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叔父一家のその後(西園夕紀視点)

光莉の従妹・西園夕紀視点で叔父一家のその後です。

本編と違い、ちょっと暗いです。

何もかも手に入れていたのに。落ちるのは一瞬だった――


お父様が被後見人の財産横領などの刑により実刑判決。

その上、根抵当が入っていた屋敷は資金が返せず、差押えられ、のちに競売に。

そのため家財道具も全て売りに出され、会社も人手に渡ってしまった。


だから私のために揃えられた宝飾品やピアノも全て奪われてしまい、少ない所持品のままアパート暮らしに。

しかも六畳一間。ありえない。私の部屋のクローゼットにも満たない空間で生活しろというの? 私とお母様とで?


「狭っ」

ぐるりと見回せば、色褪せた備え付けのカーテンや寂しげなキッチンもどき。

室内は本当に狭く、ほんの数歩で行ったり来たり出来る。

それなのに部屋にぎっしりと詰まっている段ボールの山々のせいで、尚更狭く感じてしまう。


「こんなの恥ずかしくて学校の友達には言えないわ!」

「あら? 言わずに済むわよ。だって、学校なんて通わなくてもいいのだから」

疲れ切ったお母様が、求人誌を眺めながらぽつりと呟く。

あの頃は綺麗に着飾っていたのに、今は見る影もない。

毎日エステに通っていた肌は、ボロボロ。


「は? 冗談でしょ?」

「冗談なんかじゃないわ。とっくに退学届け出して来たわよ」

「なんで勝手な事するの!?」

「そんなお金何処にあるの? 明日からの生活すらどうしていいのかわからないっていうのに……貴方は呑気ね。住む部屋の心配は暫くしなくてもいいけれども、働かないとご飯も食べられないのよ。あぁ、そうそう。だから、夕紀も働きなさいね」

「なんで私が!?」

「勝手に魔法のように食事が出るわけじゃないのよ? 当然でしょ。あぁ、本当にどうしてこうなってしまったのかしら。あの人の逮捕で実家からも勘当されてしまったし……」

「なんで? そんなの決まっているでしょ? すべてはあの女のせいよ。光莉のせい! あいつがお父様を訴えなければよかったのだから!」

そうだ。あの女が全て悪い。

あの女が私達の幸せを壊した。一瞬で。




仕事と言っても、なかなか見つからず。

履歴書をどれくらい書いたか覚えてない。

面接まで行っても経歴を見られ、散々嫌味を言われて終わった。

それでもやっと受かり手に入れたのは、とある会社の事務バイトだった。


「西園さん! また間違えている!」

そう言って、髪を一つに結った地味な女が机に叩きつけたのは、私が作った書類だった。

それを眺めながら、うんざりとした気分になる。


なんて煩い女なのだろうか。めんどい……

あぁ、働きたくなんてない。私は使われるより使う側なのに……


「でしたら、笹原主任がやればよろしいんじゃないかしら?」

私がそう告げれば、書類を叩きつけた笹原主任はぐっと眉間に皺を寄せる。


「はぁ!? なら、貴方の仕事は何っ!? もういいわ! 貴方と話していると疲れる。資料室の整理でもしてきなさい。この書類は秋野さん、やっておいて」

そう言って隣の席の女へと主任が書類を渡し、立ち去った。

だが、また面倒な事に、隣りの席の女が般若の形相でこちらを睨んできてしまう。


「あんたさ、いい加減にしてくれない? 何度尻拭いすればいいわけ? 自分の仕事が進まないんだけど」

「さぁ? それは貴方の要領が悪いんじゃないかしら。私のせいにしないで」

私はそう告げると、立ち上がり資料室へと向かう。

後方から女のヒステリックな叫びが聞こえたけれども構わずに。


――……あぁ、煩い毎日だ。いつも怒鳴られて耳障りな声を聞く日々。


食事も以前のような物は食卓には出ず、スーパーの値引き品。

今までとは真逆の生活。服も安いものばかり身に纏っている。


「爪が……」

ふと目にしたドアノブを握っている指先。以前は周一で手入れをしにネイルサロンに通っていたのに、今では見る影もない。


あの女は今何をしているのだろうか。

どこかで私達を笑っているのだろうか。

自分ばかり、のうのうと幸せに暮らしているのだろうか。


許せない。ムカつく。何故、私ばかりこんな目に――





日々、光莉への憎しみが募っていく。

どんどん私の心へどす黒い感情が浸食してくる。

そんなある日だった。

偶然町であの女の姿を見かけたのは。


ふと仕事に向かう途中、反対側の路地へと視線を向ければ、一組の恋人が目に入ってきた。それは華やかでやたらと幸せオーラ全快の目立つ二人。

それは光莉と黒崎家の次男・黒崎当麻の姿だった。

二人は手を繋ぎ、時々顔を近づけ微笑みあっている。


それを見て、私の感情が爆発してしまう。


何故、あの女は笑っているのだろう!

私が不幸せなのに!

全部お前のせいなのに!


車が行き交う大通りを駆け抜け、あいつらにこの憎しみをぶつけようと、ガードレールへと手をかけた時だった。

背に「あの子達を傷つけたら容赦しないよ」という、感情を伴わない声が掛けられたのは。

振り返るとそこには、黒崎彩人の姿があった。

スーツの上に黒のコートを羽織り、氷のような眼差しで私を見ている。


「私にはその資格があるわ! 誰が私をこんな目に合せているわけ? あの女でしょうが。優しかったお母様とは顔を合わせるとお金の事で喧嘩ばかり、お父様は塀の中。家族がバラバラだわ。それもこれもあの女が全て奪ったせいよ」

「それは君達一家の自業自得なだけ。光莉ちゃんを逆恨みするのは辞めて欲しいね。それに、君は彼女の慈悲を知らないようだ。ねぇ、君達のアパートの家賃と光熱費や雑費って誰が払っていると思う?」

「……は? お母様でしょ?」

「聞いてないのかい? 僕だよ。支払者は。ただし、生活が落ち着く一年間限定で」

「聞いてないわ。どうして?」

そう言えば、お母様が引っ越した当時言っていたっけ。

住む部屋の心配は暫くしなくてもいいって。


「まさか、貴方私の事を……」

「冗談にしても不愉快だ。あるわけがない。僕は愚かな子は嫌いだからね。光莉ちゃんだよ。彼女が身一つで追い出された君達を気遣ってくれたんだ。保証人つかないとなかなか部屋も貸してくれないし。そんな優しい彼女を傷つけたら、どうなるかわかるよね? 打ち切るよ。約束の一年は経ってないけど」

「脅すわけ!?」

「あぁ、それから君がやっと手に入れたバイト先。あれどうして働けたか知っている?」

「なっ……」

「僕だよ。監視しやすいように。光莉ちゃんが傷ついたら、彼女を愛する当麻も傷つく。だから、僕の可愛い弟とその彼女の幸せを壊したら許さないから。覚えておいて」

そう言い残し、悪魔のような男は立ち去って行った。


その姿が人込みに消えると同時に私の体の力が抜け、その場に崩れ落ちる。

目の前が一気に色を失い、灰色で冷たい世界になっていった。



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