59 鍛冶科
錬金科の授業が終わり、少し休憩を挟んだ後、生徒達一行は鍛治科の施設へと移動する。
鍛冶科の建物は、大きな煙突がよく目立つ大きな建物、先程の錬金科を見た後だと小さく感じてしまうがそれでも他の施設よりは大きいと言える。
そんな施設を眺めていると、大きな袋を抱えた、少し小柄で立派な髭を生やしたおじさんが現れた。
「おうおう、これが今年のガキどもか、どれもひょろっこいの」
「オールのおやっさん、ちょうど帰ってきたところなのか?」
「あぁ、すまねぇな、ルーカンス。ちょっくら、素材の鉄が少なくなってきたんでな、仕入れていたんだよ」
「それはいいが、見学の準備はできているのか?」
「安心しろ、それの準備はもう出来てある。こっちも人手が欲しいんでな」
気楽に2人の会話が弾む。
どうやらこの2人は、仲が良いらしい。
「よっし、ガキども、俺の名前はオール。この鍛治科の工房の管理を任されている者だ。すまねぇが、鍛冶科は体験という体験はできねぇんだ。何しろ、錬金科より危険だからな。見学ぐらいしかできねぇがゆっくり見ていってくれや」
そう言うと、再び大きな袋を軽々と持ち鍛冶科の扉を開ける。
「意外に静かですね」
レオンは、鍛治科に入った瞬間に驚く。
各部屋があるにも関わらず、どの部屋からも鉄を打つ音が一切聞こえて来ないのだ。
「おう、良く気づいたな。鍛治科の施設では、各部屋に防音の結界魔法を使っているんだ。もちろん、部屋の中では鉄を打つ音が聞こえるが外部には一切聞こえていないようになっている」
「へぇ、そうなんですね」
レオンは、一つ疑問が浮かぶ。
「どうやって結界の魔力を維持しているのですか?」
「あぁ、それは太陽を使っている。太陽から魔力を受け取り、それを利用しているといった仕掛けだ。普段、お前らが使っている明かりやコンロもこのような仕掛けで動いているはずだ。まぁ、その方法も制作も一切解明されてねぇがな」
「それじゃ、どうやって作ったか分からないのにどうやって複製を?」
「それもわからん。伝承によると勇者が設計しているらしく原理は一切わかってない。まぁ、そんなことより鍛治科説明と行こうか」
オールは、結界の説明を切り上げ鍛治科の説明を始めていく。
レオンは、少しその事を気に留めるのであった。
「基本的に、武器、農具、工具を主に作るのが鍛治科だ。もちろん鍛治科は、ある程度の力と才能、そして経験が必要となる。いきなり、覚えてできるなんてやつはただの天才だな」
そう言うと何故か生徒一同レオンの方に目を向ける。
「天才ねぇ〜」
「ほんと、どっかにいそうだよな。すごい身近に...」
メロディとリアムは、レオンの方を向きながら呟いてくる。
「茶化すのを止めて。僕だってできることとできないことはあるよ」
レオンは、苦笑いしながら必死に誤魔化す。
「なんだ?嬢ちゃんが今回の首席か?」
「そうですけど、一応これでも男です...」
「その形で、男だと!!、いや、すまねぇな。てっきり、女かと思ってしまった」
オールは、大袈裟に驚きながらも丁寧に謝罪してくれた。
「いえ、紛らわしい自分が悪いんで...」
レオンも、レオンで女の子の姿にしか見えない自分を少し後悔したのだった。
「お前さんは、鍛治の仕事を見たことあるのか?」
「一度くらいしかないですね。鉄を溶かし、叩いて伸ばして研いで鋭くしていくみたいな工程しか見たことないです」
「ほぉ、それくらい知っていたら充分だ。鍛治の主な工程はそれだ、だがそれをどれほど上手くできるかによって切れ味や使い心地が変わってくるからな。一年の間は、主にその工程について詳しく学ぶ、二年以降は実践し感覚を掴むといった感じだ。さて、ここでお前さんたちに問題といこうか」
そう言ってオールは、二つの剣を生徒たちに見せる。
少し黒ずんでいる剣、もう一つは、磨いたばかりと思われるピカピカの剣を見せる。
「ここで一つ問題だ。どっちが良い剣だと思う?」
「そりゃ、こっちだろ」
リアムは、当然だろと言わんばかりに右手に持ったピカピカの剣を指差す。
「ほかの者もこっちでいいか?」
生徒たちは、皆頷きだす。
「オールさん、近くで見てもいいですか?」
「ぼ、僕も見ていいですか?」
「おう、構わない」
レオンとそしてもう1人、その剣をしっかりと見ていく。
「「こっちですね」」
2人は、揃って黒ずんだ剣の方を指差す。
「お二人さんは、良くわかってるじゃねーか」
「ど、どうもです」
「えっと確かクライくんだっけ?、親が鍛治でもしているの?」
「は、はい。僕のお父さんが鍛治師で、よく剣を見せてくれるんです」
弱々しそうにクライは、答えた。
「ほう、どこの鍛治師かわからねぇがなかなかの腕をもつようだな」
「あ、ありがとうございます」
クライは、親のことに反応したのか少し嬉しそうに返事をする。
「それにしてもなんでそっちがいいんだ?」
「綺麗な方は、剣の形をしたインテリアみたいなものだと思う。黒い方は、鉄以外の金属を色々と混ぜているから黒くなったんじゃないかな?」
「正解だ。首席様」
オールは、嬉しそうに笑う。
「持ってみたら違いがすぐにわかる。ほれ、持ってみろ」
オールは、二つの剣をリアムに渡す。
「重い...黒い方は、めちゃめちゃ重い」
リアムは、強化魔法を使わず持っているので手がプルプルとしながら持ち上げていた。
「ガハハ、持ててるだけマシってやつよ。その剣は、子供で振るうの無理だからな」
「これだけ差があるのか...」
「まぁ、こんな重い剣をまともに振れるのは、ドワーフか大柄な男ぐらいしかいねぇがな」
そういうとオールは、笑いながら軽々と剣を持ち上げ次に工房の方に案内をしてくれた。
「少し暑いが、魔法を使うのは無しだ。そこは我慢してくれ」
オールが扉を開けた瞬間、鉄を叩く音と熱風がやってくる。
「暑い...」
ミュウは、少し不満そうに言った。
「ガハハ、我慢しろよ嬢ちゃん、鍛治は温度が命、鍛治師になるならばこの温度に慣れていないといけねぇんだ。この温度を肌で感じ、そして鉄を打つ。職人の中では少しでも温度を変えてしまったら怒鳴ってくるやつもいるくらいだからな」
こうしてしばらく剣を作る工程を見させてもらい鍛治科の見学は終了となった。
「確かに、神具があるせいで俺たち鍛治師の仕事は少ねぇが形あるものは壊れる。それがルールだ。何事も万能な道具なんてないってこったな。神具が壊れた代用品として使われていければそれでいいと思っているからな。だが、いつかは神とやらを超えてみてぇな」
オールは、少し悲しそうな顔になりながらも鍛治師としての意地を感じるそんな言葉だった。
「おし、これにて体験及び見学は終了とする。各自、3日の猶予を与えるので自分が入りたい科を渡した紙に書いて提出してくれ。本日は以上解散」
ルーカンスのホームルームが終わると皆、友達と、どの科に行くか会話をしだす。
「う〜ん、多すぎて悩むね」
「まぁ、結構どの科でも面白そうだね」
メロディとマリーは、仲良く会話する。
「レオンは、もう決めたのか?」
「冒険科と何かにしようかなと考えてるかな」
「冒険科は、確定なんだね...」
「まぁ、少し調べたいことも出てきてね。ダンジョンに行ってみたいんだよね」
「調べたいこと?」
「まぁ、ちょっとね」
そんな、たわいのない話をしながら楽しい放課後を過ごすのであった。
本当に長らくお待たせしました。
投稿が遅れて申し訳ございません。
インフル、パソコンの修理、資格試験等々で書くのが遅れてしまいました。
切りがいいので次回は、閑話となります。
Twitter ID @Loewe0126
投稿日など報告しています。
DMで好きなキャラなど言ってくれたらそれを閑話で書こうかと思っています。
質問箱も用意しますので気軽に絡んでくれて結構です。




