10.期限が近かったからな【5】
「ヴォルはこの旅をどのくらいしているのですか?」
「二年…になるな。」
「結婚相手を捜して、ですか?」
「……自分の目で世界を見たかったのもある。」
世界を…ですか。男の人は考える事が凄いですね。私なんて、村から出る事すら考えた事がなかったですよ。だいたい、外には魔物がウジャウジャいますから。私は自信をもって即、死んでしまいます。
「私と会わなかったら、まだ旅を続けていたのですか?」
「いや、もう期限が近かったからな。」
「期限?」
「……。」
あ、黙ってしまいました。これは重要ポイントですね?私は後ろを振り向き、再度問い掛けてみます。
「何ですか?期限って。」
「……。」
やはり、話したくないようです。どうやら、ヴォルの旅の発端はこの辺りにあるようです。でも口をつぐんでしまったからには、もう話してはくれないのでしょう。セントラルに着いたら分かるのでしょうか。
ヴォルは真っ直ぐ前を見つめています。私も前を向きました。緑のない土地が続きます。ここを越えたら、後半分。村から出て、本当に遠いところまでやって来ました。それでもまだ半分。セントラルって、遠いんですね。
「マレワット湿地帯を抜けると町がある。そこで物資を補給する。」
「はい、二度目のよその町ですね。楽しみです。」
「…俺の傍を離れるな。」
あ、少し言葉がキツいです。すみません。これって、前の町で行方不明になってしまったのを根に持っているのでしょうか?少しだけ後ろを振り向いてヴォルの顔を確認して見ますが、チラリと視線を向けられただけでした。
「あの…。」
「返事は。」
ヒッ、怖いです。怒っています。私は思わず、ビクッて肩が跳ねてしまいました。それを見たのか、ヴォルが先程より声を和らげて告げます。
「…すまない。怖がらせるつもりはなかった。」
「あ、いえ…すみません。分かりました、出来るだけヴォルと一緒にいます。」
出来るだけ、ですよ。私も乙女なので、四六時中と言う訳にもいきませんからね。ヴォルは私のその答えに何を思ったのかは分かりませんが、それ以上何も言っては来ませんでした。




