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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第4章 ふたりで
38/54

第37話〜どうして。

 どうして

 ワタシはこんなに美しいのに

 ワタシはこんなに魅力的なのに

 そう

 ワタシは完璧なのに


 ユルセナイ!

 ワタシに堕ちない男がいるなんて

 そんなことはあり得ない

 それはもう決まったこと

 オマエはワタシのモノになるの


シャワーの水音だけが響くバスルームで、ミラーに映る己の姿を確認する美月。その顔には美しくも妖しい笑顔を宿しながら……




 「おはよう」

 愛しい人の声が耳に届き、リュウスケは思わず笑顔を声の主に向ける。

「おはよう、サヨちゃん。もう良くなった?」

「うん、心配かけてごめんね」

 そう言って、可愛く謝る仕草をする彼女も満面の笑顔。いつもの声、いつもの笑顔、いつもの『彼女』。

 そしていつものように微笑み合える幸せを、リュウスケは噛みしめていた。


 「やあ、おはよう」

 その幸せを台無しにされたような、最悪のタイミングで現れたのが秀一だった。相変わらず心の闇を表情に表すことなく、さわやかな笑顔を浮かべている。

 無視をするのも不自然なので、こちらもさわやかな笑顔で挨拶を返してやる。

「おはよう!」

「あ? ああ……」

リュウスケの態度があまりに意外だったのか、秀一は少し虚をつかれたような表情になったので、リュウスケは心の中でほくそ笑む。

 そして、秀一の陰で俯いてモジモジしてるのは… 美月だ。やっぱりいたか、と少しうんざりしつつも、リュウスケは彼女がここで何を言い出すのか、気が気ではない。


 「あの、池内さん……」

 声をかけられたサヨは、表情を固くして美月を見つめる。と、次の瞬間、美月は予想もしなかった行動に出た。

「ごめんなさい!」

 謝罪の言葉とともに、サヨに深々と頭を下げたのだ。リュウスケとしては、昨日のこともあるだけに、美月の言動にハラハラせざるを得ない。何も知らないサヨは、あっけに取られるばかりで言葉もない。

「ちゃんと謝りたかったの」

「どうして?」

「あなたにイヤな思いをさせちゃったから」

 そういう美月の瞳は、少し潤んでいるようにサヨには見えた。サヨは気遣うような表情を浮かべる。


 コイツも馬鹿ね。


これは演技なの、演技。人を騙すのって、本当に楽しい。さあ、この場はサッサと終わらせちゃいましょ。

「高島さん、私がイヤな思いするようなことした?」

「始業式の日のこと、覚えてる?」

 美月に刺すような視線で睨まれ恐怖を感じたことや、すれ違い様に掛けられた秀一の言葉に悪寒を感じたこと… 確かにイヤな思いをしたかも。

「私、昔から自意識が強くて、あなたを見て嫉妬しちゃったの」

「それはどういうこと?」

「あなたがあんまり可愛いから」

「そんなことないよ……」

 思わぬ言葉に、照れたように俯いてしまうサヨに構わず、美月は言葉を繋ぐ。

「何だか悔しくなっちゃって… 思わずあなたを睨んでしまったの」

 美月はサヨの元に歩み寄ると、彼女の手を取り潤んだ瞳を向け、謝罪の言葉を再び告げた。

「本当にごめんなさい……」

 少々震える声は美月の演出。この後の展開も彼女のシナリオには出来上がっている。


 「いいの……」

 吐き気を催す優しい声が、目の前の女から発せられる。


 ほらね、思った通り。


「そんなに謝らないで。私は何とも思ってないから」

 美月は驚いたように目を見開き、そして縋るような表情を作る。

「じゃあ、許してくれるの?」

「大丈夫、私は気にしてないからね」

 そう言って、ワタシに笑顔を向けて来る目の前の女。思わずつばを吐きかけたくなるけど、ここは我慢我慢。

「ありがとう」

 満面の笑みを浮かべ、手をキュッと握り直して、親愛の情を示すことを忘れてはいけない。これでこの場はジ・エンド。




 でも、どうして?


 そんなに『いい人』でいたいわけ?

 みんなに好かれたいと思ってるわけ?

 ワタシには考えられないけど?


 そんないい子チャンにはお仕置きがいるわね。ちょっと面白いことになりそうだけどさ。

「池内さん、あなたが羨ましいわ」

「え?」

「こんな優しい人があなたの彼氏だなんて」

「……」

「昨日秋葉君には、先に謝っといたの。あなたのことも」

「そうなんだ……」

「私にも気遣ってくれて、二人っきりで話せる時間を作ってくれたのよ」


 爆弾投下。

 驚いた顔してるわね。いい気味だわ。どうやらヤツも困ってるみたいね。


 疑いなさい。

 悩みなさい。

 そして苦しみなさい!


 優しさなんかで世の中渡っていけないことを、思い知るがいいわ。



ジコチュウな美月の「どうして。」

破綻した彼女の性格を紹介するだけの話になってしまいました。


自分の欲望を満たすため、自己をプレゼンスする能力を遺憾なく発揮する美月。それに主人公の二人は翻弄されてしまいます。二人の距離が少し開いてしまう展開になりそうです。

それにまだまだ美月のワナはこんなもんではありません。もっとエグイことになってしまうかも知れません(R15で果たして大丈夫なのでしょうか?)。


それでは、また!

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