終幕 エーリヒ
王族なら普通に王妃の他に、側妃を設けたり、愛妾を持つが、我が父の妃は歪だった。
父が王妃に定めるつもりだったのは私の母だ。私以外にも妹が三人いる。
それが許せないのは三代前に王女が降嫁した公爵家の当主だ。父に釣り合う年頃の娘がいた。美しいが高慢で人を見下す癖のある女だ。学園で散々我が母に嫌がらかせをしたと言う。それでも父の婚約者には選ばれず、母が妃として王宮に上がった。
妃になったのは、権力のある公爵の横槍だ。伯爵家出身では王妃にはできないと言い張ったという。父は母に王子を産ませれば王妃にできると考えていた。
そして母が身篭った。その隙をねらって公爵は娘を第二妃としてゴリ押しで王宮にあげた。権力のある公爵の手前手をつけないでおかないわけにはいかなかった父は一夜だけ閨に呼んだ。閨ですら我が母を誹る公爵家の娘に愛想が尽きた父は二度と呼ばなかった。
それなのに我が母が私を産んでから、身篭ったと言って第二妃として王宮に居座った。
生まれたのは第二王子だった。大きくなるにつれ王族の誰にも似ていないし、公爵家の娘にも似ていない。誰もが疑惑を持っていた。それでも公爵は第二王子を立太子させようと動いていた。あとから自供したことには、公爵家には王家の血が流れている。その娘の子なら王位に登っても構わないと思っていたと。
私と隣国の王女が婚約したのは、まだ二人が幼い頃。年に数回王女が訪れて一緒に過ごすうちにほのかな恋情は抱くようになった。それは突然打ち切られた。公爵が隣国の宰相と手を組んで、強大な遠国の皇帝の後妻に差し出したのだ。遠国の皇帝には後宮がある。皇妃として嫁いでも、皇帝に仕える後宮の愛妾達との日々は辛いだろう。
そこまでして自分の孫を立太子させようとする公爵に殺意を抱いた。絶対に普通の死に方はさせない。
その時はあちらから仕掛けて来た。あの汚い女で色仕掛けをしてきたのだ。あの程度の女に引っかかると思われているとは易く思われたものだ。フレデリックを贄にさせて申し訳なかったが、返り討ちにできた。公爵も早く殺して欲しいと懇願する最後を迎えて貰った。
私を押す派閥から王妃は娶らなければいけない。地位の高い年頃の合う娘はメリーベルだけだったのでメリーベルになった。それだけだ。彼女は私に好意を持っているようだが、私は愛とか恋とか彼女にはない。それでも王妃として尊重する気持ちはある。
彼女には王子を一人産んでもらわないといけない。そうでなくては私が本当に欲しいと思った女を愛妾として召せない。
誰もが私は隣国の王女を忘れてないと思っているようだが、彼女とのほのかな恋情はすでに終わっている。彼女への贖罪の気持ちはあるが、公爵を惨殺することで相殺したつもりだ。
私が今一番欲しいものは、私が王妃を娶って王妃に王子を産んで貰わないと手に入らない。それまではフレデリックに預けておこう。
お読みいただきありがとうございました。