9.メルに触れていると【3】
「あ、あの…。」
怖くなります。青ざめた事に気付いたのか、ヴォルがまた私を自らの胸に抱き寄せました。ええっ?!これはどういう事なんですか?私は混乱のあまり、頭が真っ白になってしまいました。
「落ち着け、メル。俺は…、話が上手くないから…。どう言えば良いか分からない。」
「ふぇ…?」
混乱している私には、ヴォルの苦しそうな言葉の意味が読み取れません。けれど、必死に何か伝えようとしているのは分かりました。
「だが…メルを、…っ。」
突然荒々しく髪を掻き上げました。濃紺の髪がサラサラと額にかかります。…色っぽいですね。普段おでこなんて見えないので尚更です。眉間を寄せ、辛そうな表情をしていました。無表情の彼に、こんな顔があったなんて…。私は思わず、ヴォルの眉間のシワに人差し指で触れました。
「…何をしている。」
「あ…、シワが…ですね?」
不思議なものを見るような瞳を向けられてしまいましたよ。私、おかしな事をしてます?
「これだから…。」
困ったようなおかしいような、複雑な表情です。今日のヴォルは、いつになく表情が豊かですね。
「あの…?」
「いや…、メルに会えて良かった。」
「はい?」
「人間嫌いな俺だから。」
んん?人間嫌い?初めて聞きましたよ。女の人が苦手なのは聞いた事がありますが。あ…人とあまり話さないっていうのは、そう言うことなのですか?
「あの、私も人間なんですけど。」
「あぁ、分かっている。」
何でしょう。こんなにも穏やかな表情を向けられると、良く分からなくてもこっちまで幸せな気持ちになりますね。
「とにかく、俺はメルを手放す気はない。セントラルに行く気になるまで待つ。」
えっ?!待っていて良いのですか?期限とか、言っていませんでした?心の中で一人突っ込みを入れる私です。ヴォルは何だか満足したようで、再びベッドに腰掛けてしまいました。あ、何故か抱き留められたままの私もですけど。
「あの…、この体勢は…。」
腑に落ちないですね。と言うか、恥ずかしいです。何故私、ヴォルに膝だっこされているのでしょう。
「どうかしたか、メル。」
どうかも何も…おかしくないですか?
「何故だろう。」
はい?ヴォルが私の肩に額をつけます。私が膝の上にいるので、私の方が僅かに頭の位置が高い状態なのです。
「メルに触れていると…安心する。」
「っ?!」
何と言う爆弾発言なのでしょう。この人、素で言っています?いくら恋愛経験ほぼゼロと言って良い私でも、この発言はどうかと思いますよ。だって、気のない相手に言う言葉ではないですよね?




