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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第6章 「想い」の行方
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第53話〜影。

 ある日の放課後、「大事な話があるから」とアキラに促され、リュウスケは屋上にやって来た。

 それぞれのパートナーには、アキラがまだ聞かせられない話だと歯切れの悪い言葉をかけて、それに納得がいかない様子だった彼女達も、アキラのあまりに真剣な表情を見て何かを感じ取り、先に帰途についていた。

 リュウスケは、アキラがここ最近何かを言いたそうな顔をしているのに気づいていた。おそらく『橘』関係のことなのだろうと見当はつけているのだが、アキラが時折思い詰めた表情をしているのを、リュウスケは見逃さなかった。

 屋上へ出る鉄の扉を開くと、薄く笑ったアキラらがこちらを見ている。その表情は、何だか寂しそうにも見えた。




 リュウスケの方から話の口火を切る。

「何だよ、話って」

 その言葉でアキラの表情が変わる。

「俺が何を話したいかは、だいたいわかってるよな?」

 固い表情でそう言ったアキラに、リュウスケは黙って頷く。

「そのことでお前に伝えとかないといけないことがあるんだ」

 リュウスケは再び黙って頷き、アキラに先を続けるよう促す。

「俺な、部活をやめることにしたんだ」

「何で?」

 オウム返しなリュウスケの問いに、アキラは少し面食らった様子だったが、苦笑いを浮かべると話を続ける。

「わかり切ったこと訊くなよ。『橘』対策のためだろうが」

 そう言って苦い表情に戻ったアキラにリュウスケがさらに詰め寄る。

「そのことと部活をやめることに、何の関係があるんだ?」

 そう言ったリュウスケに、アキラは呆れた表情を向ける。

「お前本気でそんなこと言ってんのか?」

「一生懸命にやってることを投げ出してまで、やらなきゃいけないことなのか?」

 食い下がるリュウスケに、アキラは苛立ちを覚える。

「ああ、そうだよ。本家の怖さを、お前はわかっちゃいない」

「それは理解してるつもりだ」

 そう、『橘』に『楯突いた』高島家が、たちまち勢いがなくなりつつあることを、リュウスケも知っている。

「でもそこまでのことなのか? 身内にそこまで……」

「だからわかってないってんだよ!」

 アキラの強弁に、リュウスケは思わず口を噤んでしまう。

「あのなぁリュウスケ、今回『橘』は本気だ」

「何でそんなことがわかる」

 リュウスケのもっともな質問に応えるため、アキラは少し考えて話し始める。

「俺な、ゆうべ親父と話をしたんだ」

「うん、それで?」

「お前さ、親父達が母さん達を本家から駆け落ち同然に連れて来たのに、本家とウチらが良い関係でいるのが不思議だと思わないか?」

 それには異存がないので、リュウスケは同意の意味で頷いてみせる。

「やっぱり最初は、相当な嫌がらせがあったみたいだ。裏で仕事の邪魔をしたり、公的なサービスを受けられないように手を回したりな」

「それって犯罪じゃないのか?」

「スレスレの所でやるのが『橘』の手法さ。裏を牛耳ってるヤツらには、雑作もないことらしい」

 絶句しているリュウスケに、アキラは確認するように問いかける。

「な? 身内にも容赦がないんだよ、アイツらは」

「わかったよ。で、関係が良くなった理由は何なんだ?」

「それはなぁ……」

 アキラはそこで言葉を切って、リュウスケの顔を見る。

「俺たちが生まれたからだそうだ」

「孫可愛さに嫌がらせをやめたのか? そこは意外に普通なんだな」

「それもあるけど、本当の理由は別だ」

 アキラはそう言って、射抜くような視線をリュウスケに向ける。リュウスケは気圧されたように、アキラの次の言葉を待った。

「家から連れ去られた娘に子供が生まれた。それもほぼ同時に。それが二人とも男だとわかった時、本家にある策略が生まれて、矛先を納めて親父達を手なずける作戦にしたらしい」

 リュウスケは納得顔になり大きく頷く。

「それが今回のことに繋がるんだな?」

「そういうことだ」


 リュウスケはアキラの言うことが理解出来た。だが、なぜ部活をやめてまで対策を練る必要があるのか、納得のいく答えをアキラから引き出せていないとも思っていた。

「どうしてもやめるのか?」

 リュウスケは自分の抱く疑問の糸口を掴もうと、その質問をアキラに投げてみる。アキラはきっぱりと応えた。

「ああ、やめなきゃいけないんだ」

「どうして?」

「時間が足りない。アイツらの企みに乗らないようにするためには、学校に通う時間も惜しいくらいだ。でも学校をやめてしまったら、アイツらの思う壷だ。だから部活をやめるだけにして、放課後少しでも作戦を練る時間がほしいんだよ」

 そう言ってアキラは苦々しい顔をする。

「お前一人でやるつもりなのか? 俺だって当事者なんだから、俺もやめて協力した方がいいんじゃないのか?」

「いや、お前は今まで通りにしててくれ。それも俺の作戦の一つなんだ」

「どういうことだよ?」

「二人して部活をやめてしまったら、俺らの異変を本家のヤツらに嗅ぎ付けられてしまうだろ? なるべくその時期を遅らせたいんだ」

「それで?」

「お前はなるべく普通にして、何も知らないようにすごして欲しい。俺も部活をやめる以外は、表面上は極力普通にしてるつもりだ」

 そこでアキラがニヤリと笑う。

「ここはお前と俺のキャラの違いを、思いっきり利用させてもらおうと思ってる。本家では、お前は優等生キャラ、俺はちゃらんぽらんキャラとして通ってるそうだ。ここでそれを使わない手はないよ」

「わかった、で、どうするんだ?」

「具体的にはまだ何も考えてない。でも、俺たちがガサゴソやってたら、本家のヤツらは遅かれ早かれ気づく。その時が来たら少しでも俺たちの有利にはたらくように、今から対策をしておきたいんだ」

 滔々と語っていたアキラの表情が、にわかに曇る。

「正直言うとなー、凄く不安なんだよ。相手はあの『橘』だ。歯向かおうってのはまともじゃないよ。でもな……」

 少し遠くを見るような表情をして、アキラは自分に言い聞かせるように呟く。

「俺たちの未来を賭けた戦いだから、絶対に負けられないよな……!」

 



 ああ、そうだとも。絶対に負けられない!


 自分達にまとわりつく監視の目に、最近気づくようになってきた。危機が迫って来ていることも何となく理解出来る。

 だからといって、やっと手に入れたささやかな幸せを、脅かす存在は許すことができない。絶対に。




 だが、彼らはまだ知らなかった。彼らを脅かす『影』が思う以上に近くまで忍び寄っていることに。


 そう、その時マヤは……

 リュウスケ宅の自室で、誰かと連絡を取り合い満足げに頷くと、黒い微笑みを浮かべていた。


前話の後書きや11月10日付けの活動報告にも書かせていただいた通り、話が少しダークサイドに入って行きます。

アキラ君、部活やめちゃうそうです。強大な力に立ち向かうためだとはいえ、何だかちょっとかわいそうかなー、なんて反省したりもしております。

そしてあの強気なアキラ君に、弱音を吐かせたりもしております。それもひとえに、これから立ち向かう存在のどうしようもないほどの大きさを表現したいと、切に願っているからです。

マヤちゃんはというと…… 何かを企んでいるようですね(笑)


次回あたりから、ラブラブだったカップル達に少し距離が出来始めます。そのままヤツらの思う壷にならなければいいのですが……


また次回、お会いしましょう!

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