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医食同根

医食同根──東洋医学の世界で古くから語られてきた、「食と医は同じ根を持つ」という思想。

日本では生活文化の中に深く浸透し、健康観や養生の基盤として親しまれてきた。


本作ではこの理念を、免疫学、生活医学、発酵文化、そして国際政治の舞台へと拡張し、

異なる分野がひとつの思想のもとに交わる瞬間を描いてきました。


今回の章では、WHO免疫部会「SAGE」で起きた“杜氏メソッド騒動”が、

欧州の醸造・発酵食品業界と医療界を巻き込み、

予想外の方向へ転がり始めます。


文化、誇り、ブランド、そして漢字──

たった一つの言葉を巡って世界が揺れる、奇妙で人間らしい物語をお楽しみください。

ホテル・デ・ナシオン・サンジェルマンのウェイティングバーは、

国際会議の参加者がよく集まる静かな隠れ家だ。

昼間の騒動が嘘のように、グラスの触れ合う音だけが響いていた。


その片隅で、Lesaffreルサフレから派遣された男が一人、肩を落として飲んでいた。

昼間、会場で声を張り上げていた姿とはまるで別人だ。


通りかかったフランスの医療関係者が、そっと声を掛けた。


「どうしたんだい? 昼間とずいぶん違うじゃないか」


ルサフレ社員は気まずそうに微笑んだ。


「いや……僕はずっと、フランス・ワインは世界一だし、

わが社の発酵技術も世界一だという自負で生きてきた。

それなのに、東洋の小国のノウハウを巡って、

こうまでしなければならないかと思えば……情けなくてな」


医療関係者は静かに頷いた。


「わかるよ。今や世界中が“杜氏の奇跡”だの“涼香のアイドル性”だの、

本質とは違うところで振り回されている」


「漢字だって、意味なんか誰も知らないのに……」


「そこで譲歩はできないのか? 我々は誇り高きフランス語話者じゃないか」


ルサフレ社員は苦笑した。


「それが……わが社の会長が、

“あの漢字はクールで格好いい。絶対に手放すな”と厳命していてね」


「そちらもか。ウチも医薬品会社の連中が、

“あのロゴは金になる”と徹底的にやるつもりだ」


二人は同時にため息をついた。


一方その頃、アメリカ代表団は比較的冷静だった。

どちらの業界にも原材料を供給している立場の強みがある。

そして最終的には、日本の弱みを突けば良い──

安全保障、関税、政治スキャンダル。材料には困らない。


そんな計算高さを隠しつつ、アメリカ代表は軽い調子で提案した。


「この際、“医食同根”という東洋の教えの下で、

医療業界も食品業界も一致団結して“杜氏メソッド”を進化させるべきでは?」


その言葉が、妙に会場の空気にハマった。


昨日まで敵対していた両業界が、

まるで旧友のように肩を組み、

共同研究機構の設立に向けて協議を始めたのだ。


共同記者会見では、

Lesaffre と Ohly の代表が腕を組み、

「我々は医食同根の精神の下、未来の発酵医療を創る!」

と宣言した。


世界のSNSは騒然となった。


「変わり身早すぎ」

「これが本当のビジネス」

「欧州情勢は奇々怪々」

「杜氏メソッド、もはや何の話?」


しかし、騒動の裏で確かに何かが動き始めていた。


医療界と発酵食品業界が共同で設立する新しい国際研究機構──

その名は、まだ誰も知らない。


だが、世界はすでにその誕生を待ち始めていた。



今回もお読みいただきありがとうございました。


「医食同根」は日本で広く親しまれている言葉ですが、

その源流は中国医学にあり、

いまや世界の健康観にも影響を与える普遍的な思想となっています。


その理念が、国際政治の場でこれほど強い求心力を持つとは、

当の日本人すら予想していなかったでしょう。


杜氏メソッドを巡る騒動は、文化・産業・国益が複雑に絡み合い、

ついには医療界と発酵食品業界が手を組むという、

奇妙で痛快な展開へと進みました。

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