6.俺はメルを手放せない【3】
「あ、あの…ありがとうございます。」
何もしないのでお礼だけは、と思いました。でもヴォルはチラリと私を見ただけで、すぐに食事を始めました。溜め息が出そうになったので、私も食事に意識を向けます。朝食は食欲のないと言った私の為にか、パンと温かいスープです。
「…美味しいです。」
モヒモヒと無言で口を動かしました。何となく、涙が出そうです。すると、フワリと頭に温かさが乗りました。ヴォルの手でした。こちらを見ず、ただ頭に掌を乗せていてくれます。…ホッとします。寝不足で私、おかしくなっているのでしょうか。
食事を終え、ヴォルが片付けをしているのをボンヤリ見ていました。また私、何もせずに見物だけですが。でも一つ気付きました。私の心のモヤモヤ、少し薄くなっています。ご飯を食べたからでしょうか。
片付けを終えた頃、ウマウマに寄り添うようにして眠っているメルに気付いた。昨夜とは違い、穏やかな寝顔だ。
精神的負担を掛けているのか。無意識に俺が伸ばした指先が、柔らかそうなメルの頬に触れる。フニャリと笑みを浮かべられた。
ウマウマから奪うように、メルの身体を俺の腕の中に引き入れる。これがどういった感情かは理解しがたいが、俺がメルを手放せないのは認めている。他の女を捜す気もない。
メルを抱き締めて眠る。寝具を出したままで良かった。
意識の浮上と共に、小さく身動ぎしました。
「…あ…れ?」
私はいつの間に寝ていたのでしょう。目の前に小さな魔法の火と、草を食むウマウマさんが見えました。そして背中の温かさにも気付きます。
「ヴォル?」
身体を横たえたまま、ゆっくり後ろを振り返ります。珍しく、起きないです。それを良い事に、私はマジマジとヴォルの寝顔を眺めました。睫毛が長いです。髪と同じ紺色。鼻筋も通っていて、閉じていてもハッキリ分かる二重瞼と形の良い眉毛。意思の強そうな唇はシッカリと横に結ばれていました。こんなにじっくりと顔を見たのは、初めてかもしれないです。本当に見目麗しい。男の人にしておくには勿体ないくらいですね。
「寝込みを襲う趣味があるのか。」
「っ!?」
突然の事にビクッてなりました。いえ、悪い事はしていません。ただ寝顔を見ていただけです。
「ね、寝ていたのではないのですか?」
「寝ていた。」
私の問い掛けに漸く開かれた青緑の瞳。濃紺の髪の色にとても合います。天は二物を与えるのですね。って言うか、この人には色々とサービスし過ぎではないですか。黒茶髪、赤茶の瞳の私がどう釣り合えと?
心の中で悪態をついていたら、ドキマギしていたのが落ち着いてきました。どうせ私なんて、そこらにいる誰とでも間違えそうです。




