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立木打ちの稽古を終えて、王子と寸止め稽古をしていると林の奥から赤白のストライプの制服を着た六十六期生たちがゾロゾロと帰って来た。
「おい、立ち合い稽古するなら演習場を使え」
「あ、はい」
叱られてしまった。
そうか、一個うえが演習か何かで出掛けてたから立木が空いてたのかもな。
王子が一人に声を掛けた。よく食堂で一緒になるマルキオッレの一味だ。
「カヴール殿、遠征ですか?」
「クラウディオか。ああ、木こりの真似事だ」
「木こり?」
「伐採演習だよ来年だか再来年に使う薪の準備だ。お前らも秋になったら玉割りをやらされるぞ」
「玉割り?」
「丸太を鋸で切り分けるんだよ。冬になったら薪割りだ」
それだけ言うとカヴール氏は手をヒラリと振ってそのまま立ち去った。
「そんなのもあるのだな」
「ですね、驚きました。しかも休みの日に」
少し「兵士とは?」という疑問が頭をよぎったが、考えてみれば世界中どこの軍隊だって工兵はいるものだもんな。拠点を作ったり橋を架けたり、その仕事のうちに木材の確保や燃料の確保が入っていてもおかしくはない。
なるほど、知れば知るほど王族がアカデミーに入りたがらない理由がよく分かる。入学試験にだけ合格して入学しないとか意味わかんねえと思ってたんだけど平民と一緒に泥だらけになって力仕事するんだもんな。お貴族さまとしては受け入れられないよな。剣術だけ格好良くやってたいよな。
しかしだ、こないだ入学式の時に先生が言ってたけど、確かにこういう下働きとか徒歩での行軍とかの経験がないと戦術の立案とか出来ないよな。むしろ、こうした下働きを知らない貴族が立案とかしたら無理難題だらけになって部隊が機能しなさそう。
歴史の中でマジでワンマンの独裁政権が長続きしない理由が分かる。やっぱ軍の運用にしても経済政策にしても優秀な専門家がやらなきゃ駄目よ、やっぱ。
演習場に移動するにはもう遅かったので俺たちは撤収することにした。
ボロボロにしてしまった生木を交換して縛り直す。
「そういえば、ポリオリでも薪割りはやっていたな」
「そうなんですね。やっぱ村総出で山に入ったりするんですか?」
「実はよく知らんのだ。ドワーフが炭を作るのでドワーフに任せていた」
「村の皆さんの使う燃料なんかはどうするんです?」
「おそらく枯れ木や落ち木を集めて使うのだろう。森は国の財産だから勝手に木を切り倒すのは禁じられておる筈だ」
そっか。勝手に切って燃やしたり売ったりされては森が丸裸にされてしまうか。昔話でメジャーな「おじいさんはやまへしばかりに」の「しばかり」は柴刈りと書いて芝刈りとは違い、枯れ木や小枝を集める仕事だと知ったのは大人になってからだった。何処の世界も同じだな。
そういえばシュゴトヴォ以外にも沢山ドワーフは居るって話だったもんな。木こり特化型のドワーフたちが山の中で暮らしているのかしら。いつか会ってみたい。
「冬になると城の裏手に何処からか玉割りされた木が運び込まれて農奴たちに斧で割らせるのだ」
「冬の風物詩なんですね」
「ポリオリはあまり薪を必要としないから手間が少ないとルカが言っていたな」
「雪とか降らないって言ってましたもんね」
バーゼルの家々はみんな煙突が付いてたから凄い量の薪を必要とするのだろうな。アントマンたちが木こりと罠猟しか仕事がないって言ってたもんな。湖が凍るくらいだ。冬の間に薪が切れたら死んでしまう。
「王都の冬は寒いんですかね?」
「そうなのだろう」
王子は寮の裏手を振り返った。
幅広の寮舎の裏手には簡易な屋根が張り出しており、そこには切り揃えられた薪木がびっしりと積み上げられていた。
「ひょっとしてこの量の薪割りをやらされるんですかね?」
「そう、なのだろうな、、、」
俺たちは顔を見合わせた。
寮の生活は一年を通して大変そうだ。
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