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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第4章 ふたりで
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第36話〜偽りの恋心。

 重い扉を開けて、リュウスケは屋上へと歩を進める。

 当然ながら人の気配は全くせず、どこからか聞こえて来る生徒達の嬌声も、心無しか遠いもののように感じられた。

 再び開いた扉の音に振り返れば、そこには膨れっ面をした女生徒が、息を切らして立っていた。

「もぉーっ、秋葉君ってば、歩くの早過ぎ!」

 美月は少し甘さを含んだ声で、やんわりと詰る。

 その表情も声も、己を可愛く彩るための飾り。全ては美月の作戦のウチだ。

「ああ、ごめん。気づかなかったから……」

 明らかに狼狽の色を見せるリュウスケに、美月は心の中でほくそ笑む。

 その邪心はおくびにも出さず、美月は表情を固くして、俯いてその場に立ち尽くした。

「どうしたの?」

 気遣わしげな表情を浮かべるチョロい標的ターゲット。チャンス到来だわ。


 作戦開始ね。


美月は決然と顔を上げると、リュウスケに駆け寄りしがみついた!


 いきなりの展開に、リュウスケは動揺を隠し切れない。

「ちょ、ちょっと…… !」

 力のない抗議の声を上げてみても、美月は全く臆する様子がない。美月の両腕はしっかりとリュウスケの背中に回され、二人の体は密着し、頭を彼の胸につけてしまっている。

 リュウスケは、女の子の柔らかな感触や、官能的な香りにクラクラしながらも、どうしたもんかと思案を重ねていた。




 「あのね……」

 発せられた小さな声とともに、少し体が離れたのに気づいたリュウスケは、美月をのほうに視線を向ける。その先には潤んだ彼女の瞳と、さらにその先にはくっきりと胸の谷間が見えている。一瞬目が釘付けになるものの、我に返り慌てて視線を逸らす。


 フフフ。思い通りね。


オマエも愚かな男の一人。私のコレは大好きなはずよね。私のモノになるのなら、もっと見せてあげてもいいのよ、秋葉クン。

 美月の心の中では、リュウスケに対する嘲笑が止まることがない。しかし実際には、切なげな表情を浮かべたままだ。


 美月は消え入りそうな声で言葉を繋いでいく。

「わかってくれた? 私の気持ち……」

「……」

「言葉にしないと、わかってもらえない?」

「……それは、どういうこと?」

「やっぱり言わないとダメ?」

 美月は一瞬恥じらうかのように視線を逸らし、すぐに思い切ったような表情になって、リュウスケを真っすぐに見つめる。

「あなたのことが、好きです」




 薄々予想はしていたのだが、衝撃的な言葉にリュウスケは声を失う。出来れば聞きたくはなかった告白。


 自分には誰よりも大切で、誰よりも愛しい人がいる。

 彼女以外を好きになることはありえない。

 そして彼女を悲しませることは絶対にできない!


それをこの人に伝えなきゃいけない。たとえ傷つけることになっても。

「僕にはす…」

「言わないで!」

 いきなり鋭く遮られ、リュウスケの言葉は行き場を失う。唖然とする彼に、美月の畳み掛けるような言葉が降り掛かる。

「わかってるの… わかってるのよっ! あなたに付き合ってる人がいることもっ! でもね、どうしても伝えたかった。あなたがどうしようもなく好きだってことを!!」

 悲痛な叫びだった。もちろん迫真の演技なのだが。その出来映えに、美月は自己満足を覚えていた。

 リュウスケはどうしていいかがわからなかった。美月の激し過ぎる告白は、自分の処理能力を遥かに超えていると感じる。少し呼吸を整えると、今最善と思われる言葉を彼女に掛けてみた。

「ごめんね」




 やっぱりそう来たわね。ここは『切り札』を使うしかないようね。


美月はリュウスケからおもむろに体を離すと、胸元に手をかける。


 シュルっ


一気にスカーフを引き抜くと、それを足下に落とした。

 案の定、ヤツはビックリしてるわね。この後すぐに、つばを飲むゴクリという音が聞こえるはずよ。愚かな男のいつものパターンね。


 ゴクリ……


ヤツののど仏が動いたわ。後は少しエッチな表情で迫ってやれば、コイツも私のモノになるから。あーあ、赤い顔しちゃって、カワイイもんね。

 美月は潤んだ目を細め、少し唇を突き出した官能的な表情を創り上げ、リュウスケにゆっくりと近寄っていく。そして再びリュウスケに抱きついた。

 

 美月が色仕掛けをしてきたのは理解出来た。しかし決定的に経験不足のリュウスケには、躱す方法が見つからない。

 頭の中はパニックだ。非常にマズいこの状況を回避することだけを考えていたが、どうしてもいい考えが浮かばず途方に暮れていると、信じられないことが自分の身に起こった。

 

 自分の唇に、柔らかく温かいものが触れる。視覚には大映しになった美月の顔が捉えられている。


 キスされてる!?


それに気づけば、思わず美月を突き飛ばしてしまった。

「痛ったーい!」

 固いコンクリートの床に尻餅をついて、非難の声を上げている美月には気の毒だが、それまでの強引な彼女の行為に怒りすら感じている。

「君とはそういうことをするつもりはないから」

 リュウスケはそう言い残すと、まだお尻をさすっている美月を残して、足早に扉の向こうに消えた。


 そしてリュウスケは、隣の棟の屋上で光る、望遠レンズに気づくことができなかった。


イヤな女ですね…。

自分で書いててつくづく思います。


ここでの二人の様子は、どうやら盗撮されてしまったようです。もちろん美月の差し金なんでしょうけど。それが今後大きく波紋を浮かべることになりそうです。


つれないリュウスケに、美月は少し心変わりをしてもらおうと思っています。どうしても『略奪』したいと思う執着から生まれる心の変化、上手く表現出来るか自信がないです(←おい!)


しつこいようですが、web拍手、お願いします。


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