竜とクリスタル:2-3
今から数百年も昔、アルタイルはモーングレイヴに降り立った。
神殿の周辺を縄張りとしたせいで、それ以降、人間たちはクリスタルに近寄れなくなった。
そういう伝承が今日まで言い伝えられてきたという。
「アルタイル。クリスタルはマナがなくなっちゃいそうなの」
「知っている。ここ百年の間にクリスタルのマナは徐々に減少している」
「そのせいで大地が枯れちゃって人間たちは困ってるの。だから聖女のわたしにマナを注がせて。そうしたらすぐにここから出ていくから」
「ならぬ」
「ど、どうして!?」
アルタイルは人間たちを頑なにクリスタルに近づけようとしなかった。
ここが彼の縄張りだから。
あるいは別の理由があるからか。
疑問に思ったエリオがミアに代わって尋ねる。
「僕らがクリスタルにマナを注ぐことであなたに不利益をこうむるとは思えない。クリスタルに僕らを近づけない理由を教えてくれないか」
「クリスタルに力が戻れば、貴様ら人間は再びクリスタルをめぐって争いを起こすだろう」
アルタイルは人間の社会を千年以上も見続けてきた。
長い年月で、人間は幾たびも争いを起こしてきた。
竜からすればとてつもなくくだらない争い。
人間と竜の戦い。
そして人間同士の戦い。
特に、大地の力の源であるマナを生み出すクリスタルを巡る争いは数え切れないほど起こった。
同族同士で殺し合い、クリスタルを奪い合ってきた。
それを目の当たりにしてきたアルタイルは、愚かな人間に失望してしまったのだった。
「クリスタルは人間には過ぎた代物。争いの種となるもの。マナが枯渇するのが運命ならば、その運命におとなしく従うがよい」
それでもミアは食い下がる。
「わたしたち、クリスタルを取り合って争うことはしないよ! みんなで仲良く使うよ!」
「その保証はどこにある」
「そ、それは……」
言い淀むミア。
それ見たか、とアルタイルは見下すように鼻を鳴らす。
「クリスタルが輝きを取り戻せば、人間は再びクリスタルを奪い合って殺し合う。人間とはそういう生き物なのだ。おぼえておけ、小娘よ」
ミアはしょぼんとうなだれる。
「それとも聖女の従者よ。お前がその剣で我を殺してクリスタルを奪うか」
そんなのは到底無理だとエリオにはわかっていた。
いくら剣の腕に覚えがあろうと、竜にかないっこない。
戦いを挑んだ次の瞬間、鋭い牙の生えそろった口で食い殺されてしまうか、あるいは炎の息吹を浴びて消し炭になるのは明らかだった。
町長や兵士たちは黙ったままミアとエリオを見ている。
彼女たちが機知を働かせてこの問題を解決してくれるだろう、ととてつもなく無責任な期待をしているのをエリオは感じ取っていた。




