(レベル)30代……俺ずっと一人?
「つくなっ! 右45度!」
「……え」
「くっ!!?」
俺は『小型核爆発』を至近距離で放つ。
都合がいいことにこの魔法は味方に被害を及ぼさない効果もセットでついている。
某逃電の袖の下の威力を感じさせる素晴らしい魔法である。
原子力は安全ですってやかましいわ。
キュラキュラと糸の切れた凧のように進む戦車は魔物と討ち合う俺を尻目に進む。
つくなは呆然自失状態にあり、砲すら撃とうとせず。「つくな! 戦え!」俺が手間取っている間に小型の魔物がつくなに取り付き、追加装甲を引っぺがそうとする。
「おいっ! つくなっ!? 正気に戻れ!?」
あのままでは壁にぶつか……。壁が壊れた。所詮1ドットの厚さだった。
『おおっと! テレポーータ!!!?』
顔が青くなる。転送先しだいでは即死だ。
「つくなあああっっ!!」
やっと最後の魔物を斃したとき、俺のパーティ表示のつくなの表示は「いしのなかにいる」だった。
「つくなっ! つくなっ~~!?」
気のやさしいつくなにはあの修羅場は耐えられなかったのだ。
マモノの血と汚物の中に膝を尽き、目の熱いものをぬぐえず叫ぶ俺に。
「なぁに」
「俺の彼女が死んだんだ……ほうっておいてくれ」
滂沱の涙を止められない俺。喉が痛い。鼻水も止まらない。
本当にこれはVRか。
「……ちゃんと彼女って言ってくれた。嬉しい」
糞やかましいポンコツ原動機音とキャタピラの音には聞き覚えがある。
「ひゃっほ~~? ちーちゃんげんき~~!?」
俺は幻を見たらしい。ボロボロでベコベコの戦車が不細工な追加装甲版を施した状態で砲塔と機関銃座をクルクル回している姿。それはまだ記憶に新しい。
「元気? お前がいない世界なんて絶望した。もう死ぬ。止めんな」
「え~~? 私死んでないよ?!?」
腹に刀を突き刺そうとする俺を止めたのは露出度の高い防具(?)を身につけた黒髪の美女。そして子供っぽい喋り方をする青い僧服の司教。
「智明君。しっかりしなさいよ」
「だよ。智明兄ちゃん」
知っている相手だ。
面識はある。相手にしたくないだけで仲が悪いというほどでもない。ネットゲームの世界ではよくある利害一致すれば協力する程度の間柄のそれでもフレンド登録はするかどうかという関係。
「おまえら……ミズホ? ハヤテ!?」
「お兄ちゃんおひさっ!?」
「変なところで会うわね」
司教・ハヤテはそういってウインク。
戦士である黒髪の美女は思いっきり胸を揺らして見せた。
ド廃主婦戦士ミズホ。
その取り巻きである司教ハヤテ。
嫌いではないが苦手な相手といたのは。
そう、あのオンボロのスクラップのそのあの。
つくな。
「お、おまえ『いしのなかにいる』じゃなかったのか」
開口一番。アレは即死のはずであるが、つくなはあっさりこうのたまった。
「私、石の中でも死なない」
「な、なんだってぇぇぇぇ」
だからどうしたと出てきたらしい。
常識ブレイクしすぎだろう。
「ちょっと落ち着きなさいよ」
「そうそう。おにいちゃん。ハッハッフー? だったっけ」
「違う!」
俺とミズホ、ハヤテのボケに思わず同時ツッコミ。
「は、ハヤテ君耳年増……(*´Д`)」
「黙れポンコツ」
本性出すなミズホ。はっとなって可愛らしいスマイルに戻る彼女にげんなりな俺とミズホには好意的なつくな。焚き火を囲んで今まで起きたことを話す。
「D'sが死んだ!?」
「……」
二人は一瞬戸惑った表情を浮かべたが。
「そう」
「……おと」
「喋るな。ハヤテ」
動揺するハヤテを一喝するミズホ。
普段の愛想の良い態度からは信じられないほどキツイ。この二人の関係がイマイチわからん。
「家族に『笑っていた』って伝えてくれって」
「そう」
「うああぁぁん」
急に泣き出したハヤテを冷たく見つめるミズホ。
たき火が爆ぜて火の粉を飛ばす。夜闇が俺たちを言葉少なにするも、たどたどしく経緯を連ねる俺達。
「あなたたちはそのD'sを踏み潰して進んできたのね」
「ああ」
ぱきっ。小枝を握りつぶして火にくべるミズホ。
あたふたとうごき、マグカップをこぼすハヤテに砲塔を向けて気遣うつくな。揺れる炎に魅入られる俺。
「その所為でぼうっとしてテレポータ。危機管理甘いわね」
絶句するつくなに容赦なく言葉を連ねるミズホ。
「相棒を放って勝手に進んで、どうするつもりだったの。死ぬの」
「ご、ごめ」
「……私に謝ることじゃないわ。
そちらの彼氏に言いなさいよ」
え、えっと。
「その、俺はつくなにはその」
「私は大ありだけど、この際いいわ」
おちこむつくな、そして俺の内心を見透かしてなのかニコリと微笑むミズホ。
「ここは共同作戦と行きましょう」
斥候していたとして後から合流した全裸の変態……もとい高レベル忍者『荒木』のおかげでほとんどの罠は回避可能になった俺たち。つくなを全面に立てて、ハヤテの『装備補修』シャワーーでガンガン進む。
荒木はムキムキマッチョのおっさんだが、中身は女の子らしい。
どういう趣味だか、激しく気になる。
「ポイズンジャイアント6体」
荒木の遠隔通信が入る。
「一匹、『オトコプター』で倒した」
スキル。オトコプターは腕を回転させて空を飛ぶ。巻き込まれると巨人でも死ぬ。
「そのまま戻ってきて~~♪ 荒木」
「了解」
爽やかな笑顔を浮かべ、腕を回転させながら空を切って進む全裸の変態がこっちに……こっちくんな。
いつの間にか仕切っているミズホ。掲示板で晒されまくっている要注意人物だが普段の彼女は明るくて優しいムードメーカーであり、レベル上げで組んだ初心者のほとんどからの評判は悪くない。
「マハリクマカニタ♪ 空気よ毒になれ~~!?」
おい?!
ハヤテがかざした指輪の力で発生した強力な猛毒の霧を吸い込んでバタバタ倒れるポイズンジャイアント共。お前等毒効かないのではないのか。
「うーーん」
「ハヤテ君、やりすぎ」
「だって、今ので4個目の指輪だもん。ポイズンジャイアント相手には成功率95%。
指輪破壊確率5%だって。使わないと損だよ」
悶絶して倒れた巨人どもを踏み潰しながら進む俺たち。
「『治癒』の札が出たけど」
「サンキュ。荒木」
俺の手をガッチリと握って瞳を潤ませ、「大事に使ってね」とぶりっ子調で喋る荒木だが正直嬉しくない。
とはいえ、いままで宝箱は無視を決め込むかつくなが踏み潰しても壊れないものしか入手できなかったので荒木の存在はありがたい。
「でも他の連中は」
「……」
「……」
御互い、聞かないほうがいいこともあるようだ。
ミズホを女神のように崇拝して貢いでいたカズアキとホノカ。高レベルの侍と司教だったはずだが。
「カズアキにいちゃんは……」
また泣き出すハヤテ。おちつけ。その顔で泣いても可愛くない。
「殺人トラップがある。気をつけてね」
少女口調の荒木の野太い声。とにかくキモイ。
強靭なタンク役(てか戦車)と優秀な斥候兵である荒木、随伴歩兵である俺とミズホの二名、衛生兵ハヤテを得たチームはズンズンと80階にまで到達した。
その間もガンガンつくなは攻撃を受けるが、即座にハヤテがその攻撃を『装備補修』で治してくれる。
同じ魔法でも魔法強化装備を沢山装備できる司教のほうが効果効率共に優秀なようだ。
そして。
「すげぇ。……霧雨だぜ」
荒木が無事罠を解除し、いわくありげな棺を開けたとき、俺は思わず歓喜の声を上げていた。
中に入っていた抜き身の一振りは侍たちのあこがれの最強武器。
「こっちはロングソード+6だよ」
「+6?! 見たことないぞ! 単純計算でもドラゴンスレイヤーより性能がいいだろうな」
はしゃぐ俺たち。
ここが死地であることも忘れてしまう冒険者の性。
「私私、全部もらっていいでしょ??」
ミズホは嬉しそうにそういったが、荒木が「キリサメは栗山に貸してあげて」と言ってくれた。
有用性を認めたミズホは嫌々。もとい顔に出さずに俺にそれを渡す。
これが、これが……霧雨。
青光りする刃に白い刃紋。
それをつつむ細かなしずくは絶えることなく。
清涼な水の香りを放ちながらもその黒い握りは濡れることなくしっかりとした手触りを伝えてくる。
霧雨は常に水を噴出し、切れ味が落ちることが無く、MPに関わりなく『浄水』の魔法を常時使えるようになる。また使用者は毒に呪い。病気に対しても強い耐性能力を得ることができるようになるという。
その刃渡りは2m近くあり、使いこなすのは困難を極めるが、岩をも豆腐のように切り裂く切れ味を持つ。
伝説の魔剣『村様』を除けば最強の逸品といえる。
「……」
つくなの機嫌が明らかに悪い。
荒木は昔から俺にベッタリしてきて、正直キモイのだが。
「栗山。似合っているよ」
あとなんで荒木は俺の名前を知っている。
鞘は別枠であって、あらゆる刀剣をコンパクトに腰にさせる鞘を荒木がくれた。これを使えば霧雨を使って居合いが打てるという。
貴重な品だが既に4本目でいらないらしい。
いきなり射程が1m40cmも増えるのはスゲーー違和感があるが何度か練習してみて慣れるように努める。
つくなの上に並べて乗せたリンゴを三つ寸断。
ただのパフォーマンスに過ぎず、実戦では何の役にも立たないが微妙に距離や奥行きを変えている。
装甲版を傷つけないようにすんでで止めて両断。
いける。使えなくはない。
俺は今までの愛刀、なけなしの金で買おうとしてそれでも足りなかった金をつくなが出してくれた『風鳴』をアイテムボックスに入れる。これを捨てるなんてとんでもない。
「……やっぱり」
「ん。どうしたつくな」
エンジンをぶんぶんふかすつくな。リンゴが揺れて落ちる。
「今まで変だと思っていたんだけど、キスひとつしてくれないよね」
「学生の俺たちには早い」
つくなは砲塔を俺の反対側に向けて呟いた。
その先には俺の大道芸を絶賛するハヤテたちと歓談しつつ俺に手を振る全裸のHENTAIマッスルがいる。
もちろんそれは荒木なわけだが。
「荒木さんのほうが好みなんだよね。私、ブスっていつも言うし」
「ちょっとまて。つくな。それは誤解だ」
しかしそれを冗談と受け取らない奴がいた。
いや、腐趣味に萌える廃主婦は別だが。
「うふふ。そうだったの? 私、いつでもオッケーなんだけど」
ぬっちゅり。擬音と共に濡れた荒木の唇が俺の口を狙って来襲する。
うわアアッ??!
……魔剣。霧雨の犠牲者第一号は。全裸の変態忍者だった。
俺としたことが仕損じた。




