No.03
夢を見た。
エディーと私と他の優しくしてくれた皆。
いつもの部屋で扉から漏れる光の中私を見つめるみんなの瞳はそれぞれの光に柔らかな色を宿して瞬いていた。
みんなは私を見つめて一人ずつ何かを言って行く。
一人ずつ背を向けるとスゥッと透けて消えていく。
最後にエディーの番が来た。
エディーは瞳をいつもの様に金色に淡く光らせ私に目を合わせた。
「エル……僕らの希望……幸せに……なっ……て……グッ……クハッ。」
言葉をかけたかと思うと突然血反吐を吐いてエディーは倒れた。
私はまた何もできなくてその場に立ち尽くすだけ。
また……また私はエディーを無くすの?
やめて……やめて!!
エディーを持って行かないで!
やめてぇーーーーーーーーー!!!!!!
動かない足を無理やり動かしてエディーの元へ駆け寄る。
膝をついてエディーの頬へ手を伸ばし、そっと触れた。
っ!
エディーはもう息をしておらず氷の様に冷たかった。
生気のない目が私を見つめる。
鳥肌が立つ様な悪寒が身体中を駆け巡る。
そこで私は目を覚ました。
口を押さえて吐き気を抑えようとするが、押さえきれず指の隙間から吐いたものが出てくる。
酸っぱい匂いが鼻と口の中に広がる。
その匂いに耐え切れずまた吐き気が湧き上がる。
吐いているとバタバタと足音が聞こえてきた。
部屋のドアがバタンと開いた。
年配の女性がスタスタと近ずいて来る。
吐きながら目を見開いて女性を見ていると私の背中をさすってくれた。
「大丈夫よ。落ち着いて……いいのよ、いっぱい吐いて。大丈夫だから。」
女性は私が吐き止むまでずっと側で声を掛け続け背中をさすってくれた。
吐き終わって呆然と周りを見ると私が居るところはどこかの部屋の中らしい。
五人ぐらいが余裕で眠れる様な大きなベッドの上に寝かされていた。
ベッドの横には小さなテーブルがあり、そこには花が生けてある花瓶と小さな呼び鈴が置いてあった。
女性は私の吐き気がおさまったのを見ると呼び鈴をチリリリンと鳴らした。
すぐに二人の侍女が早足で向かってきた。
女性は彼女達の上司の様なものらしい。
テキパキと二人に掃除をする様に指示を出すと私に顔を向けた。
「立てますか?」
優しくそう問いかけると私に手を伸ばす。
私はコクリと頷いてそろりとベッドから足を出した。
柔らかなカーペットに足を着けると膝から力を抜けへたり込んでしまった。
「?」
力を入れようとしてもあまり入らない。
何でだろう?
??
不思議に思っていると女性が私に手を伸ばしてくれた。
「無理もありません。殿下方から連れてこられて丸々四日眠っていたのです。食べ物は流しこめるものは食べさせましたが…元々体は衰弱していたのです。体がまだ驚いているのでしょう。」
さぁ私に掴まって、と手を差し出す女性に手を差し出そうとしたが右手が汚れているのを思い出し引っ込める。
しかし女性は引っ込めた右手の手首を優しく握って掌を取り出したハンカチで拭ってくれた。
そしてゆっくりと腰に手を回し立とうとする私を支えてくれた。
そのまま、部屋にあるドアのうち女性が出てきたドアとは違うドアの方へ向かう。
ドアを開けるとそこには、あの男がよく私を水の入った大きな器の中に頭を押さえつけ息ができないのを見て目を歪ませていたところだ。
反射的に体が強張る。
心の中が荒れ狂う。
此処から離れたい。
手足の先が冷たくなっていく。
そんな中ふと思い出す。
エディーは言っていた魔力を感じる人以外には頼るなと…そう言ってなかったか?
恐る恐る女性の波を探すが何も感じない。
つまりこの女性はあの男と同じ!
あの男と同じことを私にする!
此処から逃げないと……!
私の異変に気がついたのか私の顔を覗き込もうとして支える手を一瞬離した。
その隙に私は体を反転させダッと駆け出した。
さっきまでフラフラしていた体のどこから力が出ているのかわからいないがとにかく今は、女性の出てきた扉から外に出なければという思いが心を支配する。
「どうされたんですか!?」
後ろで女性が叫ぶが気にしてはいられない。
勢いのままドアの外へ飛び出す。
しかし
ドンッ!!
と体が何か硬いものに当たった。
一瞬壁かと思ったがそれにしては細くて弾力がある。
しかもその壁はどうやら布をまとっているらしい。
恐る恐る上を見上げると…そこには夜空を切り取ったような髪と目をした男がいた。
思わずその美しさに目を奪われる。
ボーッと目を奪われているとその夜空をまとっていた人が口を開いた。
「何をしている。」
低い淡々とした声が口から出てきた。
まるで感情がこもっていない声にゾワリと背中が泡立つ。
逃げたくなる思いがますます強くなる。
先ほどまでの異様な底力は無くなり床にへたり込んでしまった。
もう駄目だ。
もう逃げ切れない。
そう諦めた時、声を掛けた男が唐突に腕を伸ばし私を躊躇もなく抱え上げた。
「!?」
体を思わずビクッとさせると男は、こちらを初めて見た生き物を見つめる目で見てまた淡々と声を発した。
「何を驚いている?お前を拘束するのは当たり前だ。そんな匂いを撒き散らしながらそこら辺を走り回れても困るからな。」
おどろく……?
このヒヤッとして体がビクッとする事が、おどろくという名前なのかな?
私を淡々と抱いた男はスタスタとまた部屋に入ろうとする。
しかしまたあの逃げたくなる思いに支配される。
バタバタと暴れると押さえつけられる。
男は足を止めるとこちらを見た。
「暴れるな。拘束の魔法をかけるぞ。」
男は眉間に皺を寄せて脅すように言った。
私はその言葉にピタリと動きを止める。
首を傾げてジィッと男の夜空のような瞳を見つめる。
男もこちらを眉間に皺を寄せたまま私を見返す。
そうすると寄せて返す静かな波の気配が男から感じ取れた。
このひと……まぞく……?
エディーが言ってた頼る人?
パアッと口角が上がるのがわかる。
手や口に何が付いているのかも忘れて男の首にかじりつく。
すると今度は男がビクッと体を震わせた。
「おい、止めろ。抱きつくな」
顔を見ると特に変わっているところはない。
だから何も気にせずまたギュウッと首にかじりついた。
「おい、止めろと言っている。さっさと首から手を離せ。」
また顔を見る。
変化はない。
また抱きつく。
というのを3回ぐらい繰り返していると、いつの間に後ろにいたのかさっきの女性が呆れながら声を掛けてきた。
「ジェイド様ありがとうございます。何故か分かりませんがその子がいきなり外に飛び出したのです。」
私をまたあの場所へと連れて行く気かとさっきの驚いてビクッとした感じとは違う強張りが体を覆う。
思わず男の首に回していた腕に力が入る。
男はそれに気がつき私の顔を不思議そうに見た。
「何を怖がっている?この侍女がお前の世話をするだけだ。それとも、その汚い格好のまま居たいのか?」
改めて自分の格好を見る。
……なかなか凄まじいものだった。
出したものが手にべっとり服にべっとり……クサイ……
でも……あそこに入りたくない……
また男に抱きつくともう離れないと分かったのか、男はため息をついて侍女を見た。
「おい、水場はどこだ。」
「こちらの水場でございますか?」
「そうだ。こいつを連れて行ってやる。」
体がビクッと反応する。
さっきのおどろく……?とはまた違う体の反応。
手足の先が冷たく凍えていく。
絶対に離れるもんか!
力の限り男の首にしがみ付く。
「……っ……ぐ」
微かに男の喉から声が漏れる。
よく見ると首が赤く染まっている。
「……くっ……るしい……離せ……」
離せと言われても……離したらまた……ひとりぼっちになる……
それは嫌だ……
益々力を込めると男は我慢の限界だというように自分の顔の脇にある私の顔を汚れるのも構わず、ワシッ!と思いっきり掴んだ。
悠々と私の顔の全体が手で覆われる。
視界が薄暗くなる。
「!?」
思わず驚いて腕の力が緩まる。
その隙に男は顔を掴んでいた手を動かし首を庇う。
「ヒュ……はあー……」
思いっきり息を吸う男を見ていて、少し胸の中にズンっとくるものがあった。
目から水が出てくるような出てこないような感じだ。
息を整える男をじっと見ているとその視線に気が付いたのか男もこっちを向く。
すると本当に、本当に、真近で見ないとわからないくらいに微かに男は眉間の皺を緩ませ目を細めた。
「大丈夫だ。お前がそんな顔をする必要はない。益々汚い顔になるぞ。」
口を開いて男が言った事より男の目の奥にある光に、思わずハッとする。
一見冷徹そうに見える目の奥にエディーと同じ光が灯ったのだ。
一気にエディーとの思い出が頭の中で巡る。
いつもみんなと一緒に私をあの部屋の中、あの光を灯して私を見つめて柔らかな表情をしていた。
……そのエディーがもういない……目の前で血を流して呼吸がどんどん無くなっていって最後には冷たくなって……もうあの金色の瞳にあの柔らかな光を灯す事は無くなった。
またあの感覚が蘇る。
喉がきゅうっとしまった。
視界がまたゆらりと歪み口角が重りをつけたかのように重く下がる。
眉間の間がギュッと絞られ上に上がる。
しかし、前回と一つだけ違う事があった。
その締め上げられた喉から声が漏れる事は……なかった。
小さい子って思いっきり全力で来るからすごい攻撃受けたりしますよね笑
それを今回はジェイドにやってみました!
しかも小さい子は感情の起伏が激しい!笑っているかと思いきや泣いていたり!
そんな経験ありませんか?
次回はジェイドのちょっとだけ優しい部分が見れるかも……?
ではではまた次回お会いしましょう!




