竜とクリスタル:2-7
「アルタイル。あなたがまた飛べるようになるよう、がんばるからね」
「人間の知恵と技術に期待して待っているとしよう」
ミアはにこにこ笑顔。
アルタイルの皮肉を言葉どおり受け取っていた。
小ばかにされているのにもミアは気付いていない。
それからモーングレイヴの人間たちでアルタイルの翼を作ることになった。
竜の翼を作るなどはじめてのことだったので、完成するかもわからない、手探りの状態ではじまった。
とにかく技術者と呼べる者たちをかき集めて製作にとりかかった。
こうなるともう、ミアとエリオにできることはなく、モーングイレヴの人たちが翼を完成させるのを待つしかなかった。
竜の翼の制作から三日経った。
その間、二人はどうしていたかというと、アルタイルのもとに足しげく通っていたのであった。
「恐れを知らぬ聖女よ。なにゆえ毎日我のもとへと来る」
「来ちゃダメだった?」
「ダメというわけではない。しかし、我がこの地に降り立って数百年、モーングレイヴの人間たちは我を恐れて近づこうとしなかった」
「それは誤解されてたからだよ。アルタイルが怖い竜だって」
「ほう、では、お前はそうではないと?」
「アルタイルはいい竜だよ」
「ハハハハッ」
アルタイルが大笑いする。
草木が揺れ、小動物たちが一斉に逃げだす。
「我がいい竜だとな!」
「わたしがあなたの翼を作るって言ったとき、アルタイルは許してくれた。人間とわかり合おうっていう気持ちがあるんからだよね?」
「……」
一転して黙り込むアルタイル。
なにかを見極めるような目でミアを見下ろしている。
「人間も竜も仲良くしなくちゃ。ここでいっしょに暮らしているだから」
「……なるほど」
アルタイルが四つの足を曲げて地面にふせる。
長い首も地面に垂らし、頭も地面に降ろしてミアを真正面から見つめた。
ミアも物おじせずまっすぐにアルタイルを見る。
「聖女よ。心の清らかな少女よ。お前はなにゆえ他人のために尽くす」
「わたしは自分にできることをやりたいの」
「お前はクリスタルにマナを注ぐ旅をしていると言っていたな。その旅の終点がどこなのか自覚しているのか?」
「……」
「それは死だ」
容赦なくアルタイルは事実をつきつけた。
「聖女の力を使い果たしたとき、聖女の命は失われる」
「……そうなるって聞いた」
「そうだとしてもお前は旅を続けるというのか」
「うん」
いつだかエリオとしたやりとりを今、アルタイルと再びしている。
「お前が使命を捨てて逃げ出しても、誰も責めまい。従者の青年と共にどこか遠くへ去ってもよいのだぞ」
「それは……」
ミアが言い淀む。
葛藤している。
短い葛藤の後、ミアは答えた。
「それは、したくない、かな」
エリオはその返事を予想していたが、言ってほしくなかった。
ただ、彼女が迷っていたのが唯一の救いだった。
心の底ではミアも怖がっていたのだ。




