謎めいた女の子
お父さんが車に戻ってきたのは、ちょうどお母さんが僕の質問に答えている途中で、その言葉がまだ僕たちの間に宙ぶらりんのまま残っているときだった。
冷たい山の空気を締め出すようにドアがカチッと閉まった瞬間、お父さんの顔に戸惑いが広がった。いつもより高くなっているお母さんの声に、眉がぎゅっと寄せられて、視線が一瞬僕をかすめたあと、お母さんの方へと落ち着いた。
「どうしたの、お母さん」
お母さんはすぐにお父さんの方を向いた。姿勢は硬く、両手は膝の近くに置かれたままで、肩のラインには緊張がはっきりと表れていた。
「ただね、ギランが、また羽田駅で会ったあの女の子を見たって言うのよ。二日前に会った子。今、森の中でまた見たって。しかも服が、昨日見た巫女の服と同じだったって」
そう言い終えると、お母さんは胸の前で腕を組んで、あごに力を入れた。
「山とか森にいるときに、そういう話をしちゃだめだって、もうギランには言ったの。禁止なんだから」お母さんの声は変わらず力強かったけど、その下に、心配の糸が一本、確かに走っているのが聞こえた。
お父さんはしばらく黙ったまま、視線を一瞬だけ外の木々に向けた。裸の枝には霜がまとわりついていて、その向こうには、現実離れして見えるくらい澄んだ空が広がっていた。
手をあごに当てて、無精ひげをゆっくりとなでた。何かを頭の中で転がしているときに、いつもする仕草だった。
「うーん……」
それから僕の方を振り向いた。心配というより、興味を持っているような表情だった。
「ギラン、もう少し詳しく教えてくれるか?」
その声は優しくて、辛抱強くて、正直に答えたくなるような口調だった。
口を開くより先に、お母さんが鋭く割って入ってきて、その声の強さに、僕は思わず身を引いた。
「お父さん!」
お母さんの声はまた高くなって、さっきよりも鋭く、車の狭い空間いっぱいに響いた。
「禁止のことを話題にするなって、もう言ったでしょ」
お母さんは長く息を吐いた。お父さんが開けたドアから染み込んできた冷気で、車の中でさえ、その息がうっすらと白く曇った。肩が一度上下してから、また続けた。
「二人ともホラーの話が好きなのはわかってる。もう何年も、こういう場所に来てるんだから」お母さんの声は少しだけ揺れて、苛立ちと、もっと柔らかい何かの間で迷っているみたいだった。「でも、だからこそ、話しちゃいけないことがあるって、あなたが一番わかってるはずでしょう」
お父さんは、すでに苛立ちで少しこわばっていたお母さんの顔をちらっと見てから、小さく笑った。
「へへ……わかった、わかった」
キーを回して、もう一度エンジンをかけ直そうとした。指先に少し力が入って、フロントガラス越しにも、短く白い息が見えた。
「ごめんね」
お母さんの方をちらっと見ながら、口の端にかすかな笑みが浮かんだ。少し照れくさそうな、悪いことをしたとわかっている少年みたいな表情だった。
「ただ気になっただけだよ、それだけ」
もう一度キーを回してみたけど、エンジンはまだかからなかった。弱々しく空回りしたあと、乾いた冬の空気の中で静かに止まった。少ししてから、お父さんはドアを開けて外に身を乗り出し、車の状態についてガイドさんと話し始めた。前輪のそばに一度しゃがみ込んで、タイヤの溝を確かめてから、また立ち上がった。風の中で低く抑えた声。ガイドさんはうなずきながら聞いていて、二人の息が、その間で白く立ちのぼっていた。
それから運転席に戻ってきて、片手をハンドルに置いた。お母さんとのやり取りが落ち着いたおかげで、肩から少し力が抜けているのがわかった。
こちらを振り向いた。
「ギラン」
「うん、お父さん?」
何を言おうとしているのか気になって、少し姿勢を正した。
「昔な……お父さんとお母さんも、うまく説明できないようなことを経験したことがあるんだ」ゆっくりと、その言葉が今でも自分にしっくりくるかどうか確かめるみたいに、お父さんは言った。
僕の目は、まっすぐお父さんに向いた。体全体が、急に集中し始めた。
「本当に?」
「ああ」お父さんの声は、いつもより少し柔らかくて、遠くにあった。記憶そのものが、瞳のずっと奥のどこかに住んでいるみたいだった。
「お母さんとまだ付き合っていたころのことだよ」
目がぱっと輝いた。胸の中に、小さな興奮が湧き上がった。
「本当に、お父さん?」
すぐに姿勢をまっすぐにして、座席の端を両手で握りしめた。
「ギランに教えて、お父さん」
お父さんは、すでにかすかに不機嫌そうな顔になっていたお母さんの方をちらっと見てから、少しだけ微笑んだ。面白がっているというより、何か考え込んでいるような笑み。視線が一瞬、どこか遠くをさまよった。
「その時が来たら、教えてあげるよ」
「今はまず、この旅を終わらせよう」その言葉は優しく、でもそれ以上聞いちゃいけないとわかるくらいには、はっきりしていた。
お父さんと僕がそれ以上話す前に、お母さんの声が急に会話を切って入ってきた。鋭くて、有無を言わせない声だった。
「二人とも、やめて!もう十分!」
お母さんの上がった声に、お父さんは驚いて、ハンドルを握る手が少しびくっと動いた。お母さんの顔はどこか張りつめていて、眉の間には小さなしわが寄っていた。
「今はこの旅のことだけ考えましょう。それから、私たちや、この子が、また同じ目に遭いませんように」最後のところで、お母さんの声は少しだけ柔らかくなって、厳しさの下から心配がにじみ出ていた。「それに、もう浄化の儀式? なんて呼ぶのか知らないけど、それをちゃんとやって、耳無し悪魔を追い払ったじゃない。あれ以来、急に耳が聞こえなくなるようなことも、もう起きてないでしょう」
お父さんはもう一度エンジンをかけようとしながら、静かに笑った。
「へへ……わかった、わかった。外に出て、ガイドさんに聞いてみるよ。さっきちょっと試したら、実際うまくいったみたいだったし」
そう言うと、お父さんは車を降りて、ちょうどボンネットを確認し終えて閉じたばかりのガイドさんのところへ歩いていった。外で少し話してから、二人とも車に戻ってきた。お父さんは寒さに手をこすり合わせながら、また乗り込んだ。
しばらくして、エンジンはついに、本当にかかった。低く、安定したうなりに落ち着いて、車の中に、誰も口には出さない安堵が満ちた。
ずっと待っていた分、ようやく振り向いて、遠くにそびえる富士山の美しさを、もう一度ちゃんと見ようとした。その斜面と頂上は、一年の中で一番寒い季節にまとわりつく分厚い白い雪に覆われていた。
でも僕の目が、富士山の頂上にもう一度届く前に……
僕と同じくらいの年の女の子が見えた。巫女の服を着た、あの子が。左側の車の窓のすぐ前に立っていた。
体全体が、その場で凍りついた。どの筋肉も、動くことを拒んでいた。
あまりに驚いて、一言も声が出なかった。両手は座席をつかんだままで、指の関節が白くなっていた。
その女の子を見つめたまま、声がのどの奥に引っかかった。心臓の音が耳の中で大きく響いて、エンジンのうなりさえかき消してしまうくらいだった。




