剣の魔女は小動物?
入り口に立つ女性を見て思わず声を漏らした。
長い金髪は1つに纏め右の肩口から覗かせている。
整った顔立ちは僅かに強張ってはいるが、凛々しさを感じた。
身体は細いが、他の兵士達と同様に鎧を着こんでいる。
大抵の人間は彼女の事を美女というだろう。
戦乙女かどうかは知らないが・・・フロウの言っている事はほぼ正解だ。
すごいな。と、感心して彼女に視線を向ける。
しかし、彼女の表情は想像していたモノとは違った。
てっきり自慢気な顔をしているものだと思ったが、彼女は眉間に皺を寄せて菓子を口に放り込んでいる。
どうしたんだ?と、首をかしげると、女性が緊張した面持ちで話し出す。
「は、初めまして!『不老』の魔女様!それと・・・あれ?名前・・・あれ?えっと・・・その・・・た、旅人さん方!わ、私はドロワと申します!」
・・・ん?
深々と頭を下げる彼女を見て疑問が浮かぶ。
ドロワ?
タレッセはシャルロットと呼んでなかったか?
別人なのか?
再びフロウに視線を向けると、彼女は何かを考えながら紅茶を口に運んでいる。
「えっと・・・この度は「ドロワ君・・・だったかな?堅苦しい挨拶はよそう。それよりも、『剣』の魔女はどこにいるのかな?」
「え?どこって・・・ここに―――」
彼女の向けた視線の先には誰もおらず、激しく動揺して周囲を見回す。
しょ、少々お待ちください!と、彼女は慌ててその場を後にする。
静まり返った部屋の中、フロウの菓子を食べる音だけが静かに響く。
暫くして何やら言い合う声が聞こえ、3人は扉から顔を出し様子を伺う。
「シャ・・・ル!いい・・・加減にしてよ・・・!せっかく・・・魔女様が・・・来てくださってるのよ・・・!早く・・・挨拶なさい・・・!」
「む、むむむむ、無理無理無理無理!!!わ、わた、わたた、私は病気かトイレって事にして!魔女は怖いのよ!?食べられたらどうするの!?」
「貴方も・・・魔女でしょうが・・・!!早く・・・手を・・・離しなさい・・・!!」
「い~~~や~~~だ~~~!!」
そこにあるのは異質な光景。
柱に掴まる少女をドロワが無理やり引き剥がそうとしている。
母親が駄々をこねる子供を叱りつけているかの光景に言葉を失った。
(あれが・・・『剣』の魔女?)
自分の想像とはまるで違うその姿に何度も瞬きをする。
手入れをしていないのか、生まれつきかは分からないがボサボサの紫がかった髪。
瓶底の様に厚い眼鏡の下の目には隈。
サイズの合っていないダボダボの服。
身長はフロウと同じか、やや小さい位だ。
美女というよりは・・・小動物?
戦乙女という言葉がこれほどまでに似合っていない人物がいるだろうか?
正直・・・駄々をこねている彼女よりも、ドロワの方が『剣』の魔女だと言われた方が納得できる。
暫く眺めていると、ようやく引き剥がす事に成功したドロワだったが、勢いそのままにシャルロットと共にその場に転倒する。
いたた。と、尻をさするドロワにナナシとパルシィが手を貸し・・・シャルロットにはフロウが手を差し伸べる。
「大丈夫かい?」
「あ・・・え・・・い、いひひ・・・だ、だいじょうぶ・・・です・・・」
「それはよかった。あぁ、挨拶が遅れたね。私は『不老』だ。『剣』・・・いや、シャルロット君と呼んだ方がいいかな?初めまして。私の事はフロウと呼んでくれ」
「あっ、ご親切・・・に・・・?」
歪な笑みを浮かべ手を取ったが、徐々にシャルロットの顔色が青ざめていく。
ダラダラと汗を流し、視線を泳がせ、速く短い呼吸を繰り返す。
「大丈夫かい?」
「おっ・・・」
「お?」
「お気になさらずうううううううううう!!」
即座に立ち上がり走り出すシャルロットに対し、待ちなさい!と、ドロワが叫ぶ・・・が、彼女の姿はすでに無い。
「随分と嫌われてしまっているみたいだね」
「も、申し訳ありません!!今すぐ連れてきますので・・・!」
肩をすくめるフロウに対し、ドロワが謝罪をするが・・・彼女は首を振る。
「謝る事は無いさ。むしろ、あれくらいの警戒はしておいた方がいい。タレッセ君の名前を出したからと言って、まだ私達が味方だとは限らないからね」
「え?それって・・・」
途端に顔が青ざめる彼女をフロウは笑い飛ばす。
「あぁ、すまない。例え話さ。・・・それよりも、彼女は前からあんな感じなのかい?」
「・・・お恥かしながら、その通りです。ですが、あそこまででは・・・。以前はタレッセ様がいてくださったので」
「ははっ、タレッセ君が世話を焼いている様子が目に浮かぶよ」
彼女は懐かしむ様に笑みを浮かべる。
「えっと・・・すぐに―――」
言いかけた時、外からラッパを吹く音が聞こえる。
何だ!?
一瞬、緊張が走る・・・が
「え?もうこんな時間・・・」
「この音は?」
「訓練の時間です。今まではタレッセ様とシャルが何とか防いでくれていましたけど・・・今回はそうもいかなそうですし」
苦笑いを浮かべるドロワだったが、すぐに考えこむ。
「あぁ、でも・・・シャルを探さないと・・・」
「大丈夫だよ。彼女は私が探そう。魔力感知できる私の方が効率がいいだろう?」
「え?でも「その代わり、お願いがあるんだ」
お願い?と、首をかしげる彼女にフロウは頷く。
「訓練にはナナシ君とパルシィ君も連れて行ってくれないかい?」
「「え?」」
「それは・・・構いませんけど・・・」
「ありがとう、それじゃあ決まりだね。パルシィ君、君は訓練で疲れた兵士をその愛らしい笑顔と素晴らしい踊りで癒してくれたまえ。ナナシ君、君は死に物狂いで戦い方を覚えたまえ。それじゃあ」
それだけを言い残し・・・フロウは鼻歌を歌いながらその場を後にする。
残された3人は暫し呆然としていた。
「とりあえず・・・いこっか」
「あ、あぁ・・・」
「はい・・・」
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