タレッセとの約束
「やぁやぁ、ここにいたのかい。随分と探したよ」
ナナシがこの場を離れてからどれほどの時間が経っただろう?
シャルロットが顔を上げると、そこにはフロウがいた。
満天の星と月に照らされる彼女の顔は、美しさの中に得体の知れない何かを秘めているようにも見える。
何の用ですか?
尋ねようとしたが、すでに彼女は勝手に横に腰を下ろしていた。
「いや~、町を散策していたらこんな時間になってしまったよ。そうだ、お腹は減っていないかい?もしよかったら・・・えっと・・・お!これなんか食べれそうだね」
周囲を見回した彼女は横に生えている草を引っこ抜き、シャルロットに差し出す。
困惑した。
・・・え?
この人・・・何て言ったの?
食べれそう?
そう言った?
これ、草だよね?
食べるって・・・草を?
・・・何で?
訳も分からず呆けるシャルロットを余所に、フロウは草を口に放り込む。
「それにしても、ここはいい町・・・いや、いい国だね。魔女も亜人種も人間も関係なく、皆が互いを尊重し合っている。パルシィ君の話を聞いたかい?あの子、踊りに夢中で勢い余って翼を出しちゃったらしいよ?でも、兵士達は気にするどころか盛り上がる一方でね。今ではもうこの町の舞姫だ。今も酒場で兵士達と楽しんでいるんじゃないかな?」
嬉しそうに報告するフロウとは対照的に、シャルロットは愛想笑いを浮かべ歯切れの悪い返事をする。
「そ、それで・・・『不老』・・・さん?え、えへ・・・い、一体・・・な、何の御用・・・でしょうか・・・?」
「ん?特にないよ?魔女同士、親睦を深めたくてね。それよりもさ、さん付けはよしてくれたまえ。2日後には共に戦う仲じゃないか」
「そ、その事なんですけど・・・」
ケラケラと笑っている彼女の目の奥が―――僅かに変わる。
「わ、私・・・た、戦わなくても・・・っへへ、いいですかね・・・?ど、どうせ役に立たないし・・・いても邪魔になるだけだし・・・。こ、これまでも、タレッセさんが1人で防いでくださっていました。だ、だから・・・その・・・私・・・」
「ふむ・・・そうか。まぁ、私は別に構わないよ」
「・・・えぇ!?い、いいんですかぁ!?」
想定外の答えに思わず声を上げる。
あぁ。と、笑いながら頷く彼女はまるで女神。
思わず頬が緩む。
だが・・・それが間違いである事に気が付くのに時間はかからなかった。
「では、どうしようか?上空からがいいかな?それとも、国民と同じ目線がいいかな?それともいっそ・・・向こう側とか?」
「・・・え?」
喜々として話すフロウだったが・・・意味が分からない。
どうするって・・・何が?
上空?
国民の目線って?
向こう側?
訳も分からず呆然としていると、彼女は首をかしげる。
「どれも好みじゃないのかい?うーん・・・他には何があるかな」
「ちょ、ちょっと待ってください!・・・え?ど、どういう意味か分からなくて・・・。こ、好み?え?」
尚も意味が分からずに聞き返し―――耳を疑った。
「そう、好み。崩壊する国と蹂躙される国民を見る場所の好みさ。私的には・・・そうだねぇ・・・やはり、上空が一番いいと思うんだが。君はどうかな?」
「・・・は?」
何?
何て・・・言った?
崩壊する国?
蹂躙される国民?
・・・何で?
だって・・・この魔女はタレッセさんとの約束を守るって・・・
え?
一気に血の気が引くのが分かる。
先程とはまるで違う身体の震え。
目の焦点が合わず、脂汗が額に滲む。
呼吸の仕方すらも忘れ、まるで魚の様に口をパクパクさせ続け・・・ようやく声を絞り出す。
「な、何言って・・・るんですか?だ、だって・・・タレッセさんとの・・・約束・・・」
「あぁ、そのつもりだったんだがね。私がタレッセ君と交わした約束は『剣の魔女と共に国と村を守る』事だ。肝心の君が戦う気がないのなら、残念だが約束は果たせないよ。まぁ、私としては面倒事を避けれるから別にいいんだが・・・問題はナナシ君とパルシィ君をどう説得するか何だよなぁ。あの2人はきっと戦おうとするだろうし・・・」
眉間に皺を寄せて悩むフロウが・・・悪魔に見えた。
「ちょっ、ちょっと・・・待ってください!!わ、私・・・戦います!戦いますから!!だから「え?いいよ、別に。無理はしてもしょうがないさ。中途半端な覚悟で戦場に出て命を奪うのは一番良くない。殺された方も浮かばれないよ」
必死の懇願も空しく、フロウが大きく伸びながら立ち上がる。
「シャルロット君はさ、敗戦国がどんな扱いを受けるか知っているかい?」
そんな事は知らないし、知りたくも無い。
「まぁ、私が知っているのは国というよりも敵に占領された領土規模の話なんだけどね。酷いもんだったよ。男は労働力や娯楽で殺されるための奴隷。女は慰み者。田畑は荒れ果て、町は瓦礫の山。・・・とはいっても、人間と他種族の戦争の話さ。同じ人間同士ならここまでは酷くならないんじゃないかな?・・・いや、時代が進んで拷問も随分と変わったみたいだからね。もしかしたら、普通に殺されるよりも辛いかもしれないね」
ケラケラと笑うフロウの声は・・・シャルロットには届いていなかった。
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