竜とクリスタル:2-2
目を閉じるミア。
しばらくすると、彼女の寝息が聞こえてきた。
穏やかな寝顔。
エリオはじっと彼女の寝顔を眺めていた。
無垢な少女。
護るべき者。
そして二人は近い将来、離別が待っている。
その離別は悲しい別れ。
エリオはまた罪悪感に胸がしめつけられた。
音を立てぬよう、そっと立ち上がり、部屋を出た。
翌朝、さっそくミアとエリオはクリスタルにマナを注ぐことにした。
ところが、思いもよらぬ事態が待っていた。
クリスタルのある神殿まで案内を頼むと、町長は武器を持った大勢の兵士を連れてきたのだった。
「えっ!? 神殿に行くんだよね……?」
「は、はい……」
目をそらす町長。
彼がなにか後ろめたいものを隠しているのがエリオにはわかった。
「神殿はここから遠いのですか?」
「小さな山の頂上にあります。登るのには苦労はしません。ですが……」
「『ですが』?」
「もう何百年も神殿の中に入った者はいないのです」
「どうして?」
「と、とにかく、神殿までお連れしますので、そこで事情を説明いたします」
訝りながらもミアとエリオは護衛の兵士と共に神殿に向かったのだった。
神殿が建てられた山は山道が整備されていて、町長の言うとおり登るのには苦労しなかった。
異変は中腹まで至ったときに起こった。
グオオオオオッ!
「ひゃあああっ!」
突如、怪物の咆哮が響き渡ったのだ。
空気を震わす怖ろしい叫び。
枝に止まっていた小鳥たちが一斉に飛び立つ。
「い、今のは一体……」
「『これ以上近づくな』という警告なのかもしれません……」
町長がそう答える。
警告した怪物の正体とはなんなのか。
それは山頂に立つ神殿に到着したのと同時に判明した。
「おろかな人間どもよ。よくも我が棲み処に足を踏み入れたな」
「竜……」
神殿の前に竜が立ちはだかっていた。
神殿を覆い隠すほどの巨体。
燃え盛る炎よりも赤いウロコ。
「我が名はアルタイル。この山の主なり」
まさか竜が住んでいるとはエリオは思いもしなかった。
しかも人語を解すほどの知性を持っている。
「早々に立ち去れ。さすれば貴様らの無礼を許そう」
「と、いうわけなのです」
町長が心底申し訳なさそうにミアとエリオに言った。
ミアがアルタイルの前に出て名乗る。
「わたしはミア。クリスタルの力を取り戻しにきた聖女なの」
「聖女か。なるほど」
聖女を知っているらしい。
「ちょっとそこをどいてもらっていい? 神殿に入りたいの」
「ならぬ」
「ええーっ!?」
エリオはこの展開は予想していたが、ミアにとっては思いもよらぬ返事らしかった。
今でこそ互いに不干渉の関係であるが、かつて人間と竜は敵対しており、有史より数多の争いを起こしてきた。
アルタイルが友好的な態度でないのは当然なのだ。
「クリスタルは我が所有物。人間ごときに譲る気はない」
「町長さん、そうなの?」
「えっと、そういうことになっています……」