祖母の胆力
家というものは、ただ血筋だけで続くのではない。
そこに生きた人々の判断、覚悟、そして時代を読み抜く力が積み重なり、
やがて“家風”となって次の世代へ受け継がれていく。
小瀬川家には、番頭家として御屋形様を支え続けてきた長い歴史があり、
その中でも涼香の祖母──澄玲が残した逸話は、
社内で語り継がれるほどの伝説となっている。
今回は、その澄玲の“勘と胆力”がどのように家を守り、
そして俊が小瀬川家の一員として認められていく瞬間を描いていきます。
静かに、しかし確かに受け継がれていく家の物語をお楽しみください。
涼香の祖母については、父でさえ直接に教わったことではないが、社内に伝説として残っている逸話がいくつか有る。
バブル崩壊前からの警告
財テクの流行で世の中は好景気に沸いていた、安倍グループとしても投資への比重を上げようとした時期が有った。特に、不動産投資は本業へのリターンも大きいと期待されていた。
その折、「祖業を疎かにしては、ご先祖様に顔向けが出来ません」
「投資するなら自社事業に、人任せで株主利益を得るよりも、目の届く事業でのリターンの方が確実・堅実。しかも、失敗しても成功しても将来の事業の基盤となる」と警鐘を鳴らしたのが祖母であった。
もう、会社の実務は夫の聡に任せて、口を挟まずにいた女傑からの久々の伝言に、御屋形様も再検討を重ねているうちにバブルは弾け、被害は軽微であった。
当初の計画のままであれば、致命的な被害をもたらしたことがはっきりした際には、御屋形様より
「さすがは小瀬川の血、またしても当家を救いおった」と、激賞されたという。
その他にもアメリカとの貿易不均衡や、中国頼りのサプライチェーンにも警告をしたらしく、その勘と胆力は社員にも知れ渡っているそうだ。
涼香が誇りに思うのも当然の人物である。
そして小瀬川家には、番頭家としての家訓が有る。
一、家は守るもの。奪うものにあらず。
一、言葉は刃。使い方で人を救い、人を傷つける。
一、恩は返すものではなく、次へ渡すもの。
一、困難は静かに処理せよ。騒ぎは家を弱くする。
一、家族は血ではなく、覚悟で決まる。
「もうすでに俊さんの覚悟と献身は、十分にいただいています」
涼香がそう告げると、父も少し涙ぐみながら、頷いていた。
「もう、小瀬川の一員で間違いないな…」
「お祖母様が一目で気に入ったのも、当然ね」
親子の勉強会で、夜は更けていった。
今回もお読みいただきありがとうございました。
涼香の祖母・澄玲は、若くして財閥の経営方針に口を出し、
バブル崩壊前に“祖業を守れ”と警告した胆力の持ち主でした。
その判断が御屋形様を救い、
社内では今も「澄玲の勘は当たる」と語り継がれています。
そんな祖母が残した家訓──
家は守るもの、言葉は刃、恩は次へ渡す、困難は静かに処理する、
そして家族は血ではなく覚悟で決まる。
その家訓を前に、涼香が俊に向けて告げた
「もうすでに俊さんの覚悟と献身は、十分にいただいています」
という言葉は、
小瀬川家が俊を“家族として迎え入れた瞬間”でもあります。




