ローレンス視点
あれからずっと、彼と仲良くなる為には、どうすればいいのかを考えているのだが、どう接点を持てば良いのかが分からない。
前回は無意識に腕を掴むという失態をしているので、余計に慎重にならざるを得ないのだ。
しかし現段階で可能な事は、もう少し物理的に近づいて観察する事以外に思い浮かばなかったのである。
そして今日から、彼は騎馬隊の訓練だ。
いつもは執務室で待機しているのだが、既に厩舎近くの木陰で待機中だ。
(近くて且つ相手から悟られないポジションを探さなくてはいけないからな)
俺は先日の木陰より、20メートルほど厩舎に近い木に当たりをつけた。
その木の周りには低木が生えており、相手から認識する事は困難だろう。
そう思った俺がスタンバイしていると、騎士達がやって来た。
もちろん、そこには彼もいる。
一人だけハッキリと色彩が分かるので、探さずとも目に入ってくるのだ。
そして今日は初日の為、馬との触れ合いから始めるらしい。
オペラグラスを使わなくてもよく見える距離感にドキドキする。
すると彼は馬の顔に触れ、何かを優しく語りかけた。
・・・俺はそれに唖然としたのだ。
女神が戯れているかのような美しい光景に、言葉が出ない。
もちろん目を逸らす事も出来ずに、ただ食い入るように眺めた。
(・・・いや、彼は男だ。
だから、男神・・・か?
・・・だいぶ受け取り方が変わってしまうな)
と、そんなどうでも良い事が脳内を駆けずり回る。
やはり、頑張って近い場所を探してよかった。
この調子で少しずつ距離を詰めていければ、いつか接点があるかもしれない。
こうしてローレンスは、物理的な近距離作戦に出たのであった。
もちろん彼は、これがストーカーだとは気付いていない。
そもそも、ストーカーの概念すら存在しているのかも怪しいところだ。
そして今日も、バッチリと観察ができて満足げに執務室へ帰ろうと歩いていると『何をやっている!もっと右だ!』と兄上の声が風に乗って聞こえてきた。
声の方向に目を向けると、虫取り網を片手に、木に登る従者達へと指示を出している。
(・・・何をやってるんだ?)
俺は遠目から兄上の様子を観察した。
すると今度は、兄上本人が木に登りだしたではないか。
その後ろ姿を見ると、何とも間抜けな格好で木によじ登っていく。
俺は、見てはいけないものを見てしまったと思い、静かにその場を後にしたのだった。
(兄上が、いい歳をして、虫取りに興味を持つなんて・・・)
現実逃避をしたくなるような、何か大変な事にぶち当たったのかもしれない。
俺は少しショックを受けながらも、執務室への道のりを急いだのであった。
【レノン視点】
私はローレンス様の専属侍従のレノンと申します。
私の仕事は、ローレンス様のお世話に加え、お仕事のサポートや心のケアと、生活全般に関する事を担っているのです。
ですが最近、ローレンス様の様子が、すごくおかしいのです。
窓に乗り出す事が日常と化すなんて、今まででは考えられませんでした。
そして、いくら止めても聞いてくださらないので、手摺をつける事になったのは、記憶に新しい出来事です。
そんなローレンス様は、今日も執務中にいきなり立ち上がり『散歩』と言うではないですか。
しかも、張り切っていつもより早めに執務室へ来たというのに、ソワソワとして落ち着かない様子なのです。
(それに散歩なんて、今までした事がなかったのに・・・)
やはり、何かがローレンス様に取り憑いているのではないか?と気が気ではないのです。
居ても立っても居られなくなった私は、散歩に行かれたローレンス様を追いかけようと部屋を出ると、向こうからレオナード殿下が虫取り網を片手に、ゾロゾロと従者を引き連れています。
私は気になり耳を澄ませると、レオナード殿下の声が聞こえてきました。
「ローレンスが鳥を欲しているのだ!
皆、良く聞け。
ローレンスは、今も鳥を求めては窓の外を眺めている。
心の安寧の為にも、鳥を捕まえ、部屋で飼えるようにしようと思うのだ」
とそう言い、ゾロゾロと去って行きました。
・・・・・・。
(知らなかった。
まさか、鳥に心を奪われていたなんて・・・)
こんなにも近くに居たのに、何一つ見えていない自分の未熟さに落胆したのです。
・・・では今も、鳥を求めて散歩に行かれているのでしょうか。
(・・・なんと、健気な!)
その事実に、私の心は最大級に震えました。
取り憑かれているなんて言った、私の馬鹿さ加減に自分の頭を叩きたくなります。
それからの私は、レオナード殿下が鳥を捕まえられる事を祈ると共に、ローレンス様が帰ってきた時に、少しでも心癒されればと思い、レオナード殿下から頂いた本を、執務机の上へそっと広げて置いたのでした。




