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彼女がタンクだった……別れたい  作者: 鴉野 兄貴
嘘ッ! ……『神の塔』修羅場すぎ

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8/13

敵は任せろ~(バリバリ)……やめてっ?!

 80階を越えると大型、小型問わず様々な魔物が出てくるようになった。最弱と思われていたゴブリンやコボルドですら他種族と組み、小柄な身体や完全暗視能力などの種族特性を生かして組織的で高度な作戦を取ってくるようになってきて、極めて恐ろしい相手になってきたのだ。


 所詮人間。どんなにレベルが上がって、認識速度がレベル補正で上がり、達人の動きを複数再現できるとはいえ限度がある。剣で心臓を突かれれば死ぬ。


「やっかいだね」


 壁を破壊して登場するオーガたちの待ち伏せ、背後から小柄な身体を生かしたコボルドやゴブリンたちの奇襲と暗闇魔法、遠くからのハタモトたちの弓による狙撃をハヤテはそう評した。

 定石破りもいいところで、その矢は平気で背後のハヤテから狙ってくる。俺達前衛の動きも敵に振り回されつつも対応を迫られる形になって戦いにくい。

 キュラキュラと無限軌道を鳴らすつくなを背後からじっと見るハヤテ。ん? どうした。


「ねね。つくなさんの中に入っていいかな」

「え!?」


 子供っぽいハヤテ。その何気の無い言葉につくなはものすっごく狼狽した。



「い、いや、いや、私ッ! ちーちゃんがいるし! いやいやいやハヤテ君のことは嫌いじゃ無いけどッ?! でもそうだね司教は中にいたほうがいいよねッ! でも初めて男の人を」


 ストーーップ。

 おちつけポンコツ。


「ハヤテ。九七式中戦車チハの中はちょっとした衝撃でリベットが飛んで死ぬ事もあるのよ」


 さすが年の功。

 ……もとい同じ女性。

 ミズホが助け舟をだしてくれた。

 まさか奴はココロ読めないよな。

 一瞬睨まれた気がする。


 チハのリベットネタ。

 ちょっととは言わないが、そういう事もあるかも。

 なんせ携行火器で斃されるほどだし。

 後半はブリキ戦車の渾名と学生が作っていたしな。

 でもそれはイタリア戦車のほうじゃなかったっけ。

 女性たちに却下されてふてくされるハヤテ。


「ぶ~~。戦車に乗ってみたいのに」

「の、の、乗る……!?」


 このエロ戦車、殴ってやりたい。



 そういえばつくなのやつ、街中で道に迷ってその手のところを歩いてしまったときもそんなことをほざいていたっけ。


 いいか。誰とは言わぬがこの際だ。

 この機会に言っておく。良く聞け。


 貞節とは最も必要なその瞬間まで、守るために在るのだッ! いや、ちょっとサカってしまうだろう事も否定しないが。そこは男の矜持を持って。


「それにしても助かったわ。つくなちゃんが来てくれて」


 俺の葛藤をよそに最前線でタンク役をやらされていた状態からしんがり役に納まったミズホが呟く。

 てか鎧着ろよ?!


「私の美しい身体を隠す? それは世界の損失ね♪」


 ミズホのウインクが帰ってきたが、そうやって惑わされた男をアホほど知っているので黙る。

 ギルドは違うが、要注意人物として掲示板に晒されまくっているし。こういう時はスルーである。


「そうね。やっぱり肉体美よね」


 そう同調しながら空を飛ぶ謎の飛行物体。



 せめて、せめてパンツをはけ。


「パンツじゃないから恥ずかしくないもん♪」


 そもそもそれは全裸だ。


「運営さん! 運営さん! 変態がここにいますッ!?」


 ----== SystemMessage ==----

 問題ありません


「返答するのかよッ?! そこでッ?!」

 ----== SystemMessage ==----

 暇ですので


「返答出来るならば俺たちを開放しろ!?」

「そうだね。にいちゃんの言う通りかも」

「あ、ちーちゃん賢い」

「私はパッチに興味あるなぁ」

 ----== SystemMessage ==----

 それは出来ません。そしてミズホさん。それは100階に到達してからになりますね。


「何故開放しないッ!?」


 俺はまだ見ぬ空間の遥か先で俺たちを見ているであろう運営のヤツに思いのたけをぶちまける。



 ----== SystemMessage ==----

 ポッ


「い、今ものすっごくおぞましいメッセを見た気がする……」


 頭を抱えて逃避する俺に同調するメンバーたち。

「ぼくも」「私も」「私も」

「ポッって新しいスキルかなぁ。楽しみだなぁ!?」


 しかしミズホだけが平常運転。さすがド廃。

 今更だが廃人というのは現実世界復帰不可能なくらいゲームにドハマリしている輩を指すスラングであるが本当に今更だな。とりあえずだ。


「この塔を『小型核爆発』で消し飛ばそう」


 いい気分転換になる筈だ。


「激しく同意」

「私も57mm砲弾連射する」


「及ばずながら『忍法・燃料気化爆弾』で」

『それ、忍法じゃない』


 荒木の切り札に突っ込む俺たち。

 なにそのバンカーバスター。

 なにそれ怖いよ。



「え~~。クリアできなくなったらパッチ当ててもらえないじゃ~~ん」


 膨れるミズキを無視した俺たちは破壊活動を開始した。


 ----== SystemMessage ==----

 やめてっ! 私壊れちゃう!


 見境無く暴れる俺たち。

 ヒャッハ~~!! 運営は皆殺しだッ~~~!!(やけくそ)


 荒れる俺達。

 ノリノリのシステムメッセージを経て俺たちの破壊活動はある程度成果をあげた。

 壁を突き抜け進む俺たち。目指せ上層。


「師匠! 師匠!?」


 荒木は全裸でマッシブポーーズを極め、空まで飛ぶ変態である。

 喜ぶハヤテのセンスが解らん。本気で解らん。


「荒木といえば師匠です」


 そう断言するミズホに「何故」と聞くと「ググレ」といわれた。よくわからん。



 戦車つくなの上を空中浮遊しながら索敵する荒木のお陰で早期発見、早期撃破ができるのは嬉しいのだが。


「ところでハヤテ」

「うん? なに智明兄ちゃん」


 戦車の機銃座にちょこんと座っている司教に声をかける。

 ちなみに「ちーちゃんでも乗せていないのに」と鼻息、もといエンジンを鳴らすポンコツは蹴っておいた。


「前から疑問だったが、お前等どんな関係よ」


 ハヤテはちょっと逡巡しゅんじゅんすると「ただの友達」と応えてきた。


「そうか」

「うん……」


 つくなの無限軌道キャタピラがキュラキュラ五月蝿い。加えてエンジン音。


「ハヤテ、なんか言ったぁ~~♪」


 殿を務める戦士ミズホはコレでもかッ! というほどの高級装備(胴装備は除く)。

 対してハヤテの装備は使わないところは木の盾。



 木の盾は初期装備だ。そりゃ司教には不要かもしれないがそれにしたってもっといい装備があるだろう。

 それなのに武器は最高級の回復装備・『癒しの杖』と実にチグハグな組み合わせ。

 普通に友人として、あるいは固定パーティとして組んでいたらハヤテが貢ぐ側でもこうならない。貢ぐために内職するだろうし。


「つくなならいいだろ。話してくれよ」

「まぁね」


「恋人でもない、姫に貢ぐ従者キャラでもないし、どういう関係かなぁと」

「……別にどうでもいいでしょ」


 とりつくしまも無い。

 荒木は俺たちの上をヒュンヒュン飛んでいる。

 全裸のHENTAIに目を逸らしてみると。


 白い、白い塔の内部。

 長い、長い階段が螺旋を描いて天に向かって伸びているのが見えた。

 その上からは陽光が見える。

 そう。俺たちはついに来たのだ。


「99階か」

「やっとここまでこれたねぇ!?」

 ため息をつくハヤテ。



「みんなのおかげよっ」


 ミズホは嬉しそうに笑った。


「俺、この塔を攻略したら、栗山と結婚するんだ」


 荒木が変な事を言うので殴っておく。

 死亡フラグ立てんな。


 綺麗な白い階段を踏み砕きながら進む無限軌道。

 階段に登って逃れる描写が漫画にあるが、アレは階段に戦車の重量が耐えない場合のみである。

 階段側に充分な強度があれば段差如き踏み潰しながら戦車は進むことが出来る。

 戦車から逃げるのは難しい。速度があるし、走破能力が高い。


「綺麗な塔だね」


 地獄のような、実際地獄だったが、改めて振り返ってみると確かに美しい塔だった。

 森が、川が、山があり、風がそよぐ。

 魔物と様々な謎解き、テレポーターや仕掛けは頂けないが。

「それももうすぐ終わりだね」

 階段をぶっ壊しながら進むつくなの後ろを歩く俺たちはちょっと歩き難いがそれゆえこれまでの平坦ではない道程と犠牲の重さをゆっくり踏みしめ進む。



 前方を進む戦車。

 様々な魔物から引っぺがした外部装甲板と革を身に纏ったつくなの姿はちょっとしたホラーである。

 そして、その外部装甲を外した場合、見るに耐えないほど酷い損傷を受けていることに。


 俺は気がついている。


 だが、俺は気付かないふりをして進む。

 ときどき焼けたエンジン部分をあっちあっちと叩いて労をいたわってやりながら。


「うわぁ!?」


 機銃座から身を乗り出すハヤテ。彼の顔を朝日が照らす。

「すっごく……綺麗!?」

 つくながエンジンを止めて呆然としている。

「本当。綺麗ね」

 荒木がさりげなく俺の腕に身体を絡めてきたので頭突きをかます。

 うずくまる荒木にトドメの踏みつけ。


 地上百階。『神の塔』から見るこの世界は。

 ……美しかった。

 徐々に世界を明るくしていく太陽。

 光を受けて塔の下で輝く雲を目指す白い鳥たち。

 夜闇と共に徐々に消え行く星たちの絶妙の対比。



 人間が作ったヴァーチャル・リアリティの世界であると知っていても。だ。


 そして。


 この世界独特の惑星を覆う『輪』が見える。

 『輪』ははるか天空をかける神の道としてこの世界の神話や伝説にたびたび登場する。


「あっ! 海だッ!?」

「つくなお姉ちゃん! あっちは山が綺麗ッ!?」


 どさ。

 汗臭いマッチョが俺の背中にのしかかってくる。

 おもてえ。VRなのに重みも感じるっておかしくね。


「おい。荒木。抱きつくなよ」

「ごめん。……智明」


 でも、いいでしょ。


 そういう荒木の声は弱弱しかった。

 今まで背骨が折れる勢いでおれに抱きついていたのに。……女の子のように柔らかく俺に抱きつく。


 生暖かい感触が俺の背を伝う。

 そして、今まで嗅ぎなれた。

 ……逆に麻痺していた嫌な異臭。



 どきん。

 どきん。


 これは恋心ではない。

 不安と焦燥感。

 振り返ってみてはいけないという予感。

 そして。確信。


「あ……ら……き?」

「そうだよね。私なんて迷惑だもんね!?」


 荒木はそう呟いた。


「智明。私ね。この世のすべての男の子は私のことを好きで当然だと思ってたの」


 でもね。


「『お前の目が嫌いだ』ってアナタは言ったわね」


 皮肉ね。

 荒木は笑った。


「嫌われて、初めて男の子を好きだって気持ちを知ったの。理解したの。そして……許せなかった」


 あら……き?

 ずるっ。荒木の身体が崩れ落ちる。



「あんなキモくてブスの何処がいいのって尋ねたら君はこう答えたよね智明。『お前の心と身体を入れ替えてもその台詞を吐けるか』って……意味わかんなかったよ。でも……今なら解る気がする」


 ごくり。禁忌に触れることだと思った。

 だが、話さなければいけない。

 問わなければいけない。


「お前。新木あらきしのぶか」

「……うん。黙っていた」


 忘れはしねぇ。

 つくなの元友人らしいが、自分の容姿を鼻にかけてあっちこっちの男に媚を売った挙句、不良生徒を誘惑して、つくなを男子トイレに呼び出して暴行させようとした女だ。

 しかも主犯は男二人と真琴にして自分は逃亡しやがった。


「君達が、羨ましかった」


 そういって荒木。いや、新木忍は崩れ落ちた。


「ごめんなさい」


 錆びた赤の臭いの中、生臭い血反吐とともに荒木はそう呟いて。……光の粒子となって消えた。

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