エピローグ
夏休み最後の日、ヒロは鵙美から……エピローグらしからぬ話を聞く!?
色んな事があり過ぎた夏休みも、残すところあと一日。最後の一日をどう過ごすかと……考え、ベッドの上で天井を見上げていると、突然――、
――タリラリッチャン、ターリーラリッチャン、
――タリラリッチャン、ターリーラリッチャン、
殆ど鳴ったことがないスマホの着信に、ドキッとさせられた――。
こんな時でも俺の心臓はドキドキと音を立てる……。スマホに表示されるその発信者は……『木南鵙美』だった。
「もしもし、どうした? 通話してくるなんて珍しい……。通話料金かかってしまうぜ?」
鵙美の家は富裕層のはずだがな……。
「……」
いつものように明るい鵙美の返事がない……。
すん、すんと……鼻をすする音が聞こえてくる――。
鵙美が泣きながら電話をかけてくるなんて……いったいなにがあったんだ――。
「……もう、だめかもしれない」
「なにが……だよ」
突然のその一言で――下唇がピクピク震えるような、ヤバさを感じる。
俺と鵙美の関係が……親にでもバレたのか?
それとも、また急な引っ越しで、東京に戻るとでもいうのだろうか?
俺の夏休みの思い出は、思い出だけになってしまうのか――。
「明日……、夏休み最後の日に学校で話すから……来て。夏季補習……」
「今ここでは、話せないのか?」
「……」
「……わかった。明日は少し早めに行くようにする」
「ありがとう……ヒロ……」
ツーツーツー。
夏休み最後の日に……なにが俺を待っているというのだ――。
鵙美の声……震えていた……。
そして……。
夏休み最終日にもかかわらず……、成績優秀で彼女もいるリア充の俺が――、学校に来た理由。なんだったと思う?
……分かった奴がいたら……スゲーぜ……。
先に教室に着いたと思ったが、もう鵙美が自分の席にポツンと座っていた。
「ゲームはもう完成したんだろ? いったいなにがあったんだよ」
考えてもみれば、鵙美の心配事といったら、恋や愛だ~ではなく、「うっふんクス森ピクピク」だっていうのは、……容易に想像がつく。俺が一晩中悩んで出た答えがそれだったのだ。
だから俺をわざわざ学校に呼び出したのだろう。
「大ピンチなの」
鵙美の瞳からは、涙の流れた跡があった……。
「――ま、まさか……保存していたパソコンが熱でクラッシュしたのか――!」
だとすれば史上最悪の……バッドエンドだぜ……。今年の残暑は厳しかった。コンピューターの電源装置内部品……恐らくはコンデンサーがぶっ壊れた可能性大だ。
「いや、だが、俺の手元にはCD―Rがある。なんども焼いてくれたCDがあれば、それでなんとかデーターを復元できるだろ!」
俺のパソコンならチートするアプリを使い、完成したゲームを制作中の状態へ戻す方法もあったはずだ――。
「違うの違うの、違うのよ……」
なんだ……まさか……まさか!
……女の子の日が来ないのか? ~って――!
――いいや! ちょっと待て! 待て! 待て~い!
断じて違うからなっ!
勝手に変な想像してニヤニヤしている奴がいたら言っておきたい! 鵙美の部屋には遊びに行っただけだぞ! 俺は、なんもしてないぞ!
なんも~!
「……だったら、いったいなにが大ピンチなんだ……」
汗を腕で拭き取る。窓の外は夏の太陽が痛いくらいに眩しく、教室内が逆に真っ暗に感じる。
鵙美の口から発せられたピンチの内容は……俺の予想を遥かに超えていた!
「――応募の条件に、文字数の制限があったの。私はてっきり、短くないといけないと思っていたのに、逆で……。締め切り時点で十万文字を超えてないといけないの……でも、でも……まだ今の段階で、
――たったの三万四千文字なの~!」
――! たったの三万四千文字だと――!
「なんだって! どうすりゃいいんだよ? もうエピローグ終わっちまうぞ?」
……こんな会話をだらだら続けるつもりかよ! そんなのをゲームに盛り込めるわけがない!
「締め切りっていつなんだ? ……なんとかならないのか? 業界の人とかに、知り合いはいないのかよ!」
「アイドル時代のコネは使わないって決めてるの。そんなチートみたいなことしないの!」
――じゃあ本名でゲーム作れって怒ってやりたい~!
「二学期ってどうかな? また二学期に新たなる女子が……」
鵙美は指を折って何かを数える……?
「二学期になって、新しい女子が七人増えるってのはどう? それだったら十分、十万文字を超えられるわ?」
「はあ――? 女子が七人増えるだと?」
……ハーレムじゃないか。……現実に起こって欲しいかもだが……。
「じゃあ転校生が七人で決まりね。早速、名前と性格とスリーサイズと不自然のないようなストーリを考えて!」
「まてまてまて!」
頭の中に……めくるめく分岐をイメージする……。急に七人の転校生?
今まで作った分岐が五つから、最低は十二へと増やすと……。えーっと……?
「無理だ! 不可~!」
「あきらめないの! あきらめたらそこで終わりよ? それにまだ時間はあるわ!」
「もう一度聞く! ……締め切りっていつなんだよ!」
「九月一日!」
右手をグーして片方の口だけをクイって上げて自信満々に言うな――!
「明日じゃねーか! バカ!」
「……まさに、『夏休みの宿題を君が手伝ってくれた』状態ね!」
そうウインクする鵙美に、焦りの欠片も見当たらないのが、今世紀最大級でムカつく~!
「なんなんだよそれは!」
……王道の恋愛シミュレーションゲームか?
さらに鵙美が、パッと閃いた顔を見せる――。
「最後のシーンで、「ああああ」って……六万六千文字、埋め尽くすってダメかなあ?」
「――絶対ダメだ! 審査する人の怒りを買う~!」
「それでね、「あ」の中に一つだけ「お」が入っているってことにしたら、面白くない?」
「面白くない! 絶対探してくれない~!」
「それでね、実は全部「あ」でしたって作戦!」
……俺が審査する人なら……。
ああああああおっ! って絶叫するかも知れね――!
まだ他に誰も来ない二人だけの教室に、緊迫感のない笑い声が響き続けていた――。
「果たして『うっふんクス森ピクピク完成版』は締切りにちゃんと間に合ったのでしょうか? 結果報告を楽しみに待ちましょう。キャラクターボイス、木南鵙美がお送りしました~バイバーイ!」
GOOD END!




