熊谷真実のチャンネル企画―― 「免疫疾患に寄り添い隊」
本作はフィクションですが、難病や医療制度についての描写には
できる限り現実の知見を参考にしています。
ただし、医学的な正確さよりも「登場人物の心」を優先しています。
気軽に読み進めていただければ嬉しいです。
◆寄り添い隊・収録の日
その日の午後、
小瀬川邸の別棟に、撮影スタッフが静かに入ってきた。
熊谷真実のチャンネル企画――
「免疫疾患に寄り添い隊」の収録が行われる日だった。
名家の敷地に入るとはいえ、
撮影はすべて事前に許可を取り、
スタッフも最小限。
プライバシーと安全を守るため、
別棟の応接室がスタジオ代わりに使われていた。
涼香は少し緊張しながら、
控室でマイクをつけてもらっていた。
「涼香さん、今日のゲストは中学生の女の子です。
バセドウ病で、ずっと悩んでいたそうで……
あなたに会えるのを楽しみにしていましたよ」
熊谷真実が、
いつもの柔らかい声で伝えてくれた。
涼香は胸に手を当てた。
(わたしが……誰かの力になれるの?)
そのとき、
控室の扉がノックされた。
「失礼します……」
入ってきたのは、
細い首元にわずかな張りがあり、
目の奥に不安を抱えた少女だった。
制服の袖をぎゅっと握りしめている。
「はじめまして……
わたし、バセドウ病なんです。
涼香さんのこと、動画で見て……
どうしても、お話がしたくて」
涼香は、
まるで自分の過去を見ているような気持ちになった。
「来てくれてありがとう。
怖かったでしょう?」
少女は、こくりと頷いた。
「……毎日、心臓が速くて。
学校でも、家でも……
誰にも言えなくて。
強がってばかりで」
涼香はそっと少女の手を握った。
その手は冷たく、震えていた。
「強がらなくていいよ。
病気は、恥ずかしいものじゃない。
あなたの身体が、ちょっと疲れてるだけ。
ゆっくりでいいんだよ」
少女の目に涙が溢れた。
「涼香さん……
どうしてそんなふうに言えるの?」
涼香は微笑んだ。
「わたしも、ずっと怖かったから。
でもね……
“ひとりじゃない”って思えた日から、
少しずつ楽になったの」
少女は涼香の胸に顔を埋め、
小さく震えながら涙を流した。
その様子を、
撮影スタッフも、熊谷真実も、
誰も声を出さずに見守っていた。
そして、
廊下の奥から俊が静かに見つめていた。
(涼香さん……
あなたは、誰かの希望になっている)
俊は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「でも…」
少女が口ごもった。
「昔、有名な女優さんが甲状腺の病気でお亡くなりになったと聞いて、不安で不安で」
「ちょっと、いいかな」
そこへアドバイザーとして、遠巻きに見ていた赤ひげ先生が声を掛けた。
少女は、熊のような巨躯に一瞬ひるむも、温和なその表情に安心したのか頷く。
「それは、おそらく一般に長く残っている誤解で、実際には急性骨髄性白血病でお亡くなりになられたんだ。目が大きい美人さんで急激にお痩せになったから、医師の間でも甲状腺機能亢進症だったと思い込んでいる者も居るくらいだけど、甲状腺機能亢進症はちゃんと治療法が確立されているから、心配は無いよ」
「そうなんですか。良かった…」
赤ひげ先生が、俊に向き直ると「まあ白血病自体が免疫細胞そのものが癌化する病気と言う面で、今後のお前の研究結果が役に立つと良いな」とささやく。
赤ひげ先生の言葉を聞きながら、
少女は胸に手を当て、ほっと息をついた。
「……よかった。
わたし、ずっと怖くて。
ネットでいろいろ調べちゃって、
余計に不安になって」
涼香は少女の肩にそっと手を置いた。
「わかるよ。
わたしも、そうだったから。
病気のことを調べれば調べるほど、
怖くなるんだよね」
少女は涙を拭いながら頷いた。
「でも……涼香さん、
今はすごく元気そうで……
わたし、希望が持てました」
涼香は微笑んだ。
「ありがとう。
でもね、わたしも“誰かの言葉”に救われたんだよ。
だから今度は、わたしがあなたを支える番だね」
その言葉に、少女の表情が少しだけ明るくなった。
赤ひげ先生は腕を組み、
満足そうにうなずいた。
「病気はね、身体だけじゃなくて心も揺さぶる。
だから、こうして誰かと話すことが一番の薬なんだよ」
俊はその様子を見つめながら、
静かに息を吸った。
(涼香さん……
あなたは、もう“治った人”じゃない。
誰かを救える人になっている)
赤ひげ先生が俊に向けて言った言葉が、
胸の奥で静かに響いた。
「白血病も、自己免疫疾患も、
“免疫の暴走”という点では同じだ。
お前の研究が、
いつか誰かの命を救う日が来るといいな」
俊は深く頷いた。
「はい。
そのためにも……
まずは目の前の人を救えるように、
できることを積み重ねます」
涼香はその言葉を聞き、
そっと俊の手を握った。
少女はその二人を見て、
安心したように微笑んだ。
「……わたしも、頑張ります」
その声は、
小さくても確かな決意に満ちていた。
涼香の果てなき挑戦が、
別の少女の心を救いました。
そして、この動画チャンネルは翻訳され、
世界でも億を超える再生回数を達成します。
熊谷真実は、この成功によって
Youtuberとしてだけではなく、
演出家・プロデューサーとしての才覚も
世に認められていきます。
杜氏俊と涼香たち、
そして熊谷真実・横田恵ら川反チーム。
この両者によるシナジーが、
日本を、そして世界を変えていきます。




