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彼女がタンクだった……別れたい  作者: 鴉野 兄貴
嘘ッ! ……『神の塔』修羅場すぎ

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6/13

さぁ……俺達の屍を越えていけ

 地上60階に到達した。


「『装備補修』『体力回復』」

「少し、マシになったかも」


 俺の前を進む中戦車に丸太がまたぶつかった。殺人トラップだ。


「大丈夫かッ?」

「もう。ちーちゃん。丸太がぶつかったくらいで」


「怪我してないかっ! なんかあったら言えよ」

「気にしないから、蒸し返さないで」


「……すまん」


 丸太の一撃でまたつくなの表面に傷がついた。

 つくなの原動機エンジン音に明らかに不調音が混じりだしている。


「すまん。俺に『罠感知』スキルがないばかりに」

「盗賊さんじゃないんだもん。視覚だけでやってるちーちゃんのほうが凄いよ」


 進む無限軌道キャタピラもどこか頼りない。なるべくゴミは取ってやっているが。ああ。


「……機工士が残っていればなぁ」



「戦車は無理じゃないかなぁ」


「なんども言うが、チハは戦車じゃなくて」

「その話は、眠る時に。ね」


 ゆっくり前方を警戒しながら進む戦車と後方で馬を駆りながら周囲を警戒する俺。


「ねね」

「ん」


 つくなは俺でさえ覚えていない昔の話を長々と語りだす。

 話しながらも俺の手は休まらない。後ろから不意を撃ってきたアークデーモンを『真空弾』と剣の合わせ技で一撃。


「でさ。下着を破られてもうだめだってときに」

「その話はすんなっていったじゃないか」


「もうダメだって頭の中が真っ白になったときにね。ちーちゃんが立ってたの」


 かっこよかったなぁと続ける。正直、アレは不意打ちでモップの金属部分が巧く当たっただけである。


「すっごく無愛想な顔なのに、何処か優しくてさ」

「ふーーん」



御伽噺おとぎばなしの騎士さんみたいだった」

「そっか」


 どうでもいい話をしながら進む俺たち。時折魔物や罠が情け容赦なくつくなの表面をえぐっていく。

 俺は彼女を守ることは出来ない。侍は戦士と同等の装甲しか持たない。悪くはないが騎士や戦車ほどではない。


 戦闘の合間に彼女が話を振ってきた。


「司教さんってさ。優秀な職だよねぇ」

「だからやれって言っただろ」


「お侍さんや戦士さんや盗賊さんだったら、怪我しちゃうからだよね」

「ちがう。ちがうぞ。……何言ってやがるこのブス」


「顔、真っ赤なんですけど~~ うふふ」

「いやいや。お前そんなキャラだったっけ」


 いつの間にか主導権を奪われている。恐ろしい戦車おんなだ。


「後ろに引っ込んでいても、ちゃんと皆を守っているし、アイテム鑑定は皆の希望を支えるっていうけど。……私は、ちーちゃんと肩を並べて歩きたいんだ」

「そっか」



 俺は馬を進める。なるべく彼女の前に立たないように。


「ところでちーちゃん」


 ん。今度はなんだ。これ以上俺の涙腺を刺激するな。まじでそろそろやばい。


「この追加装甲、かっこ悪い」


 そっちかい!


 それは斃した魔物の皮膚や皮、骨や鱗を引っぺがし、衝撃吸収財になりえそうなものを間に挟んだ応急措置である。効果は思ったより抜群だった。


「しかたないだろ。こうか は ばつぐんだ」

「前に買ってくれたワンピース、正直ダサかった」


 ……。

 一時間かけて選んだんだが。くそぉ。


「お前、毎日着ていただろ」

「だって。一緒にいるときなんて珍しいもん」


 普段『会う』ネットゲームの中では、皆美男美女で綺麗な服なんて当たり前だ。不細工同士でも、気持ちの篭もった服を着合って街を歩く。



 実は幸せなのかも知れない。

 いや、幸せだった。


「クリアしたら、良い服買いなおしてやる」

「ホント?」


 ブスブスと不調な機械音を誤魔化しながら進む九七式中戦車チハは明らかに機嫌がよさそうだった。


 だが。

「来たか」


 俺たちの視界が広がる。

 俺たちの鼻を刺激する臭いは本当にVR機器が生み出したものなのだろうか。あまりにもリアルでおぞましく。


D'sディさん。この……光景は」


 D'sは敵対ギルドのボスなので、今まで『さん』などつけて呼んだことなど無い。

「知れたこと。俺のギルメンさ」

「いや、これは」


 それは死体だった。いや、それを死体と呼んでいいのかすら解らない。謎の触手に体中を貫かれ、蟲に脳を乗っ取られて動かされているだけの肉体といってさしつかえない。



「俺は『魔法使い』でね。前に一度この塔を攻略したから侮っていたよ」


 彼が一度この迷宮をクリアしたのは周知の事実だ。

 その時、特別パッチで『死霊使い』の能力を得たのも既知の情報。

 敵味方の死体を操ることの出来る戦闘ギルドのボス。恐ろしい敵だった。

 本人も上位職にあえて就かないことにより、上位職の連中の倍以上のレベル、

 魔力を武器に転換する『フォースメイス』の攻撃力を持って味方にすら畏れられていた。


「階段が無いんだ。あと一人で完成するのにね」


 くちゃくちゃとなった人間が絡み合い、くっつきあって苦悶の表情を浮かべている。


 階段は『生きていた』。


「つまり、誰かが来るのを待っていたんですね」

「そうなるな」


 俺は必殺の居合いを左手で抜く。コレはスキルではない。

 とある映画俳優が得意とした0.2秒の居合いを独自に練習したものだ。その居合を『フォースメイス』が止めた。魔法使いなのになんて反応速度だ。



「無駄だ。頼みたいことがあってね」


 なんだろうか。

 彼と敵対しても勝ち目がない。

 話すことがあるならばそれで先延ばしも検討せざるを得ない。


「もしこの先にいくことがあったら。

 もし、クリアできるなら、俺の家族に『笑っていた』って伝えてくれないか」


 意味が解らない。


「どうやら。俺は時間切れらしくてね。いや、タイマーの問題じゃないんだ」

 この光景の理由と繋がる。まさか。


「ちーちゃん。どゆこと」

「D……あんた、とおの昔に」

「そう。脱落している。ここにいたボスがちょっと強すぎた。

 咄嗟に自らを屍肉にして、魔物に変えたがね。つまり、俺がこの階のボスってことだ」


 なんてこった。


「あと一人で、あの橋は完成するって言ったな」

「ああ」



 戦いは避けられないだろう。

 そして俺たちは勝てないであろう。

 しかし彼ははかなく笑った。


「俺は、あの糞運営のためにボスになる気はなくてねぇ」

「え」


 Dはゆっくりと肉と骨で出来た橋の中央、空間の合間に立つ。


「俺が、最後のピースだ」

「なっ?」

「Dさんッ?! ダメッ!?」



 Dはにこりと微笑むと、橋の中央に身を投げた。


「進め。俺たちの屍を越えていけ」


「いやだあああ」「D様の裏切者~~!?」「俺は欲しいアイテムがまだあるんだっ?!?」

「俺はレリックが出来ていない!?」「俺はカスタムがまだなんだっ!?」「やだっ! 俺は女をもっと食いたいんだッ!?」「あたし、あんな旦那のために働きたくないッ! ゲームしているとイケメンが一杯なのっ!?」「いやだいやだ。死にたくない死にたくない!!!?」



 Dの声が聴こえる。


「最強で、皆仲良く楽しいギルドを作りたかったなぁ」


「勝手に作れよッ!?」「俺たちを巻き込むなッ!?」「あああああああ! 最強ギルドっていうからはいったのにッ!?」


「Dィィィィィィィィィィイイッッッッッッッッッッッッッッ !?」


「やだ」


 つくなが後退する。

 次の階に向かうにはあの橋を渡るしかない。


「俺も、嫌だな」


 正直、つくなにこれ以上酷い目にあわせないで欲しい。


「必要なのだ。誰かが塔に登らないと。誰かがクリアしないと終わらないのだ」


 橋の中央、Dの銀色の指輪のはまった腕が軽く振られた。そこから『爆発』の呪文が紡ぎだされ、俺たちの背後に吸い込まれていく。

 なんてことを。



「ほら、時間はないぞ」


 爆炎が俺たちを追う。

 おれとつくなは否応もなく走ることになり。

 それは足にまとわりつく掌だった肉を蹴飛ばし脚だったそれを切り飛ばして歩くことで。


「さぁ……俺達の屍を越えていけッ」


「いやだああ!?」「しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくない」「やめてぇぇぇやめてぇぇぇやめてぇぇぇ!?」「いやだいやだいやだ」


「うわああぁっ!?」


 俺はつくなを押すように走った。勿論人間の力では九七式中戦車チハを押すことは出来ない。

 ゆっくりと『爆発』の衝撃波が近寄ってくる。


「ごめんなさいッ! ごめんなさいッ!?」


 つくなが無限軌道キャタピラを回す。俺たちの足元で肉が飛び散り、骨が砕け、怨嗟と怨念、絶望の声が幾重にも俺たちの脳を焼く。


 最後にDの声が。何故か聴こえた。

「俺たちは、人生と言う意味では既に『死んでいるのさ』。栗山くん」

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