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灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


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人生、楽すぎてつまらない・・・。


()()()()と机の上を埋め尽くす膨大(ぼうだい)な書類の束を眺める。


俺が4日放置して溜まった仕事の書類だ。


本当はもっと放置していたかったんだが『本日中に処理したい事案があるので目を通して欲しい』と泣きつかれたのである。


だから仕方なく執務室へとやって来ているのだ。


まぁ、こんなの一時間もあれば終わらせられるんだがな・・・。


俺は小さい頃から、何をやっても人並み以上に出来る。

・・・出来過ぎるのだ。


だから努力、研鑽(けんさん)精進(しょうじん)


人からはよく聞くが、俺には無縁なものなので、全く理解が出来ない。


そんな俺を、皆は神童(しんどう)と言った。


だが、そんな中でも(ねた)む奴は必ずいる。

奴らは『神童も20歳を過ぎればただの人だ』と負け惜しみを言っていたのを今でも覚えている。


そして時が経つにつれ、人生に張り合いが無いと感じるようになった。


全てが息をするように簡単すぎて、何一つ真剣に向き合えないのだ。

物事に一生懸命に取り組める皆を、何度、羨ましいと思った事か。


俺だって人生を楽しめるのなら、楽しみたい。

勉学にも剣術にも、楽しさを見出せないのなら、恋愛はどうかと試した事もある。


・・・だが、結果は同じだった。


俺の地位や外見で、簡単に落ちる女ばかりだったのだ。

経験の為、何人かと交流を持ってはみたものの、心が動かされる事は(つい)ぞなかった。


・・・本当につまらないな。


「・・・はぁ」


俺はため息を()きながら、机にある書類に手をかけた。


さっさと終わらせて、早く部屋へ戻ろう。


そう、20歳になった今でも、俺はただの人にはならなかったのだ。


頭の中には、これまでの作物の収穫量、人口の増減、見込める税収、各地の災害など、全てが入っている。

なので特段、調べる必要もない。


承認、不承認の印をどんどんと押していく。


そろそろ終わりそうな時、タイミングを見計らったかのように、侍従のレノンがやって来た。


「まだ半刻(はんこく)も経っておりませんが、いつもながら流石でございますね」


「ああ。簡単過ぎて話にならない。

悪いが、この書類を宰相へ持って行ってくれ」


俺は右に置いてある承認済の書類を指さした。


「かしこまりました。不承認はどうしましょうか」


左に置いてある数十枚の書類を見ながら、頬杖をつき答える。


「これはこっちで預かる。

・・・はぁ。

不正に気付かないとでも思ったのか・・・。

舐められたものだな。

もし、また同じような申請をしてきたら、その時は厳罰(げんばつ)に処すつもりだ。

・・・では終わったから俺は戻る」


そう言い残し書類の整理をレノンに任せて執務室を出た。

部屋は別棟にある為、それなりの距離を歩かなくてはならない。


本当に、暇つぶしにもならなかったな。


とその途中、中庭へと出た。


心地よい春風が頬を(かす)める。

色とりどりの草花が咲き(ほこ)っているのだが、俺にはその美しさが分からない。


いつからだろう・・・。


夢も希望もなくなり、全てが灰色に見えるようになったのは・・・。

美しいであろう光景に、何の感動も覚えず、()()()()と歩いていく。


その時、訓練場から活気のある声が聞こえて来たのだ。


そう言えば、今日は新人騎士の入隊式だったな・・・。


歩きながら()()()()と頭の中を(よぎ)る。


帰っても暇だし、少し見て行くか。


そう思い帰路を変更する事にした。

俺にしては珍しい、ほんの少しの出来心だったのだ。


そして訓練場の(はし)に着き、辺りを見回すと、周りには多数の女性達がいた。

皆、騎士を見て声援を送っている。


俺は訓練場に目を()ると、一点に吸い寄せられた。


そこには、燃えるような赤い髪に、コバルトブルーの空みたいな、少し、つり目の瞳が印象的な綺麗な顔立ちをした子がいたのだ。


俺は思わず息を呑んだ。

色の無かった世界に、その子だけが鮮明(せんめい)に浮かび上がる。


・・・これが、美しいと言う事なのだろうか・・・。


今、ハッキリと心が(ふる)えているのが分かる。


俺は歩いているその子をジッと見つめた。


女性では珍しい短い髪だ。くせ毛なのか、風で()()()()と揺れていて可愛らしい。

それに緊張しているようで、目が少し泳いでいるが、とても意志の強そうな瞳が魅力的だ。


今まで、こんな事を女性に思った事はない。


些細な事でも好意的に(とら)えてしまうのは、きっと恋なのだろう。

そして、恋だと認識したら、何だか()()()()としてきた。初めての事に狼狽(うろた)えてしまう。


俺はそのまま視線を下へと移動させたのだ。


ドレスではなく紺色のジャケットを羽織っていた。


赤い髪が映えるな。とてもセンスが良いらしい。


うんうんと頷きながら更に見ていく。


下は同色のズボンを履いている。


・・・ズボン?


今までズボンを履いている女性を見た事がない。


何て先進的な人なんだろう。

そう思いかけた時に、頭の中で警報が鳴った。


・・・・・・・・。

いや、待て。

あれは隊服じゃないのか?


目を()らしてよく見てみると国の紋章がジャケットの左胸に入っている。


・・・・・・え?・・・・お、とこ・・・?


あまりの衝撃(しょうげき)に気が動転して、ぶっ倒れそうになったが、こんな所で倒れる訳にはいかない。

なんとか持ち(こた)え、すぐにその場から離れたのだ。


その後、どうやって部屋へと戻って来たのかは、記憶にない。

気が付いたらベッドの上に寝ころんでいたのだった。


初恋相手が、男?


・・・・待て待て待て!


俺は、男が好きなのか!?


両手を頭に当て、必死に考えるが、男を恋愛対象として見た事は今まで無い。


でも、女ではダメだったのだ。

自分が気付かなかっただけで、本当は男が好きなのかもしれない・・・。


そう考えれば考えるほど、頭を()きむしりたくなる。


それに、男が好きなんて・・・。

周りが認める訳がない。


どうすればいい。

・・・どうすればいいんだ!!


俺はベッドの上をゴロゴロと(もだ)えながら、初恋と結論が出ない問題に、人生で初めて()()と言う事を経験したのであった。


新作始めました。


楽しいや次も読みたいと思っていただけた方。

★★★★★やブックマークを押して頂けると大変励みになります。


そして完結作【王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!】

も、お立ち寄りいただけたら嬉しいです。


よろしくお願いいたします。

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