表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/37

誘拐? ご招待?

本作はフィクションですが、難病や医療制度についての描写には

できる限り現実の知見を参考にしています。

ただし、医学的な正確さよりも「登場人物の心」を優先しています。

気軽に読み進めていただければ嬉しいです。

車内の静けさは、妙に柔らかかった。

革張りのシートは身体を包み込み、外の喧騒は完全に遮断されている。

俊は、その静けさの中に、涼香が全力で守られている温度を感じていた。


「……お嬢様は、こうなるともう駄目でしてな」


前席から執事の声が落ちてくる。

その声音は、叱責よりも諦観に近い。


「杜氏様。お嬢様は普段、あのような態度ではございません。

ただ……合コンという場がどうにも苦手でして」


「はあ……」


返事をしながら、俊は横目で涼香を見る。

さっきまでの刺々しさはどこへやら、今はただの無防備な寝顔だ。

頬が少し赤く、呼吸は規則正しい。

年齢を推定していた自分が馬鹿らしくなるほど、幼い。


「……あの、僕、そろそろ帰っても」


「いえ」


執事の声が、静かに、しかし絶対的な力を持って遮った。


「お嬢様が“連れて帰れ”と仰せでしたので」


「連れて……?」


「ご当主様たちも、是非にと…」


言葉の意味を理解する前に、車は滑らかに加速した。

街灯が流れ、ビルの影が後方へ消えていく。


「ちょ、ちょっと待ってください!僕は別に――」


「ご安心を。危害を加えるつもりはございません。

ただ、お嬢様が“気に入った方”を屋敷にお連れするのは……初めてでしてな」


「気に入った……?」


俊は、さっきの暴言の数々を思い返す。

どう考えても気に入られている要素は一つもない。


「……この子、僕のこと、ずっと怒ってましたよね?」


執事は、ルームミラー越しに微笑んだ。


「怒っていたのではありません。

あれは……“緊張していた”のです」


「緊張……?」


「ええ。お嬢様は、気になる方の前では、途端に不器用になるのです。

昔からそうでしてな。

本当は、誰よりも気を遣う優しい子なのですが」


俊は、隣の寝息を聞く。

その静けさは、確かに“怒り”とは程遠い。


「……僕、そんな()()な人間じゃないですよ」


「それは、お嬢様が決めることでございます」


車は、都心から離れ、緑の多い高台へと向かっていく。

遠くに、月が昇り始めていた。


「まさか……僕、誘拐されてます?」


「いえ、“ご招待”でございます」


執事は、丁寧に言い直した。


「お嬢様の“初めてのご招待”です。

どうか、粗相のないように」


粗相のないようにと言われても、粗相しかしていない気がする。


俊は、人生で初めて、

“合コン帰りにお嬢様の屋敷へ連行される”という状況に置かれた。

しかし、「価値観が違う」のひと言で切り離されるよりは、少しでも必要とされているのなら…

帰りたいと言いながら、胸の奥で小さな灯りがともる。

 誰かに必要とされる感覚を、久しく忘れていた。


そして――

車は、鉄製の重厚な門の前でゆっくりと停まった。

自動で開いていく門扉の奥、白亜の屋敷が月光を受けて浮かび上がっていた。


(予想以上に…本物のお嬢様なんだ)

車はゆっくりと邸内を進み、ロータリーの車留めのあるエントランスでゆっくり停車した。


黒服がドアを開ける。


「杜氏様、どうぞ。お嬢様も、そろそろお目覚めでは?」


そういえば寝息が普通の呼吸音になっていたなと、今頃になって俊は気が付く、顔を真っ赤に染めた涼香が狸寝入りを誤魔化すかのように、前髪を撫でながら姿勢を正す。

「杜氏さん、わざわざのお見送りに感謝いたします。お礼を言いたいと家族が申しているそうです」


いや、これはお見送りでなく、拉致だったと言いかけて口をつぐむ俊。


3m以上の高さは有る両開きの扉の前に、並ぶメイドと使用人からの殺気を感じたためだ。

その視線が全身を貫く気がする。値踏みと猜疑心、心配と同情、かすかな期待。

何とも不思議な状況で、しかもこの展開の速さは、どうしたことだろう?

俊は、自分がライトノベルの世界にでも入り込んだような気がしてならなかった。


「お嬢様が病を押してまで苦手な集まりにご参加、いや杜氏様、貴方に逢いに行った理由を当主が説明いたします」

背中からかけられた声が、杜氏を邸内に押し入れていた。

執事と黒服の出来る感がうまく書けていますでしょうか?僕の中では、セバスチャンと呼びたい執事さん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ