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雲の上は、いつも晴れだった。  作者: 田古 みゆう


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春の章 p.9

 『普通』は、そうなのだろうか?


 下界生活初心者の私には、彼の言う『普通』が分からない。今みたいに、鼓動が聞こえてしまいそうな程、近くに人がいたことなど、これまで一度もなかった。こんなに近くにいることは、『普通』のことなのだろうか。


 そんなことを考えながら、肩越しに彼の顔をぼんやりと眺めていると、暗めの青なのか緑なのか分からないけれど、なんだか落ち着く色のあの瞳と視線が重なった。


 しかし、彼はパっと視線を逸らすと、顔を隠すように俯きながら口を開いた。


「でも、良かったよ。白野の怪我が大したことなさそうで」

「あ、……はい」


 私は、まだ彼を見つめたまま、曖昧に相槌を打った。


「学校へ行く途中で、ものすごい音がしたから、びっくりして……」

「学校?」


 聞き慣れた単語に、思わず彼の言葉を遮ってしまった。


 よく見ると、彼は私と同じ高校の制服を着ている。どうやら同じ学校の生徒らしい。胸ポケットに付いている校章に目を留めると、学年ごとに色分けされたその色は、私の校章の色と同じだった。


「もしかして、私のこと知ってるの?」

「ん? ……あぁ」


 彼は、私を支えていない方の手で、鼻の頭をポリポリと掻く。


「『白野つばさ』だろ。俺のことは……知らないか。俺は、青島(あおしま)大海(ひろうみ)っていうんだ」

「青島大海……くん?」


 青島くんの名前を口に出して言ってみると、これが初めてではない気がした。前にもどこかで、この名前を口にしたことがあるような気がする。でも、どこでだったか全然思い出せない。学校だろうか? 毎日が目まぐるし過ぎて、忘れてしまったのだろうか?


 忘れるといえば、フリューゲルのことをすっかり忘れていた。


 不意にフリューゲルのことを思い出した私は、慌てて周りを見回してみた。けれど、フリューゲルの姿は近くにはない。


 Noel(ノエル)であるフリューゲルが、下界の人に見えないことは分かっている。しかし、一応確認してみる。


「あの……青島くん。私を助けてくれたとき、誰か傍にいなかった?」

「誰かって? 一緒にいた奴がいるのか?」


 青島くんは、先ほどの情景を思い出そうとするかのように、目を瞑って黙っていたが、しばらくすると、首を横に振った。


「俺が駆け付けた時には、白野が倒れているだけで、誰もいなかったと思う」

「そっか。そうだよね」


 当たり前だ。きっと、青島くんには見えなかったのだ。フリューゲルは近くにいたはずなのだけど。

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