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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
27/28

26_2度目の初めての詩

図書館の大きな本棚の間を通り、詩のコーナーへと入っていくとやはりオルフェウスがいた。

真面目な表情で本を選んでいる彼に近寄ると、私はなんでもないかのように声をかけた。


「オルフェ、詩の書き方を教えてちょうだい」

「ロベリア……どうしたんだ唐突に」


オルフェウスは1周目と同じように本を背後に隠して、困惑したような表情を浮かべた。

それもそうだろう。

ロベリアは詩の書き方を教えて、なんていうよりは、詩を書いてちょうだい、というようなキャラだ。

けれど私は少しすねるように視線をそらして、腕組みをし本棚に向き合った。


「別に。 あたしだって詩のひとつも書けないと貴方と結婚してから困るでしょう」

「それは……まあ、確かにな」


慣例的にこの国では身分の高い人間はことあるごとに詩を読まされるものだ。

詩が下手、というのはその人物が身分にみあった教養を持ち合わせていない、という証明のように考えられる。

だからこそ、ロベリアがゴーストライターを雇ったように自分の詩として買い取った詩を発表することがままあるのだけれど、本当に自分で詩が書けるならそれに越したことはない。


「図書館ではやりにくいから、中庭に向かおうか」


今まで詩に感心を持たなかったロベリアが急に真面目に取り組み始めた、というのはオルフェウスにとっても違和感はあるのだろうけれど、それ以上にロベリアに侯爵家令嬢としての自覚が芽生えたことがうれしいのか、オルフェウスの唇には柔らかな笑みが浮かんでいた。


「題材はね、もう決まっているのよ」


私は中庭のベンチに腰をかけるなり、すぐにオルフェウスへと切り出した。

オルフェウスは真面目な顔を私に向けて頷いていた。


「大好きな人に忘れられてしまった少女。 片思いの詩よ」

「切ない題材だな……てっきり、君のことだから華やかな題材を選ぶかと思ったのだけれど」

「ちょっと思うところがあったの」


オルフェウスの表情は本当に意外、という他に言い表す言葉が無かった。

ここにはロベリアの変化を認めてくれたオルフェウスもいない。

本当に何もかもなかったことになった2周目だからこそ、私は自分の今の心境をオルフェウスに伝えたかった。

けれど、詩の内容でアリアに感付かれるわけにはいかないから、詩の内容自体は前回と変えるつもりもない。

オルフェウスが真面目に考える隣で、私は微笑みを浮かべていた。


「出だしはね、決まってるの。 ひたひたと、ひたひたと私は歩く。 あなたの隣を」

「音が重なるというのは楽しい試みだな。 詩とはいえ、音読する以上はそういった遊び心も重要だな」


オルフェウスは楽し気に笑って、私に詩の作り方を説明してくれた。

最初に考えるのは流れで、詩の結末がどうなるのかをあらかじめ考えておけば詩はまとまりやすくなる、といったことだ。

今まで幼馴染みと詩の話なんてしたことがなかったオルフェウスはやっと自分の趣味が活かせる場を得たことで少し口数が多く、表情もいつもより柔らかなものになっていた。

1周目の時は気付けなかったけれど、彼の緑の瞳は詩の話をしているとき少年のようにきらきらと輝いて、思わずじっとその瞳を見つめたままになってしまった。

そんな私の反応に困惑したのか、オルフェウスは少し首を傾げた。


「ロベリア? 急に話をしてしまったから、分からないことがあるんじゃないか?」

「あ、ううん、オルフェの説明は丁寧だったし、分からないところなんてなかったわよ」

「そうか? 随分と黙り込んでいたから」

「それは……オルフェがそんなに熱心に話すから、聞きこんじゃってたのよ」


一瞬、私はオルフェウスに見とれていたことを話そうかと思ったけれど遠目にアリアの姿を見つけてとっさに言葉を変えた。

オルフェウスの方は自分がそんなに熱心に語っていたことに気付いたからか、少し頬を赤らめて目線をそらしていた。

そのテレた表情すごく好きだったんだよなあ、なんて感慨にふけりながら私は立ち上がった。


「オルフェのおかげで無事に詩が作れそうだわ! ありがと」

「いや、君の役に立てたなら俺もうれしいよ。 ロベリア……」


優しい笑顔を向けながらオルフェウスは立ち上がり、私の前に回ると真っすぐに視線を合わせてきた。

何、こんなイベントは1周目の時にもなかったはずだ、何が起きるの……?

私は内心の困惑を堪えながらオルフェウスの顔を見つめた。


「もしも、俺が……」

「あー! オルフェウス様! 詩を教えてほしいんです」


甲高い声をあげて駆け寄ってきたアリアによってオルフェウスの言葉は止められた。

アリアは一瞬私を睨むような表情をしたけれど、今ここで下手に刺激をしてまたロードされてはこれまでの努力が水の泡だ。


「ああ、アリアか。 今さっきロベリアからも同じ頼みをされたところだけれど、私で役に立てるなら構わないよ」

「それじゃあね、オルフェ。 私は自分の詩を作るのを頑張るわ」

「またな、ロベリア」


私が立ち去る、と分かった瞬間にアリアは笑みを浮かべていた。

本当に分かりやすくて腹がたつけれど、それでも今はまあよしとしよう。

私は中庭から続く渡り廊下を進んで、金組の塔へと戻ると一度溜め息をついた。


「本当に、いい度胸してるわよね、あの女」


明確にロベリアに敵意を向けて、時に挑発かと思えるくらいの行動をとる。

これが原作のロベリアだったら多分本気でアリアを突き飛ばしたりしてるだろうし、あの女の性格からして黙って耐えられるとも思えないんだけど。

……そういえば、あのアリアもプレイヤーてことは当然のように現実の世界にいたのよね?

私は自分の頬に手を添えて、塔の階段を上って女子談話室に向かいながら考え込んでいた。

そもそもどうして私とアリアがこの世界に来たのか。

何故、私はアリアではなくロベリアになったのか。

根本的過ぎて今まであまり深く考えたことはなかったけれど、冷静になってみればおかしな話だ。

といっても現状分かることが何もない以上、考え込んでも仕方ないことではある。

談話室につながる扉を開くと中は割と人がいた。

楽し気に噂話をしている女子たちやロベリアの姿を見て会釈をする女子もいるなか、私は暖炉から一番離れた薄暗い席にうつむいて座っている少女の向かいの席に腰をかけた。


「ねえ、あなた占いができるんですってね?」

「ふぇ!? ぼ、ぼくですかぁ?」


上擦った声を上げてぼさぼさの紫の髪を両手で押さえつけて顔を上げた少女はフェリシア・グロステア・トーテン。

がちがちの軍人家系に生まれたものの女であったことが原因で打ち捨てられるようにして育てられ人間関係を築くのが苦手。 実は6月初頭のイベントでアリアと仲良くなってからは占い、という形で攻略対象の好感度を教えてくれるお助けキャラだ。

1周目の段階ではロベリアという立場から声をかけるのは控えていたけれど、今回はもう立場だけではなく奈々としての知識も総動員することを決めている以上、遠慮は無かった。


「ちょっとあたしとオルフェの相性を占ってちょうだい」

「は、はい……で、でも、ロベリアさん、なんでぼくが占いできるって、知ってるんですか……」

「入学式の時にタロットカードをずっと持ってたじゃない。 あんなカード持ってるなら占いくらいできるんでしょう?」

「はわわわわ……が、が、がんばります」


消え入りそうな声を出しながら赤くなったり青くなったりしてフェリシアはテーブルの上にタロットカードを並べていった。

タロットはカードを3枚ずつ3段に並べられた合計9枚。


「そ、それでは上の段から1枚ずつめくっていってください」


私は言われたとおりにタロットをめくっていった。

カードはそれぞれ上から死神、吊られた男、隠者で私は思わず眉根をよせた。


「あんまりいいカードじゃないわね」

「そ、そんなことはありませんよ! た、例えば1段目の死神のカードはこれまでのお2人の相性があんまりよくなかったことを意味しますが……2段目と3段目はそれぞれ試練、真実の愛を意味しています。 つ、つまりですね、ロベリアさんとオルフェウスさんは今試練のときですが、真実の愛の助けにより乗り越えられる、とあります」

「……それってつまり、あたしとオルフェの仲がよくなってるってことかしら」

「そ、そうです! それも、とってもよくなってます! ただ……ロベリアさんかオルフェウスさんのどちらかは今、身動きがとれない状態みたいで……とても困ってますね」

「それが試練、てことかしら」

「た、多分……その、はい」


設定通りにおどおどびくびくしているフェリシアを見て苦笑しながらも、私はやっぱり彼女の占いはこの世界でも正確だという確信を得ていた。

ゲーム内のように数値化された好感度こそ表示されないけれど適切に相手の今の状況と好感度が上がっていることを確認できるのはとんでもない便利さだ。


「ありがとうね、フェリシア。 また占ってちょうだい」

「は、わわ! は、はい、ぼくでよければ!」


この学園に来るまで自宅で引きこもりがちに暮らしてきたフェリシアは友人を作ることが難しかった。

それが突然、級長の方から親し気に声をかけられたことで舞い上がっているのか、ゆるんだ笑顔を浮かべて嬉しそうに両手を振っていた。

そう、フェリシアはお助けキャラとして便利なうえに……純粋でかわいいんだ。

やっぱり絡んどいてよかったなあ、なんてことを考えながら私は今度こそ真面目に詩を作るために自習室へと向かっていった。

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