外伝 地上の星 天空のダイヤモンド
少年は兵士だった。奇妙な傭兵二人に出会い。否。出遭うことで彼の運命は大きく変わっていく。後の世で人は彼を『地上の星』と呼んだ。
THBFシリーズの外伝ですがTHBFそのものは出てきません。
主人公・朝日の親戚の二人の正体を示唆するお話です。
引き金を引く。少女が、大人が、おなかの大きな女性が。老人が躍った。
叱咤と殴打に脅えながら彼らは地雷原に駆けていく。そのあとを大人たちが追いかけてくる。
奪い、殺し、弄び、男は拷問して殺し、女は弄んで殺すか妻にする。
「お前にも分け前をやろう」そんなことを言われても少し困る。『まだできない』からだ。
女たちは子供。つまり彼を一番恐れる。犯されることはなく腹立ちまぎれに殺されるからだ。
最初は大人たちや年上の少年たちをまねて舌や手で揉みしだいたりしていたが、途中で面倒になった彼は女の性器に銃口を突っ込んで適当にうちまくって潰した。
彼の母より年上の女性はビクンビクンと跳ねて絶命した。
何年前からこんな生活をしているのか覚えていないし覚えていたくもない。
モタモタすれば撃たれる。食べ物は奪うしかない。運が悪ければ地雷原で手足をもがれて放置される。
運が良ければ多少の分け前に与れるが、まだ子供の彼は女を犯すことができない。
腹立ちまぎれに突撃銃を乱射して女を殺す。彼に上司が戯れに割り当てる女は老婆といってよい。からかわれているだけで不愉快なのだ。
彼とて昔は家族がいたような気もする。
母と呼ぶ人がいたような気もする。村が焼かれた日に犯されて殺されたが。
彼は運が良ければ女を犯せる程度には生きられるかもしれないが、それは絶対ない未来だろうとぼんやり思う。
そんなことを思う日すら貴重なのが実態だ。
今日も地雷原に銃で追い立てられ、略奪の手伝いをする。
そんな日々が死ぬまで、そう死ぬまで続くはずだったのだ。その日までは。
「お前。野球やろうぜ」
その男の風体は『変』そのものだった。
よくわからないツナギだか服だかを身にまとい、上司たちがたまに持っている携帯電話のような機械を体のあちこちにつけた男。武器は細身の湾曲した剣一振り。彼の知るナイフや鉈ではない。
しかし彼の興味を最も引いたのは男ではなかった。その男の連れだ。
まだ『出来ない』ことを忘れて欲情するほど美しい女だった。
全身を薄絹で覆い、要所を隠し、体中に文様を描いた黒髪の女は艶然と微笑むと彼を一蹴してみせた。
彼のみではない。女を見て歓喜の声を上げた上司は皆指先すら残らぬ姿になった。
彼と同じく、一瞬の判断能力を女の容姿に奪われ、あるいは男の珍奇な提案に思考停止した少年たちだけが生き残った。
「暇だし、野球やろうぜ。お前ピッチャー。で、お前はバッターな」
棒切れを渡され、彼は呆然と男の顔を見た。人種が違うので歳はわからないが青年らしい。
「俺、ハルカナルな」「??????」名前らしい。
「ダイチ。戯れが過ぎる」美女はため息をつくが、止める気はないらしく、虚空から次々と野球道具を出して見せる。
少年たちの欲望にぎらつく瞳に苦笑する女はニヤリと笑ってみせた。
「私は沙玖夜。魔王だ……おっと。今世はただの人間の妻だったな」
この二人組が何を言っているのか彼をはじめとする少年たちには理解できなかった。
青年はボールを投げる。
言われたとおりに棒で打ち返そうとするが難しい。
空振り。大笑いする男に彼らは銃口を向けたが。
「無駄無駄♪」あっというまに彼らの突撃銃は鉄クズに変わった。
男は上司たちと違い、過度な暴力は振るわない。
そして上司がコロコロ変わったり、所属が変わることもない。
ただ、毎日毎日野球をやらされる。それだけだった。
女だが。指一本触れられなかった。まるで『壁があるように』。
こんなことをしていていいのだろうか。
ぼんやりそう思う日もあったが、小さな球を追い、投げ、打ち返すのは子供だった彼には『楽しい』事だった。
かつての楽しみである虐殺は行わなくなった。というか、男には全くかなわなかった。剣一本しか持っていない筈なのに。
「『勇者』に勝てるわけないじゃん」彼は嘯いて見せたが意味が解らない。解ることは男に暴力で勝てる見込みは全くないという事実だけだった。
隙あればと『可能』な者たちとそうでない者たちで女に何度も襲い掛かろうと試みたが。こちらも手も足も出せなかった。
謎の壁に阻まれ、防がれ、逆にからかわれる。
最後に彼が女に襲い掛かろうとした日、女は黄昏るように空を眺めていた。
今なら犯せると女に歩み寄ると、女は腰の透明な短剣をそっと抜き。
……天に投げた。
短剣はまっすぐ空に飛んでいき、雲を引き裂いた。
女曰く。「監視衛星を破壊した」という話だったが関わらないほうが賢明である。
今日も男が球を投げる。
彼はニヤリと笑う。遅い。
思いっきりふり、あの女のダイヤモンドの剣のように空に球が飛んでいく楽しい空想に浸る。
しかし男の投げた球は途中で勢いを大きく減じ、ぽたりと落ちた。
なんだこれは。
今度は右に曲がった。その次は左に曲がった。
しまいには上にそりあがってきた。
激高する彼に男は腹を抱えて笑いながら教えてくれた。
これを『変化球』というらしい。
男の『変化球』を仲間たちが真似しだした。負けていられない。
彼は棒。すなわちバットを振る練習を深夜まで繰り返し、誰より早く走り、誰より周囲を監視して一気に盗塁するカンを養った。
戦場とくらべれば楽だと思ったが、これはこれで大変だとすぐに知ることとなった。
ある日彼は女に告げた。犯させろと。
その言葉を聞いて女は楽しそうに笑う。
バカにされていると思った彼は銃を探すがここにはない。
「私などよりもっと美しく、もっといい女は世界中にいるぞ」女はそう告げた。
世界?
彼の世界は殺し殺され、奪い奪われる世界でしかない。
「女はモノではないぞ」モノだろう?
「この世にはお前と似た境遇から世界一のモデルになった女もいる」モデルという言葉の意味は解らないがすごいらしい。
男は彼に。彼らに告げた。
「世界はまだ君を知らない」と。
意味は解らないが、大切なことに思えた。
年月が過ぎた。
彼のプレイ動画はインターネットを経由して海の向こうの知らない国のスカウトの目にとまった。
今の彼は美しい妻と多大な富を得たスーパープレイヤーである。
あの男と女の行方は知らないが、野球と出会わせてくれたという意味では感謝している。
あのダイヤモンドの剣のように、今宵も空にボールを導く。
そうすれば、いつかあの男に、あの女に会える気がする。
「世界は まだ君を知らない」
もっと。もっと。もっと遠くにこの一球を。
遠い遠いアフリカの地で『星』を見る子供たちに届けるために。
※ 前世の大地さんと沙玖夜様の冒険は『人類は滅亡しやがりました。』をご覧ください。




