表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/55

第55話 世界会議

車の窓越しに見えた建物を見た瞬間、太陽が小さく息を呑んだ。


「……ここ、って……」


「まあ、妥当な場所だろうね」


僕は特に驚きもなく答える。


そこにあったのは――

国連本部ビル。


巨大なガラス張りの建物が、空に向かってまっすぐ伸びている。その前には各国の国旗が並び、風に揺れていた。


テレビで何度も見た光景。

でも、こうして実際に来ると、スケールが違う。


「ニューヨーク……本当に来ちゃったんだ……」


澪がぽつりと呟く。


「移動は一瞬だったけどね」


フェーズゲートでの転移。

物理的な距離なんて、もう意味を持たない。


透花は静かに周囲を見回している。


「各国の代表が集まる場所としては、これ以上ないほど象徴的ですね」


ミルも同意するように頷いた。


「まさに“世界の中心”と呼ぶにふさわしい場所でございますな」


鬼塚が前を歩きながら言う。


「感想は後にしろ。すでに各国の代表は入り始めてる。遅れるなよ」


「はいはい」


僕たちは厳重なセキュリティチェックをいくつも通過して、建物の中へと入った。


中は広く、静かで、やけに整っている。


無駄な装飾はないのに、圧倒される空間。


世界の意思決定が行われる場所――そう言われても違和感がない。


案内役のスタッフに連れられて、長い廊下を進む。


やがて一つの扉の前で止まった。


「こちらが日本代表の待機室になります」


ドアが開かれる。


中に入ると、すでに一人の男がソファに腰掛けていた。


「来たか」


柊原総理だった。


スーツのまま、リラックスした姿勢で座っているが、その視線は鋭い。


僕を見ると、軽く手を上げた。


「天原くん。移動は問題なかったか?」


「特に」


「そうか」


短いやり取り。


でも、妙に自然だ。


澪たちは少し緊張した様子で後ろに控えている。


太陽は落ち着きなく周りを見回していた。


「うわ……やっぱすげぇ……」


「静かにして」


澪が小声で釘を刺す。


鬼塚は部屋の隅で腕を組み、周囲を警戒している。


透花とミルは落ち着いた様子で控えていた。


僕は適当に空いている椅子に座る。


「で、あとどれくらい?」


「開始まであと二十分といったところだ」


柊原総理は腕時計を見ながら答えた。


「すでに各国の主要メンバーはほぼ揃っている。あとは細かい調整だな」


「ふーん」


興味はあるけど、別に緊張はしない。


やることは変わらない。


事実を説明するだけだ。


柊原総理が少しだけ身を乗り出す。


「改めて確認しておこう」


「何を?」


「この会議は、ただの情報共有ではない」


静かな声だった。


でも、その重さははっきりと伝わってくる。


「ここで決まるのは、“人類が攻めるかどうか”だ」


澪が息を呑む音がした。


太陽も言葉を失っている。


透花は静かに目を閉じて、何かを噛みしめているようだった。


僕は特に変わらず答える。


「攻めるでしょ」


「即答か」


「だって、その方が効率いいし」


「……なるほど」


柊原総理は、わずかに笑った。


「やはり君は、迷わないな」


「迷う理由がない」


それだけだ。


鬼塚が口を挟む。


「ただし、他の国はそう簡単にはいかねぇ」


「だろうね」


「だからこそ、お前が必要なんだ」


「知ってる」


会話が短く、的確に終わる。


そのとき、扉がノックされた。


コンコン、と規則正しい音。


「失礼します」


スタッフが顔を出す。


「各国代表の入場が完了しました。まもなく会議を開始いたします」


柊原総理が立ち上がる。


「分かった」


そして、こちらを見る。


「行こう」


僕も立ち上がる。


「了解」


澪たちもそれに続いた。


太陽が小さく拳を握る。


「……いよいよか」


「うん」


澪は深呼吸を一つ。


透花は静かに微笑む。


ミルは一歩後ろに下がり、護衛位置に入った。


鬼塚がドアの前に立つ。


「……いいか、ここから先は世界のトップ連中だ」


「だから何」


「……はぁ」


軽くため息をついて、ドアを開ける。


その先には――


長い廊下と、その先にある巨大な扉。


会議場へと続く道。


スタッフが先導する。


「こちらへ」


一歩、また一歩と進む。


足音が静かに響く。


扉の前で止まる。


重厚な扉だ。


向こう側にいるのは――世界。


スタッフがゆっくりと手をかける。


「それでは、ご入場ください」


扉が開いた。


眩しいほどの光と、無数の視線。


そして――


人類の未来を決める会議が、今始まろうとしていた。



――――――



重たい扉が閉まる音が、やけに長く響いた。


一瞬で、空気が変わる。


視線。


無数の視線が、一斉にこっちへ向いた。


「……うわ」


太陽が小さく漏らす。


澪は姿勢を正したまま固まっている。透花は静かに一礼して、そのまま後ろに控えた。


僕はというと――


「……広いね」


それくらいの感想しか出てこなかった。


円形に近い巨大な会議場。段状に配置された席。各国の代表団がそれぞれの席に座り、中央には演壇。


いかにも“世界会議”って感じの構造だ。


鬼塚が小声で言う。


「日本席、こっちだ」


案内に従って席に着く。


柊原総理が中央、その少し後ろに僕。そのさらに後ろに澪たちが並ぶ形だ。


「……ほんとにここでやるんだ」


澪が小さく呟く。


「だからそう言ってるじゃん」


「実感ってものがあるの!」


そのやり取りの間に、会議はすでに進行していた。


誰かが話している。


英語だか何語だか、同時通訳が流れてくる。


――状況の整理

――これまでの被害

――各国の対応

――協力体制の確認


……まあ、どうでもいい。


既知の情報しかない。


僕は軽く椅子にもたれた。


その横で、柊原総理は腕を組んで静かに聞いている。


完全に“政治家の顔”だ。


そのさらに横に、一人の女性が控えていた。


黒髪をきっちりまとめた、いかにも有能そうな人。


さっきから資料をめくりながら、必要な情報を総理に小声で伝えている。


たぶん秘書だ。


僕の視線に気づいたのか、その人が少しだけこちらに体を寄せた。


「天原様」


「何」


「会議中の補足が必要であれば、私が担当いたします」


「じゃあ頼む」


「承知しました」


無駄のないやり取り。


いいね、話が早い。


僕は顎で前の席を指す。


「で、あれ誰?」


秘書は一瞬だけ視線を送り、すぐに答えた。


「正面中央、星条旗の席におられるのが、アメリカ合衆国大統領――レイモンド・クラーク氏です」


視線を向ける。


白髪混じりの男。堂々とした態度で腕を組み、話を聞いている。


「へぇ」


「その右手側、赤い旗の席が中華人民共和国主席――**李・天昊リー・ティエンハオ**氏」


細身で鋭い目の男。表情はほとんど動かない。


「さらに左手側、ロシア連邦大統領――アレクセイ・ヴォルコフ氏です」


がっしりした体格。椅子に深く座りながらも、周囲を観察しているのが分かる。


「ふーん」


僕は軽く頷いた。


「で?」


「……で、とは」


「その人たち、強いの?」


一瞬、秘書が言葉に詰まる。


すぐに表情を整えた。


「政治的・軍事的影響力という意味では、世界最大級です」


「そういう意味じゃなくて」


「……失礼しました。戦闘能力の観点では、魔法少女ではないため直接戦闘は不可能です」


「じゃあ別にいいや」


興味が一気に下がる。


澪が後ろから小声で突っ込んできた。


「理久くん! そういうこと言わないの!」


「事実じゃん」


「そういう問題じゃないってば……!」


太陽は小声で興奮している。


「すげぇ……マジで世界のトップ勢揃いじゃん……」


「だから何」


「夢ねぇなぁほんと!」


その間も、会議は続いている。


誰かが発言して、誰かが頷いて、また別の誰かが話す。


――協力体制の強化

――情報共有の徹底

――被害抑制の最優先


全部、“守る側”の話だ。


効率が悪い。


僕は少しだけ視線を上げた。


演壇の方を見る。


そろそろだな。


そのタイミングで、柊原総理がわずかに体を動かした。


秘書がすぐに反応する。


「……次が、日本の発言順です」


「了解」


僕は軽く立ち上がる準備をする。


澪が息を呑む。


「理久くん……」


「ん?」


「……ほんとに、やるんだよね」


「やるでしょ」


当たり前だ。


ここまで来てやらない理由がない。


鬼塚が小さく呟く。


「……派手にやれ」


「言われなくても」


柊原総理が立ち上がる。


場の空気が、少しだけ変わる。


視線が集まる。


そして――


「次に、日本代表より発言を行う」


司会の声が響いた。


柊原総理が一歩前に出る。


その横で、僕はゆっくりと歩き出した。


「……は?」


どこかの席から、そんな声が漏れた。


無理もない。


学生服のままのガキが、総理の隣に並んでるんだから。


僕は気にせず、前を見る。


さあ。


説明の時間だ。


柊原総理が一歩前に出る。


場のざわめきが、すっと引いた。


「――日本より、提案がある」


低く、よく通る声。


同時通訳を通じて、各国へと言葉が流れていく。


「これまで我々は、“防衛”という前提でヴォイドに対処してきた。しかし、その前提は――ここで覆る」


一瞬、間を置く。


「本件については、我が国の技術責任者より直接説明させる」


視線が、集まる。


その先にいるのは――学生服の僕。


明らかに場違いな存在。


ざわ……と、空気が揺れた。


「……子供だと?」


「技術責任者?」


「冗談だろう……」


聞こえる。


別にどうでもいい。


僕はそのまま、演壇の前に立った。


マイクの高さが微妙に合ってない。


少しだけ下げる。


「――天原理久。中学生」


一応、名乗る。


それだけで十分だ。


「結論から言うね」


無駄は省く。


「今回の戦争、もう勝てる」


一瞬、完全に静止した。


次の瞬間――ざわめきが爆発する。


「何を根拠に――」


「説明が必要だ!」


「発言の意図を明確に――」


うるさい。


僕は気にせず続ける。


「まず、敵戦力」


指を一本立てる。


「ネメシスの戦力は、実質これだけ」


淡々と並べる。


「四天王が二体。ルク=エリオスとイグ=レイヴ」


「それと首魁、ゼル=フィア」


「以上」


ざわめきが一瞬止まる。


「ヴォイドは?」


誰かが声を上げる。


僕は即答する。


「もう敵じゃない」


沈黙。


理解が追いついていない顔が並ぶ。


「正確には、味方にできる」


さらに一歩踏み込む。


「細工済み」


場の空気が、明確に変わった。


「……どういう意味だ」


低い声が飛ぶ。


僕は肩をすくめる。


「そのままの意味。ヴォイドの制御系、書き換えた」


「最終決戦のタイミングで、全部止められるし、逆に使える」


「だから数は関係ない」


完全に静まり返る。


さっきまでのざわめきが嘘みたいだ。


「ネメシスの一般兵が多少残ってる可能性はあるけど」


「まあ誤差でしょ」


軽く言い切る。


その言葉の重さに、誰もすぐには反応できない。


僕はそのまま続ける。


「次、こっちの戦力」


指を二本目にする。


「虚界への転移手段、確保済み」


「向こうでの活動環境も問題なし」


「あと、現地勢力――アストラと同盟済み」


「向こうの地形と戦力は、全部共有される」


間を置かず、畳みかける。


「つまり」


指を下ろす。


「戦場は向こう。敵は減ってる。こっちは準備できてる」


「だから勝てる」


シンプルだ。


誰でも分かる。


でも――それを“実現している”前提が異常すぎる。


数秒の沈黙。


そのあと、低いざわめきが広がる。


「……信じられん」


「もし事実なら……」


「戦局が……」


僕は気にせず続ける。


「で、重要な話」


少しだけ声を落とす。


「この細工、まだ発動してない」


「理由は一つ」


「知られたくないから」


各国の代表が一斉に顔を上げる。


「ネメシスにバレたら対策される可能性がある」


「だから決戦までは使わない」


「でも、その分――」


一拍。


「今この瞬間も、止められたはずの被害が出る可能性がある」


空気が、張り詰めた。


「だから」


僕ははっきりと言う。


「できるだけ早くやる」


「最終決戦、速攻で終わらせる」


強く、断言する。


「開始と同時にヴォイド侵攻は停止する」


「そのまま勝てば――侵略は終わり」


言い切った。


完全に、場が静まり返る。


誰も軽々しく口を挟めない。


そこで――


柊原総理が一歩前に出た。


「補足しよう」


落ち着いた声。


だが、力がある。


「我が国、日本はすでに決断している」


「本作戦――虚界への侵攻を、国家として全面的に支援する」


「自衛隊、政府、魔法少女協会日本支部、そして現地協力勢力アストラ」


「すべてが、この作戦に参加する」


はっきりと宣言する。


「すでに準備は整っている」


「いつでも開始可能だ」


その言葉に、各国の空気が揺れる。


柊原総理は続ける。


「本日、この場において問う」


「各国は、この戦いに参加するか」


「するならば――どこまで戦力を投入するか」


間を置く。


その一瞬が、やけに長く感じる。


「無論、強制はしない」


「拒否する国があっても構わない」


ざわめきが起きる。


その上で――


「その場合」


少しだけ声を強めた。


「日本は単独で本作戦を実行する」


場が、完全に凍りついた。


「我々には、その“可能性”がある」


「そして――勝算もある」


静かに言い切る。


「だが」


視線をゆっくりと巡らせる。


「これは人類全体の問題だ」


「ならば、人類全体で終わらせるべきだと――我々は考える」


そこで言葉を止めた。


沈黙。


完全な沈黙。


そして――


すべての視線が、再び僕に集まる。


判断を迫られているのは、各国だ。


僕は肩をすくめる。


「……ま、どっちでもいいよ」


「来るなら楽になるし」


「来なくても、なんとかなる」


軽く言い放つ。


「選んで」


それだけだ。


世界の命運を賭けた選択が――


今、この場に委ねられた。




沈黙が、場を支配した。


誰もすぐには口を開かない。


当然だと思う。


本来なら――

各国に持ち帰って検討する。専門家を集めて精査する。リスクを洗い出し、何度もシミュレーションを繰り返す。


そうやってようやく“決断”する話だ。


でも。


「……そんな時間は、ない」


誰かが小さく呟いた。


それが、全てだった。


止められるはずの被害が、今この瞬間も出ているかもしれない。


ヴォイドを止められる鍵は、すでにここにある。


なら――


“考えてから動く”のでは遅い。


“決めてから動く”しかない。


静寂の中。


一つ、椅子の音が響いた。


「――アメリカは参加する」


はっきりとした声。


全員の視線が、そこに集まる。


アメリカ大統領、レイモンド・クラークが立ち上がっていた。


腕を組んだまま、まっすぐ前を見る。


「可能な限りの戦力を提供する」


迷いは、一切なかった。


「本作戦が事実であるなら――これは戦争を終わらせる唯一の機会だ」


言葉を区切る。


「逃す理由はない」


その一言で、空気が変わった。


重かった空気が、動き出す。


「……中国も同意する」


続いて、李・天昊が口を開く。


「戦力提供の詳細は後ほど詰めるが、作戦参加を表明する」


短く、しかし明確に。


「ロシアも同様だ」


低い声が響く。


アレクセイ・ヴォルコフが椅子に座ったまま告げた。


「これ以上の消耗は無意味だ。終わらせるなら、今だ」


一つ、また一つ。


決断が積み重なっていく。


「我が国も参加する」


「全面的に支援する」


「戦力の一部を投入可能だ」


「情報共有体制に加わる」


声が、次々に上がる。


さっきまでの沈黙が嘘みたいに。


迷いは完全に消えていた。


澪が、後ろで小さく息を呑む。


「……すごい」


太陽は拳を握りしめていた。


「マジで……世界が動いてる……」


透花は静かに目を閉じて、祈るように手を組んでいる。


鬼塚は腕を組んだまま、口の端をわずかに上げた。


「……決まりだな」


僕はただ、その光景を見ていた。


別に感動とかはない。


ただ――効率的だと思った。


柊原総理が一歩前に出る。


「――確認する」


場が静まる。


「本作戦に参加する国は、ここに集まった大半に及ぶ」


「異議はあるか」


誰も、何も言わない。


それが答えだ。


柊原総理は、ゆっくりと頷いた。


「ならば」


その声が、はっきりと響く。


「本日をもって――」


一拍。


「対ヴォイド最終作戦における統合戦力、“地球連合”の結成を宣言する」


静寂。


そして――


拍手。


最初は小さく。


すぐに大きく。


会議場全体を包み込むように広がっていく。


国家も立場も関係ない。


ただ一つの目的のために。


人類が、初めて完全に一つになった瞬間だった。


僕はその中で、軽く肩をすくめる。


「……これで、やりやすくなった」


それだけだ。


でも。


その“やりやすさ”が――


世界の命運を、大きく変えることになる。

お読みいただきありがとうございました!


この作品を

「面白い!」

「続きが気になる!」


と思っていただけましたら、

★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


皆さまの応援が更新の大きな力になります。


今後ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ