≪Ⅳ≫無自覚め【1】
≪Ⅳ≫無自覚め
ヴォルと一緒にお店でお弁当等を買い、やって来ました湖です。えっと、サウルクの町から歩いてすぐの所にありました。メタリニ湖というらしいです。湿地から流れ出た水が集まって出来たというこの湖はとても水質が良く、覗き込むと水底が透き通って見えました。
「凄く綺麗ですっ。小さなお魚さんがたくさん見えますよ?」
興奮して湖の底を見ていた私です。こんな大きな湖を見るのも初めてでしたし、何と言ってもその透明度に驚きました。
「危ないぞ、メル。」
近くの木の下に荷物を置き、ヴォルはその側に腰掛けています。私だけが子供のようにはしゃいでいるのは自覚しているのですが、この興奮はなかなか簡単に静められませんでした。水深が結構あるのに、水の中に潜っているくらい透け透けです。
「凄い、綺麗…っ!?」
ズルッ。お約束でしょうか。湖の畔で水中を覗き込む私の末路、という感じですね。それは思い切り滑りましたよ、手が。
「メルっ?!」
珍しく慌てたヴォルの声。見たかったですね、その表情を。まぁ、普段があの無表情ですから。って心の中で言っている私ですが、実際はそんな余裕は全くありません。頭から湖に落ちましたから。私の視界は泡で埋め尽くされ、周囲からはゴボゴボという鈍い音のみでした。でもこの湖、本当に綺麗なんです。中に入って感じたのは、遥か先の水中をも見渡せたという事です。あ、わざと落ちた訳では決してありませんが。
「大丈夫か、メル。」
駆け付けたヴォルに片手で水面に引き上げられた私でしたが、水の中に落ちたというショックを全く感じませんでした。
「驚かせてすみません、ヴォル。でも、楽しかったです。水の中、本当に綺麗でした。」
ニッコリと浮かぶ本心からの微笑み。ここの気候が高温多湿だという事もあり、水の温度は身体を冷やすものではありませんでした。心地好い、ただそれだけです。
「…怪我をしなくて何よりだ。」
ヴォルの瞳に安心の色が浮かびました。私は貧乏農村の生まれですが、泳ぐ事は出来ます。近くに川がありましたから、幼い頃からそこで鍛えられたのです。
と、そこで漸く気付きました。湖に落ちた私を引き上げて抱き留めたせいで、私は勿論ですがヴォルも水を被ったように濡れてしまっています。
「あ、すみませんっ。ヴォルも濡れてしまいました…。」
「問題ない。」
答えつつも、私を放してくれそうにありません。




