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灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


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9

自分で言うのもなんだが、結構良い成績を残せたと、手応えを感じている。


弓の訓練も終わり今日は休日。

外は晴天でお散歩日和だが、出掛けずにやる事があるのだ。


そう、師匠から(もら)ったショートソードを探さなくては。


先週は重騎士の訓練で探す体力さえなかった為、今日となったのだ。


ショートソードは、おっちゃんから回収して、箱に入れたのは覚えているんだよな。


・・・仕方ない。

一つ一つ見て行くか。


そうして見て行く事3箱目、まさか衣類の中にあるとは思わなかった。


だが、無事に発見できた事に胸を()で下ろす。

私は机の上に置いたショートソードを眺めた。


大分、()の布が使い込まれている。よく見ると血痕(けっこん)が残っていた。


そういえば、今まで布を替えるタイミングがなかったよな。

この機会に交換するか。


箱の中に適当な布があったので、古い布を剥がし、新しい布を巻いて行く。


そうして、キレイになったショートソードを見ると、(もら)った時の事が鮮明に蘇ったのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※



師匠がくれたショートソードを家には持って帰れないので、そのまま師匠が預かってくれる事になった。


師匠は地盤が出来たから、次は感覚を叩き込むと言っているが、何をするんだろう?


・・・明日が楽しみである。


そして今日も、淑女教育を済ませて師匠の元へと向かう。


剣を振り回すなんて先生が知ったら卒倒ものだ。

と考えたら、少し笑ってしまった。


そうして広場へ着くと、珍しい事に師匠が待っていたのだ。


「師匠!すみません遅れました!」


師匠は、紙を細く丸めた長い棒を握っている。それ以外は何もない。


・・・あれ?私の剣は?


そう思っているのが、手に取るように分かったのだろう。

師匠が話し始めたのだ。


「今日は(かわ)す訓練をする。

相手の動きを良く見てから判断しろ。

じゃあ、始めるぞ」


そう言った瞬間、師匠がものすごい勢いで、紙の棒を振り回してきた。


全くもって、早すぎて棒が見えない。

そして、すぐに当たってしまったのだ。


「おい!

訓練の成果が出てないぞ!

四ヶ月を無駄にする気か?」

と口を尖らせて言ってくるではないか。


「いや、師匠。

棒が早すぎて全然見えないんです。

避けようがありません」


そう言った私に、師匠は思う事があるのか、眉間に指をグリグリ当てて言ったのだった。


「おいおい。初日に教えた事を忘れたのか?」


・・・え?何だったろう。


なかなか答えの出ない私に、(しび)れを切らした師匠が、言い聞かせるように教えてくれたのだった。


「視野を広く持てだ。

俺は棒を見ろなんて、一言も言ってないだろ?

見えない物を無理に見ようとするな。

見える物だけ見ろ。

お前にはさっき、何が見えていた?」


・・・そう言われて考える。

師匠の動きが見えていた事に気付いた。


それを伝えると、師匠は()()()()としながら言った。


「そうだ、棒は手で持っているだろ?

だから、手元を見れば、予測が出来ないか?」


私はハッとして、師匠の顔を見る。


確かにそうだ。

棒にばかり気を取られていた・・・。


八百屋の時は、視野を広げて臨機応変(りんきおうへん)に対応する事を覚えたのに、全くもって生かせていない。


私は、師匠の話してくれた事を反芻(はんすう)する。


そうだった。

改めて、視点を変える事の大切さを実感したのであった。


私が理解した事を分かったのだろう。

師匠が再度口を開いた。


「それと、女のお前が、屈強(くっきょう)な男どもの攻撃を受けたら吹っ飛ぶのは間違いないからな。

だから、攻撃自体を()けろ。

受け止めようと考えるな!

当たらなければ、いくら強い打撃でも、無意味だろ?」


そう言って、ニヤリと笑ったのだった。


そうして、その後も訓練は続く。


見えない棒を見る事はもうしない。


師匠の動きに神経を(とが)らせる。

そうすると、見えない物が見えるように感じた。


言葉だとすごく矛盾しているのだが、視界でなく感覚で分かるのだ。

とその時、師匠の声が聞こえたのである。


「よし!大分つかめて来たな。

どうだ?感覚で分かるようになって来たんじゃないか?」


「はい!言い方はおかしいですが、見えない物が見えるように感じます」


「うん、それでいい。

じゃあ今日はこのくらいにして、明日から当分はこの訓練を続けるぞ」


辺りを見回すと(すで)に日も落ちかけていた。

時間を忘れる程に、没頭していたらしい。


こんな事は初めてだったので驚いたが、自分の中の何かが、少し先に進めたような、そんな気がしたのだった。


そして家に着く頃には、ずっと集中していたせいか、どっと疲れ果てていた。


今にも閉じそうな(まぶた)をこじ開けて食卓へと向かう。


『最近は帰りが遅いのね』と心配そうに義母に言われたが、家族にはガヴァネスになる為に、町の子供達に読み書きを教えている、と言う事にしているのだ。


だから『子供達がみんな熱心で、教え甲斐があるのよ』と伝えたのである。


騎士の事は絶対に言えない。

けれど、これが家族の為だと思い、嘘を吐く罪悪感に蓋をしたのだった。



そして月日は流れ、避けるだけの訓練に三ヶ月


雨の日も、風の日も、嵐の日はちょっと無理だったけれど、頑張って来た。


師匠が持つ紙の棒も、既に16代目に突入している。

それに、最近身体がとても軽いと感じるのだ。

変化を感じられるのは、とてもやる気に繋がる。


今日もやる気満々に広場へと向かったのであった。


夏の暑さと、()()()()とした湿気に、束ねた髪が首に張り付く。

気になると集中できないので、師匠が来る前にお団子にした。

そうこうしていたら、師匠がやって来たのだ。


「よう。

今日も暑いな。

水分補給してから始めるぞ」


そう言って、屋台の店主から水を(もら)った。

毎日、何かしら買っているので、水はタダでくれるようになったのだ。

たまに売り上げ上々で、気分が良いとジュースをくれる事もある。


『暑いから程々に頑張れよ!』と屋台のおっちゃんが応援してくれた。


冷たい水を飲みながら師匠と話す。


「師匠。そう言えば、いつも訓練に付き合ってくれますけど、仕事は平気なんですか?」


「ん?ああ。まぁな。

今は閑散期(かんさんき)だから平気だ」


・・・え?

ずっと閑散期なの?

だってもう訓練を始めて七ヶ月だよ?

もしかして、無職ですか?

とは聞けない。


それに、私が八百屋で稼いだ金額は、多分ショートソード代で消える程度だろう。

しかも、訓練終わりには、いつも屋台で何かを買ってくれる。


・・・お金、どうしてるんだろう?


無報酬でお願いしている立場の私には、余計なお世話かもしれないが、気になってしまう。


ぐるぐると考えていたら『始めるぞ』と言われたのだった。


そして今日も16代目が(うな)りを上げる。

私は奴の動きを感じて(かわ)す。


最初の頃は途中で集中力が切れて、(かす)る事が大半だったが、半月くらい前からは、集中力を分散させて、長時間持たせる方法が分かってきたのだ。

すると、当たる回数がグッと減ったのである。


当たらないのが悔しいのだろう。

奴は足を狙ってきた。

だが、師匠の手元を見れば、そんなのはお見通しだ。

私は華麗にジャンプをして決める。


そうして16代目との攻防は終わったのだった。



「よし、休憩だ」

師匠の声が響き、屋台へと戻り、おっちゃんに水をもらう。


冷たい水を()()()()飲み、プハッとした所で師匠が話し始めたのだ。


「今日は一回も(かす)らなかったな。

じゃあ、そろそろ次の段階にいくか」


そう言って、何やら袋の中をゴソゴソとしている。

そうして出て来たのは17代目になる予定の棒だった。


「じゃあ始めるぞ」


・・・え?説明なしですか?

と思ったが、師匠の手には16代目と17代目(予定)がそれぞれ握られていた。


ジッと見ていたら、2本同時にぶん回して来たのだ。

棒が風切り音を(うな)らせ、師匠と共に近づいてくる。


待って!これって避けられるの?

・・・逃げるの間違いでなくて?


ブンブン鳴っている音を聞きながら、逃げたくなる足を地につけて準備をする。


・・・今だ!


上から来た一本目はいつものように躱す。

だが、横から来る2本目への意識が(おろそ)かになり、当たってしまったのだった。


2本に同等の集中力を(たも)ったまま、同時に意識する事が、こんなに難しいとは思わなかった。


「今回はすぐに当たったな。

難しかったか?」


「そうですね。どっちかを意識すると、片方の意識が散漫になるんです。

・・・はぁ、難しい」


暑い炎天下の中、汗が頬を伝い落ちる。

そして、呼吸がなかなか整わない。


とそんな時、師匠が濡れた布をくれたのだ。


良く見ると、屋台のおっちゃんが師匠に渡したらしい。

冷たい布で汗を拭っていく。


・・・はぁ、生き返る。


師匠に目を遣ると、汗一つ掻いていないではないか。

あんなに()()()()と振り回しているのに暑くはないのだろうか。


「師匠は暑くないんですか?」


「何だ急に?

暑いに決まってるだろうが」


「でも全然汗かきませんね。羨ましいです」


「ああ?

まぁ、お前と違って鍛え方が違うからな!」


・・・はい?

鍛えてるとこ見た事ないんですけど。


それに、訓練終わった後は、屋台のおっちゃんから酒買って、飲んでるだけだよね?


私は訓練している様子が全く想像出来なくて、返事に困ってしまったのだった。

すると・・・。


「おい。そこは黙るところじゃないだろ?

俺だって、お前がいない時に色々してんだよ」


「・・・そうなんですね。

理解しました」


「何だ?その棒読みは!

師匠に対する態度じゃないぞ!

もっと(うやま)い、(あが)(たてまつ)ってくれていい」



・・・やばい。調子に乗り始めた。


いい年した、おじさんの()()()と得意げな顔にイラッとしてしまう。



そんな私達の事を見兼ねたおっちゃんが、口を挟んできた。


「二人とも、その辺にしとけよ。

喧嘩するなら他所(よそ)でしろ。客足が遠のくだろ!」


・・・ごもっともである。


師匠と顔を見合わせると、師匠はバツの悪そうな顔をしていた。


小さな声で『続き、やるか』と言うので、私は、これだけは言わせて欲しいとお願いをし、口を開いたのである。


「鍛えているのと、汗、全く関係ないですよね?」と。


そうしたら、師匠は認めたくなそうに、私から視線を(そら)らせたまま『やるぞ!』と言い、訓練に戻ったのであった。


それからまた三ヶ月が過ぎた


暑さも(やわ)らぎ、過ごし(やす)い季節となったのだ。


私は相変わらず、2本の棒を避けることに明け暮れていた。

今日も訓練を終え、いつものように、屋台のおっちゃんから飲み物を買ってもらい、訓練の振り返りをする。


「大分、意識出来るようになって来たな」


そう言い、何かを考えているのか小声で()()()()と言っている。

私は師匠の考えが(まと)まるまで待った。


「アレンシア、実はな、仕事で当分町を離れる事になったんだ」


あまりの事に目を見開いてしまった。

毎日一緒に訓練して来たのに。


・・・やる気が沈んでいくのが分かる。


とその時、師匠がショートソードを私に渡して来たのだ。


「だから、俺がいない間の課題を与える。

このショートソードを使いこなせるまで、素振りをしろ。

方法は後で教えるからな。

分かったか?」


不安そうな私に『終われば帰ってくる。そんな心配しなくても大丈夫だ。言っただろ?適当な事はしねーって』と、そう言って私の頭をグリグリ()でたのだった。


それから、素振りの方法を教えてもらったのだが、片手で剣を振り回す事が、こんなにキツいとは思わなかった。


二、三回振り回すだけで、筋力の無い私は疲れてしまう・・・。


そんな私を見た師匠は『俺がいない間、課題をキッチリ(こな)しておけよ。出来ませんでした。じゃ、許さんからな』と、そう言い残して、次の日仕事へと行ってしまったのであった。


※ ※ ※ ※ ※ ※



それからは毎日、このショートソードの素振りを頑張ったんだっけ。

屋台のおっちゃんにもお世話になったし、手紙を書こうかな?

そう思い立った私は、家族、師匠、おっちゃんにそれぞれ手紙を書いて出したのである。


そうして、今日の休暇はなんだかんだで、充実した1日となったのであった。

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