表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

エピローグ

夏休み最後の日、ヒロは鵙美から……エピローグらしからぬ話を聞く!?


 色んな事があり過ぎた夏休みも、残すところあと一日。最後の一日をどう過ごすかと……考え、ベッドの上で天井を見上げていると、突然――、


 ――タリラリッチャン、ターリーラリッチャン、

 ――タリラリッチャン、ターリーラリッチャン、


 殆ど鳴ったことがないスマホの着信に、ドキッとさせられた――。


 こんな時でも俺の心臓はドキドキと音を立てる……。スマホに表示されるその発信者は……『木南鵙美』だった。


「もしもし、どうした? 通話してくるなんて珍しい……。通話料金かかってしまうぜ?」

 鵙美の家は富裕層のはずだがな……。

「……」


 いつものように明るい鵙美の返事がない……。

 すん、すんと……鼻をすする音が聞こえてくる――。


 鵙美が泣きながら電話をかけてくるなんて……いったいなにがあったんだ――。

「……もう、だめかもしれない」

「なにが……だよ」

 突然のその一言で――下唇がピクピク震えるような、ヤバさを感じる。


 俺と鵙美の関係が……親にでもバレたのか?

 それとも、また急な引っ越しで、東京に戻るとでもいうのだろうか?


 俺の夏休みの思い出は、思い出だけになってしまうのか――。


「明日……、夏休み最後の日に学校で話すから……来て。夏季補習……」

「今ここでは、話せないのか?」

「……」

「……わかった。明日は少し早めに行くようにする」

「ありがとう……ヒロ……」


 ツーツーツー。


 夏休み最後の日に……なにが俺を待っているというのだ――。

 鵙美の声……震えていた……。



 そして……。

 夏休み最終日にもかかわらず……、成績優秀で彼女もいるリア充の俺が――、学校に来た理由。なんだったと思う?


 ……分かった奴がいたら……スゲーぜ……。


 先に教室に着いたと思ったが、もう鵙美が自分の席にポツンと座っていた。

「ゲームはもう完成したんだろ? いったいなにがあったんだよ」

 考えてもみれば、鵙美の心配事といったら、恋や愛だ~ではなく、「うっふんクス森ピクピク」だっていうのは、……容易に想像がつく。俺が一晩中悩んで出た答えがそれだったのだ。


 だから俺をわざわざ学校に呼び出したのだろう。


「大ピンチなの」

 鵙美の瞳からは、涙の流れた跡があった……。

「――ま、まさか……保存していたパソコンが熱でクラッシュしたのか――!」

 だとすれば史上最悪の……バッドエンドだぜ……。今年の残暑は厳しかった。コンピューターの電源装置内部品……恐らくはコンデンサーがぶっ壊れた可能性大だ。

「いや、だが、俺の手元にはCD―Rがある。なんども焼いてくれたCDがあれば、それでなんとかデーターを復元できるだろ!」

 俺のパソコンならチートするアプリを使い、完成したゲームを制作中の状態へ戻す方法もあったはずだ――。

「違うの違うの、違うのよ……」


 なんだ……まさか……まさか!


 ……女の子の日が来ないのか? ~って――!


 ――いいや! ちょっと待て! 待て! 待て~い!

 断じて違うからなっ!

 勝手に変な想像してニヤニヤしている奴がいたら言っておきたい! 鵙美の部屋には遊びに行っただけだぞ! 俺は、なんもしてないぞ!


 なんも~!


「……だったら、いったいなにが大ピンチなんだ……」

 汗を腕で拭き取る。窓の外は夏の太陽が痛いくらいに眩しく、教室内が逆に真っ暗に感じる。


 鵙美の口から発せられたピンチの内容は……俺の予想を遥かに超えていた!

「――応募の条件に、文字数の制限があったの。私はてっきり、短くないといけないと思っていたのに、逆で……。締め切り時点で十万文字を超えてないといけないの……でも、でも……まだ今の段階で、


 ――たったの三万四千文字なの~!」


 ――! たったの三万四千文字だと――!

「なんだって! どうすりゃいいんだよ? もうエピローグ終わっちまうぞ?」


 ……こんな会話をだらだら続けるつもりかよ! そんなのをゲームに盛り込めるわけがない!


「締め切りっていつなんだ? ……なんとかならないのか? 業界の人とかに、知り合いはいないのかよ!」

「アイドル時代のコネは使わないって決めてるの。そんなチートみたいなことしないの!」


 ――じゃあ本名でゲーム作れって怒ってやりたい~!


「二学期ってどうかな? また二学期に新たなる女子が……」

 鵙美は指を折って何かを数える……?

「二学期になって、新しい女子が七人増えるってのはどう? それだったら十分、十万文字を超えられるわ?」

「はあ――? 女子が七人増えるだと?」


 ……ハーレムじゃないか。……現実に起こって欲しいかもだが……。

「じゃあ転校生が七人で決まりね。早速、名前と性格とスリーサイズと不自然のないようなストーリを考えて!」

「まてまてまて!」

 頭の中に……めくるめく分岐をイメージする……。急に七人の転校生?

 今まで作った分岐が五つから、最低は十二へと増やすと……。えーっと……?


「無理だ! 不可(ふか)~!」

「あきらめないの! あきらめたらそこで終わりよ? それにまだ時間はあるわ!」

「もう一度聞く! ……締め切りっていつなんだよ!」

「九月一日!」


 右手をグーして片方の口だけをクイって上げて自信満々に言うな――!

「明日じゃねーか! バカ!」

「……まさに、『夏休みの宿題を君が手伝ってくれた』状態ね!」

 そうウインクする鵙美に、焦りの欠片も見当たらないのが、今世紀最大級でムカつく~!

「なんなんだよそれは!」

 ……王道の恋愛シミュレーションゲームか?


 さらに鵙美が、パッと閃いた顔を見せる――。

「最後のシーンで、「ああああ」って……六万六千文字、埋め尽くすってダメかなあ?」

「――絶対ダメだ! 審査する人の怒りを買う~!」

「それでね、「あ」の中に一つだけ「お」が入っているってことにしたら、面白くない?」

「面白くない! 絶対探してくれない~!」

「それでね、実は全部「あ」でしたって作戦!」

 ……俺が審査する人なら……。


 ああああああおっ! って絶叫するかも知れね――!


 まだ他に誰も来ない二人だけの教室に、緊迫感のない笑い声が響き続けていた――。



「果たして『うっふんクス森ピクピク完成版』は締切りにちゃんと間に合ったのでしょうか? 結果報告を楽しみに待ちましょう。キャラクターボイス、木南鵙美がお送りしました~バイバーイ!」



 GOOD END!


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


ご愛読ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ