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第10章ー5

 アラン・ダヴー少尉が物思いに耽る間にも、戦況は動いていた。

 バレンシアを制圧した「白い国際旅団」を主力とするスペイン国民派の諸部隊は、バレンシア近辺に10日余り止まって、休養に努めると共に、バレンシア港を活用した補給物資の輸送とその蓄積に努めていた。

 これには、エブロ河会戦後の急進撃によって損耗した兵器等の物資を補い、蓄積した兵員の疲労を癒す効果があった。


 そうこうしている間に、グラナダからムルシアを経由して、バレンシアを目指していたイタリア軍を半ば主力とするスペイン国民派の部隊も、バレンシアに到達して、「白い国際旅団」等と手をつないだ。

 ここに、スペイン中部から南部を抑えていたスペイン共和派は、海岸部からその勢力を完全に駆逐されることになったのである。

 これは、スペイン共和派によるマドリードへの地中海から陸路を経由した補給路が完全に断たれたことを意味していた。

 最早、スペイン共和派がマドリードへ補給を送り込むには、一本の糸のように細くなったカタルーニャ方面からの空路による補給(しかもこの補給路は、しばしばスペイン国民派の戦闘機による襲撃を受け、切断されがちだった。)に頼るしかない状況になったのである。


 このような戦況に鑑み、土方勇志伯爵は、フランコ将軍と協議の上で、1937年10月後半に入ると共に、バレンシアからマドリードを目指した「白い国際旅団」を主力とするスペイン国民派の諸部隊の進撃を命じることになった。

 このような命令が下されたのには、裏事情もあった。


「本当に今年のクリスマスには、スペインでの内戦を終わらせねばならん」

 実は、土方伯爵は内心に焦りを覚えるようになっていた。

 それは、日本から派遣された義勇兵の幹部、更に、英国から派遣された義勇兵の幹部等にも共有される思いと化していた。


 1937年7月、事実上の停戦状態にあった北京政府と満州国政府との間の中国内戦は、北京政府によって停戦が完全に破られてしまっていた。

 激化する中国内戦により、万が一、満州国とソ連との間で戦争が起こった場合に備えていた満州国の部隊は減少の一途をたどっており、この状況に対処するために、日本から部隊が満州国内に展開する部隊は増える一方となっていた。

 こうなっては、スペイン内戦のために派遣された義勇兵をできる限り、日本に帰還させる必要があった。


 また、英国も、スペイン共和派が崩壊し、スペイン国民派が速やかに政権を握ることを願っていた。

 フランス人民政府が崩壊し、右派政権がフランスで成立しそうな現状に鑑み、その政権を安定させて、スペイン情勢もスペイン国民派によってスペイン国内を安定させることは、独ソの不穏な動き(独はズデーデンやオーストリア等の併合を望み、ソ連もバルト三国やベッサラビア等の併合を望んで、様々な軍事、外交攻勢を仕掛けていた)に、英国が積極的に対処するためには、必要不可欠な条件と言ってよかった。


 こういった日英の思惑もあり、土方伯爵は、スペイン内戦の早期終結のために、マドリードへの進軍を決意することとなったのである。


 ダヴー少尉は、何とか物思いに耽ることを止めて、この進軍に参加していた。

 表向きは、部下への指図や、会議での発言等、そつなくダヴー少尉はこなしていた。

 だが、分かる人には、ダヴー少尉は、どうもまともではない、と分かる状態だった。


 ダヴー少尉は、ピエール・ドゼー大尉からは、

「おい、しゃんとしろ。好きな女の本性を知って、正気に返れないみたいだぞ」

 と半ばからかわれた(ドゼー大尉なりのダヴー少尉への慰め方だったが、実は正鵠を射ていた。)。

 高木惣吉中佐からも、

「余り思いつめるな」

 と諭された。 

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