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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第6話 ピクシス

 「次」


 「ピノのスキャン」


 ピノが空中で固まった。


 「え」


 僕は装置を持ち上げる。


 「じっとして」


 ピノが慌てて澪の後ろに隠れた。


 「ミオ!」


 「なんか機械出してきた!」


 澪がため息をつく。


 そして僕を見る。


 「……天原くん」


 「なに?」


 「今日は長くなりそうですね」


 僕は答えた。


 「まだ始まったばかり」


 「やだーーー!! スキャン怖いーーー!!」


 ピノの悲鳴が部室に響いた。


 手のひらサイズの小さな体が、慌てて澪の背中の後ろに隠れる。

 ぴょこんと澪の肩から顔だけ出して、こっちを警戒していた。


 「ミオ! なんか変な機械持ってる!」


 澪は腕を組んで僕を見た。


 「……天原くん」


 「なに?」


 「ピノ怖がってます」


 「スキャンするだけ」


 「それを普通は怖いって言うんです」


 僕は装置を持ったまま首をかしげる。


 「痛くない」


 ピノが叫ぶ。


 「それ研究者が言うやつ!!」


 僕は真顔で言う。


 「本当に痛くない」


 澪がため息をついた。


 「そのやり取り、信用度ゼロなんですよ」


 ピノは澪の肩にしがみついたまま震えている。


 「ミオ……この子やばい……」


 澪がピノをなだめるように軽く撫でた。


 「大丈夫、大丈夫」


 それから僕を見る。


 「……ちなみに」


 「なに?」


 「そのスキャン装置」


 澪が指差す。


 手のひらサイズの黒い箱。

 アンテナみたいな棒。

 ノートPCとケーブルで繋がっている。


 「何を調べるんですか?」


 僕は即答した。


 「ピクシスの位相構造」


 「……」


 「エネルギー供給機構」


 「……」


 「あと身体構造」


 ピノが震えながら言った。


 「解剖される!?」


 「しない」


 「ほんと!?」


 「表面スキャンだけ」


 澪が呆れた顔で僕を見る。


 「ピノ」


 「うん……?」


 「多分」


 「逃げても無駄」


 ピノが目を見開く。


 「なんで!?」


 澪は部室を見回した。


 机の上の装置。

 壁の配線。

 ノートPC。


 そして言う。


 「この人」


 「絶対諦めないタイプ」


 僕は頷いた。


 「研究だから」


 ピノが絶望した顔をした。


 「ミオーーー!」


 澪は肩をすくめた。


 「まあ」


 「私も協力するって言いましたし」


 それから僕を見る。


 「危険はないんですよね?」


 「ない」


 「本当に?」


 「多分」


 澪の眉がぴくっと動く。


 「多分?」


 僕は装置を確認する。


 「理論上は」


 澪は額を押さえた。


 「理論上って言いましたよね今」


 ピノが涙目で言う。


 「ミオ……帰ろう……」


 澪はゆっくり首を振った。


 「帰れません」


 「なんでぇ!?」


 澪は静かに言う。


 「約束したから」


 ピノがしょんぼりする。


 僕は装置を構えた。


 「ピノ」


 「ひっ」


 「じっとして」


 「やだ!」


 ピノが逃げようとする。


 その瞬間。


 澪が片手でひょいっと捕まえた。


 「ミオーーー!?」


 ピノがじたばた暴れる。


 澪は少し困った顔で言う。


 「……ごめん」


 「ミオまで裏切るの!?」


 僕は装置を近づける。


 アンテナ部分が淡く光った。


 ノートPCの画面に新しいウィンドウが開く。


 PHASE SCAN START


 僕は小さく呟く。


 「スキャン開始」


 ピノが泣きそうな声を出す。


 「ミオ……助けて……」


 澪がなだめるように言う。


 「大丈夫」


 「多分」


 ピノが叫ぶ。


 「多分多すぎ!!」


 その間にも、装置の光がピノの体をなぞるように走った。


 フェーズグラス越しの視界で、ピノの周囲の空間がわずかに揺れる。


 僕のノートPCの画面に、グラフと図形が次々と表示されていく。


 「……!」


 僕は思わず身を乗り出した。


 澪が聞く。


 「何か分かったんですか?」


 「面白い」


 澪が呆れる。


 「またそれですか」


 僕は画面を指差す。


 「ピノ」


 「ひっ」


 「体」


 「半分エネルギー」


 澪が目を丸くした。


 「え」


 僕は続ける。


 「物質構造」


 「ほとんどない」


 ピノが少しだけ顔を上げた。


 「そうなの?」


 僕は頷く。


 「存在が位相に固定されてる」


 澪が首をかしげる。


 「位相?」


 僕は簡単に説明する。


 「別の空間に半分いる」


 澪がピノを見る。


 ピノも自分の手を見ている。


 「……そうなんだ」


 僕はさらに画面を見た。


 そこに表示されている数値。


 そして。


 「……なるほど」


 澪が聞く。


 「何がですか?」


 僕はゆっくり言った。


 「魔法少女」


 「ピクシス」


 「どうやってリンクしてるか」


 澪が息を呑んだ。


 「分かったんですか?」


 僕は首を振る。


 「完全じゃない」


 「でも」


 「仮説立った」


 澪が真剣な顔になる。


 「……どんな?」


 僕はノートを開く。


 そして図を描いた。


 ピクシス → 魔法少女


 その間に一本の線。


 「これ」


 澪が覗き込む。


 「……これって」


 僕は言った。


 「エネルギー供給」


 「だけじゃない」


 澪が眉を寄せる。


 「じゃあ何ですか?」


 僕はペンを止めて言った。


 「制御装置」


 ピノが「え?」と声を出す。


 澪も固まった。


 僕は続ける。


 「魔法」


 「星川が出してるように見えるけど」


 「実際は」


 ピノを見る。


 「ピクシスが制御してる」


 部室が一瞬静まり返った。


 ピノがゆっくり言う。


 「……それ」


 「結構」


 「すごいこと言ってない?」


 澪も驚いた顔だった。


 「ちょっと待ってください」


 「それ本当なんですか?」


 僕は正直に言う。


 「まだ仮説」


 澪はほっと息を吐く。


 「びっくりしました……」


 僕は画面を見る。


 そして小さく呟いた。


 「でも」


 澪が聞く。


 「でも?」


 僕は言った。


 「もしそうなら」


 ノートに新しい図を書く。


 ピクシス(制御)


 その横に。


 外部装置?


 澪が首をかしげる。


 「……外部?」


 僕は顔を上げた。


 そして、ものすごく自然な顔で言った。


 「ピクシス」


 「人工的に作れるかもしれない」


 澪の表情が固まった。


 ピノも固まった。


 数秒後。


 澪がゆっくり口を開く。


 「……天原くん」


 「なに」


 「それ」


 「世界規模の話ですよね」


 僕は頷いた。


 「うん」


 澪は頭を抱えた。


 「研究初日で、なんでそんな話になるんですか……」


 澪は両手で額を押さえたまま、深く息を吐いた。


 部室には夕焼けの光が差し込み、机の上の装置や配線が長い影を落としている。

 その真ん中で、僕はノートPCの画面を見つめていた。


 ピノのスキャン結果はまだ表示され続けている。


 位相分布。

 エネルギー密度。

 構造マップ。


 どれも、今まで見たことのないデータだった。


 「……やっぱり」


 僕は小さく呟く。


 澪が顔を上げる。


 「何ですか」


 「ピノ」


 「ひっ」


 ピノが反射的に身を縮めた。


 「まだ何かするの!?」


 「違う」


 僕は画面を指差す。


 「ここ」


 ピノと澪がノートPCを覗き込んだ。


 そこには、ピノのシルエットみたいな図が表示されている。

 だけど、普通の生物の体構造とはまったく違った。


 骨も臓器もない。


 代わりに――


 光の線が張り巡らされている。


 「……何これ」


 澪が呟く。


 僕は説明する。


 「ピノの内部構造」


 「え」


 ピノが自分の体を見た。


 「ボクこんな感じなの?」


 僕は頷く。


 「多分」


 澪が眉を寄せた。


 「多分って」


 「観測装置まだ簡易版」


 「……」


 澪はため息をつく。


 僕は画面の一部分を拡大した。


 そこにあるのは、特に強く光っている一点。


 「ここ」


 澪が覗き込む。


 「……中心?」


 「うん」


 僕はノートに書き込む。


 コア構造?


 ピノが少し不安そうに言った。


 「それ壊したらどうなるの?」


 僕は即答した。


 「多分消える」


 ピノが絶叫した。


 「怖いこと言わないで!!」


 澪が僕の頭を軽く叩いた。


 「さらっと言わないでください」


 僕は少しだけ考える。


 それから言う。


 「でも」


 澪が警戒した顔をする。


 「また何か言いますよね」


 「このコア」


 僕は画面を指差す。


 「魔法の制御信号出してる」


 澪の表情が変わった。


 さっきまでの呆れ顔じゃない。


 少し真剣な顔。


 「……それって」


 「つまり」


 「うん」


 僕は頷く。


 「魔法」


 「星川の体だけじゃ発動できない」


 澪が腕を組む。


 「ピノが必要ってことですか」


 「そう」


 ピノが胸を張る。


 「つまりボクすごい!」


 僕は言う。


 「多分」


 ピノがまた叫ぶ。


 「だから多分やめて!」


 澪が小さく笑った。


 それから僕を見る。


 「……でも」


 「なに?」


 「天原くん」


 「さっき言いましたよね」


 「何を」


 澪はゆっくり言う。


 「ピクシスを人工的に作れるかもしれないって」


 部室の空気が少しだけ静かになった。


 僕は椅子に座り直す。


 「うん」


 澪はじっと僕を見ている。


 「それ」


 「本気で言ってます?」


 僕は画面を指差す。


 「構造がある」


 「うん」


 「エネルギー流れも分かる」


 「……うん」


 「なら再現できる」


 澪は数秒黙った。


 それから言う。


 「それ」


 「もし本当にできたら」


 僕は答える。


 「魔法少女増える」


 ピノが固まった。


 「え」


 澪の目も少し大きくなる。


 僕は続ける。


 「今」


 「魔法少女」


 「ピクシスと契約した人だけ」


 澪が頷く。


 「そうですね」


 「でも」


 僕はノートに新しい図を書く。


 人工ピクシス


 その横に矢印。


 人間


 「これ作れたら」


 澪が小さく息を呑む。


 「……」


 ピノも黙った。


 僕はペンを回す。


 「ヴォイド対策」


 「かなり変わる」


 部室の窓の外で、風が少し吹いた。


 カーテンが揺れる。


 澪はしばらく黙っていた。


 そしてゆっくり言う。


 「……天原くん」


 「なに?」


 「それ」


 「魔法少女協会が聞いたら」


 僕は首をかしげる。


 「怒る?」


 澪は苦笑した。


 「怒るというか」


 少し考える。


 「世界中が騒ぎます」


 僕は素直に言った。


 「まだ仮説」


 澪が小さく頷く。


 「ですよね」


 ピノがぽつりと言った。


 「でもさ」


 僕と澪がピノを見る。


 ピノは腕を組んでいた。


 小さな体で、真面目な顔。


 「もし本当にできたら」


 澪が静かに言う。


 「……うん」


 ピノは言った。


 「ネメシス、嫌がると思う」


 その瞬間。


 僕のペンが止まった。


 澪も少し目を細める。


 「……確かに」


 ヴォイドを送り込んでくる存在。


 ネメシス。


 ピノは続けた。


 「今の地球」


 「魔法少女少ない」


 「だから戦える」


 澪が頷く。


 「それは聞いたことあります」


 ピノが言う。


 「でも」


 「もし人間が」


 「魔法少女量産したら」


 部室が少し静かになった。


 僕はノートに書く。


 戦力バランス変化


 澪は小さく息を吐いた。


 「……研究のスケールが急に大きくなりましたね」


 僕は言う。


 「まだ基礎研究」


 澪が苦笑する。


 「その基礎研究が危ないんですよ」


 そのときだった。


 ――ピピッ。


 僕のノートPCが小さな音を鳴らした。


 新しいウィンドウが表示される。


 僕は画面を見る。


 「……あ」


 澪が聞く。


 「何ですか?」


 僕は言った。


 「位相センサー」


 澪の顔が少し真剣になる。


 「それって、まさか」


 僕は窓の外を見た。


 フェーズグラス越しの空。


 夕焼けの中に。


 空間の歪み。


 さっきより――


 濃い。


 僕は静かに言った。


 「ヴォイド」


 澪の表情が一瞬で変わる。


 さっきまでの先輩の顔じゃない。


 戦う人の顔。


 スターライト・ミオの顔だ。


 「どこですか」


 僕は画面を指差す。


 「学校の近く」


 ピノが空中で浮かび上がった。


 「ミオ」


 澪は頷く。


 「うん」


 そして僕を見る。


 「天原くん」


 「なに」


 澪は少しだけ迷ってから言った。


 「……ついてきます?」


 澪のその一言で、部室の空気がぴんと張り詰めた。


 僕は一瞬だけ瞬きをして、ノートPCの画面と澪の顔を交互に見た。


 そして即答した。


 「行く」


 澪の眉がぴくっと動く。


 「即答ですね」


 「観測対象」


 「そう言うと思いました」


 澪は小さくため息をついた。


 ピノがくるっと回る。


 「でもミオ」


 「この子連れてくの?」


 澪は腕を組んで僕を見る。


 「天原くん」


 「なに」


 「戦闘になります」


 「うん」


 「危ないです」


 「うん」


 「普通の人は避難します」


 僕は首をかしげる。


 「普通じゃない」


 澪は数秒黙った。


 それから苦笑する。


 「……それは知ってます」


 僕はフェーズグラスを軽く押し上げた。


 「ヴォイド」


 「観測できる」


 澪は小さく頷いた。


 普通の人間にはヴォイドは見えない。

 だから魔法少女の戦闘は、ほとんどが感覚頼りになる。


 でも僕は違う。


 フェーズグラスがある。


 僕は言う。


 「それに」


 澪が聞く。


 「それに?」


 僕は机の横の装置を指差した。


 さっき魔法を受け止めた装置。


 防護シールド。


 「これ持ってく」


 澪の目が丸くなる。


 「持っていくんですか!?」


 「うん」


 「持ち運べるんですか」


 僕は軽く持ち上げた。


 金属フレームは折り畳み式になっている。


 「携帯型」


 澪が呆れた顔をした。


 「最初から戦闘想定してません?」


 僕は正直に言った。


 「してた」


 ピノが爆笑した。


 「やっぱりー!」


 澪は天井を見上げた。


 「……なんで私はこの人に協力してるんだろう」


 僕はノートPCを閉じる。


 データ保存完了。


 装置のケーブルを外す。


 「準備できた」


 澪は僕をじっと見ていた。


 それからゆっくり言う。


 「ひとつ約束してください」


 「なに」


 「危なくなったら」


 澪は真剣な顔で言った。


 「絶対逃げてください」


 僕は少し考えた。


 それから言う。


 「努力する」


 澪が机を叩いた。


 「努力じゃなくて守ってください!」


 ピノがまた笑う。


 「さっきもそれ言ってたね」


 澪は深呼吸して気持ちを落ち着ける。


 そして言った。


 「……分かりました」


 覚悟を決めた顔だった。



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