8.すまない【2】
そりゃ、ヴォルは私に優しいです。守ってくれます。温かいです。身体に平気で触れてくるし、毎夜抱き枕として一緒に寝ていますよ。これって、本当の婚約者のする事ではないですか?私はただの飾りなんですよね?
「どうした、メル。」
静かになった私に、ヴォルが優しく問い掛けてくれます。
「………苦しいですよ。」
「何処か具合が悪いのか。」
急に肩を掴まれて後ろを振り向かされました。でも、もう私は自分を取り繕えません。
「何故泣く。」
「っ、分かりません…っ。」
ポロポロ涙が零れます。自分の中の気持ちが整理出来ないでいるのです。ヴォルの事を…好きにはなっていけません。それは頭では理解しています。でもこんなに優しく声を掛けられて、こんなに優しく触れられたら…勘違いしてしまいますよ。
ヴォルは私を後ろから抱き締め、優しく頭を撫でてくれます。それも今、辛いのですけど…。安心する私がいるのを否定出来ませんでした。
この高原を抜けたら山越えでしょうか。大きな山が近付いて来るので、恐らくそうなのでしょう。どちらにしても、もう帰る事なんて出来ませんが。
ヴォルに抱き締められながら、私は今の自分を考え直します。泣いていたって仕方がない事は分かっています。割り切らないとならない事も分かっています。私の気持ちが必要ない事も…分かっているつもりでした。
「ヴォルは…私の事をどう思っているのですか?」
聞いてしまいました。
「婚約者だ。」
そう、ただの婚約者と言う名前の存在。ヴォルが欲しいのは、妻と言う存在なのです。
「そうです…よね。」
ヴォルにもたれ掛かっていた身体を起こしました。少しだけ腕を放しがたく感じてくれたのか、軽い抵抗がありましたが。
「メル。」
「大丈夫です。もう…大丈夫ですから。」
真っ直ぐ前を向きました。見た事もない土地が広がっています。
「この先は山越えでしょうか。」
「そうだ。ガボン高原を抜けたらジュドワ山脈に入る。」
「分かりました。」
私は淡々と返答をしました。もう考えていられません。私は私の心を凍らせました。




