ローレンス視点
彼が同じ部屋にいる。
扉や壁で隔てられているが、そんなの些末な事だ。
そうして、幸せを噛み締めていると、アレンが部屋から出て来るのが見えた。
アレンの手元を見ると、湯殿へ行くようだったので、この部屋のを使えばいいと勧めたのだが、断られてしまった。
なんだか、困っていたようにも見えたが。
・・・何がいけなかったのだろうか?
喜んで欲しいと思っているのであって、困らせたい訳ではない。
それに、俺は感情の機微に疎い事を自覚している。
頼れるのは知識だけなのだが、それを総動員させたって、分からないのだ。
心とは、なんて難解なのだろう。
でも、ここで諦める気は更々ない。
やっと、話せる距離にいるのだ。
分からない事は、彼本人に聞けばいい。
明日は何を話そうかと考えながら、1日を終えたローレンスだった。
【次の日】
「おはようございます。
本日もよろしくお願いします」
部屋から出て来た彼は、そう言って俺の後ろに立った。
「おはよう、アレン。良く眠れたか?」
「はい。お陰様で休めました」
「何か足りない物は無かったか?」
「はい。ありません」
・・・。
全然話しが続かない。
一体、どうすればいいんだ?
・・・。
そう俺が困惑していると、レノンが話し掛けて来たのだった。
「ローレンス様、執務室へと向かいましょうか」
そうだ!
仕事を的確に熟す俺を見せれば、少しは話題が増えるのではないか?
そう思い付き、早速、執務室へと向かったのであった。
その道すがら、アレンは俺の後ろを付いてくる。
出来れば隣を歩きたいのだが・・・。
でもコレを伝えたら、きっと困らせてしまうのだろう。
そう考えると、その言葉が口から出る事はなかった。
今まで相手の気持ちなんて、気にした事は無い。
だが、今そう思った事が、気遣うという事なのだろうか?
と考えていると、執務室へと着いた。
すると、彼は扉の前に立ち、コチラを見ている。
後ろに居るより、前に居てくれる方が、彼の鮮やかな色彩が目に入り、俄然やる気になる。
俺は書類の束をどんどんと捌いていると、アレンと目が合ったのだ。
その瞬間、彼は微笑みを浮かべてくれたのである。
ハッと思わず見惚れてしまい、手に持っていたペンが机の上に転がった。
ドキドキして、拾ったペンを握る手が震える。
ジッと見られている事が、恥ずかしいと感じてしまった。
何故そんな事を思うのかは、自分自身でも分からない。
そして、自分の気持ちをよく考察してみると、恥ずかしさ中に嬉しさがあるのだ。
二つの感情が入り混じると言う、初めての体験に動揺してしまう。
もしかしたら俺は、人として色々な事を見落として来たのではないか?と思ってしまった。
だが、これからでも、取り戻していきたい。
今まで、感情に振り回される事なんて無かった。
けれど、アレンと出会ってからの俺は、嬉しさ、喜び、嫉妬、羞恥と色々な感情に出会えたのだ。
それだけでも、アレンに感謝をしなくてはな。
そうして、俺はアレンに向けて微笑んだのである。
仕事も終わり、部屋へ着くと、アレンが話し掛けてくれたのだ。
「ローレンス様は、毎日あの量の書類を処理しているのですか?」
「毎日、執務室に行く訳ではないんだ。
今日の書類は2日分になる。
だから、そんなに多くはないんだよ」
すると感心するように『そうなんですね。でも、2日分を1日で終えてしまうのは、凄いと思います』と褒めてくれたのだ。
それだけでも、とても嬉しい。
俺は、アレンと居る時間を、もっと大切にしようと決めたのであった。




