて」


 その言葉で彼女は納得したのか、首を振る。


 「そんな・・・謝る事じゃないって。気にしないでよ。明日の朝でも夜でも、また持ってきてあげるからさ」

 「あぁ・・・そうだな」


 彼女は笑顔を浮かべているが・・・その顔は何処かぎこちない。 

 当然だ。

 戦争なのだ。

 生きて会える保証など、どこにも無い。

 こちらの考えを察したのか、彼女は必死に口を動かす。


 「だ、大丈夫だよ!絶対に勝てるって!『不老』の魔女様も手伝ってくれるんだし、シャルも見たでしょ!?あの子、少し見ない間に凄い変わってたじゃない。やる気・・・勇気・・・?よくわからないけど、魔女様が2人もいるんだよ?大丈夫、大丈夫!」 

 

 そうだな。と、気丈に振舞う彼女に返事を返し、空を見る。

 

 「そ、それじゃあ・・・私行くね!ナナシ、また明日・・・」

 「あぁ、また明日」


 兵士達の中に駆けていく彼女の背中を見送り、その場を後にする。 

 



 人気の無い広場―――昨日、シャルロットがいた場所にナナシはいた。

 これまで他人事の様に思えていたが、今は違う。

 明日、この国は・・・


 「おやおや、ナナシ君。どうしたんだい?眠れないのかい?駄目じゃないか。明日は大切な日だ。早く眠った方がいい」

 「・・・かもな」


 背後からの声に返事を返し振り返ると、そこにはフロウの姿。

 ニヤニヤと笑っている彼女は・・・いつもの彼女だ。


 「いつものお前に戻ったんだな。安心したよ」

 「ん?いつも?妙な事を言うじゃないか。私はいつも私だよ」

 「嘘つけ。国王と話してる時のお前は全然違ったじゃないか」


 あぁ。と、彼女は軽く笑う。


 「おいおい、ナナシ君。流石の私も礼儀は弁えているよ。あれも私さ。それとも何かい?普段とは違う私を見れて・・・興奮でもしてしまったのかい?気持ちは嬉しいが、それではドロワ君に申し訳が立たないな」

 「それは無いな。・・・ん?ドロワ?何で?」


 何でドロワの名前が?

 意味が分からず聞き返す。


 「おやぁ?気付いていないのかい?彼女は君に好意を持っているじゃないか」

 「・・・はぁ?何で?ついこの前会ったばかりだぞ?そんな訳ないだろ」

 「時間は関係ないだろう?一目惚れ・・・もしくは、戦争への緊張感が君への好意と錯覚させる・・・簡単に言えば吊り橋効果と言うのかな?まぁ、私は彼女じゃないから詳しくは知らないが、好意を持っているのは間違いないだろう」

 「・・・ふーん」

 「モテモテじゃないか、ナナシ君。もしかしたら、記憶を失う前の君は所かまわず女性を振り向かせる軟派な男だったのかもしれないね」


 突然そんな事を言われてもな。

 ケラケラと笑う彼女から視線を外し、空を見上げる・・・と、不意に先程とは違う彼女の声。

 

 「・・・すまないね、ナナシ君」

 「何がだ?」

 「本当は君やパルシィ君には戦ってほしくは無い。平和に旅をしていて欲しかった。だが・・・この国を守るには君達の力が必要なんだ。ナナシ君・・・君達を作戦に組み込み、剰え重要な役割を押し付けた私を恨んでくれ。私はそれを受け止めよう。ただ・・・今回だけは力を貸して欲しい。お願いだ」


 次に視線を向けた時、彼女は頭を下げていた。

 初めて見るその姿に僅かに動揺する。

 フロウも必死なんだな。

 いや、彼女だけではない。

 ドロワもシャルロットも国王も兵士達も国民全員・・・必死だ。

 そんな中・・・自分に何ができる?

 戦いで役に立つとは思えないし、作戦だって思いつかない。

 フロウの作戦を実行するなんて・・・

 身の程はわきまえている。

 自分が役に立つとは思えない。

 でも・・・それでも。


 「まだ・・・責任も覚悟も分んないけどさ、俺はこの国を・・・皆を守りたい。フロウ、俺も戦うからさ・・・頭を上げてくれよ」 

 「・・・ふふっ、流石はナナシ君だ。君は本当に・・・いい子だね」


 柔らかな笑顔を浮かべる彼女を直視できずに視線を逸らす。


 「よーし!それじゃあ、君もその気になってくれた事だし特訓といこうか!」

 「・・・ん?」


 特訓?

 特訓って言ったか?

 え?

 今から?

 もう寝る流れじゃないのか?

 呆気に取られていると、考えを察したのか彼女は肩をすくめる。


 「おいおい、ナナシ君。流石に今の君じゃ作戦を遂行できないよ。時間はもう少ないが・・・まぁ、なんとかなるだろう。今夜は・・・寝かさないよ?」

 「・・・本気かよ?」


 こうして2人の特訓が始まり―――夜が明ける。






 明朝。

 港に住民の姿は無く、代わりにあるのは多数の兵士の姿。

 右翼に100人、左翼に300人、中央に400人と魔女2人。

 一方、水平線の向こうからやってくるのは10隻の軍艦。

 兵士の数は1隻辺り500人。

 そして、魔女が1人。

 802対5001。

 防備は十分だが、数の上では圧倒的に不利。

 険しい表情の『剣』の魔女。

 余裕の表情の『奪取』の魔女。

 無表情の『不老』の魔女。

 ポートラルトの戦い―――開戦。

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