悪役令嬢 ローズ編7
「やっぱり、上手くいかないかあ」
レイ様は少しため息を吐きながらそう言う。
「でもね、俺は諦めたくないんだ」
まずい。
急に腕を掴まれ、私は少し焦る。
このままだと、無理矢理指輪をはめられるかもしれない。今のレイ様はいつもと違う、そう感じた。
レイ様の前に腕を、指を出さないよう抵抗するが、私よりもはるかに大きく力が強いため、掴まれている腕を解けない。
「ねえローズ。俺のこと嫌い?」
耳元で囁かれ、思わずレイ様を見る。
「俺は、ローズのこと好きだよ」
はっ。
私は思わず息を呑んでしまった。
そう言った彼の瞳が、私絡みで暴走する時のルイと同じようだったから。
「悪いけど、俺がローズの指に指輪をはめれば……」
レイ様は、驚いて力の抜けた私の腕を強く引っ張った。
だが、私の手を見た瞬間に彼は驚いたように目を見開き、固まった。
「……って」
静かになった彼の瞳が少し青く照らされる。
「もう兄さんにはめられてるじゃん」
彼の瞳の中には、私の左手の薬指にはまった青く光る指輪が映っていた。
「やっぱり、俺は兄さんには敵わない」
レイ様はそう言いながら紫色の瞳を揺らがす。
「大分前から、私とルイは結婚の約束をしてるわよ?……婚約者だもの」
私の結婚相手はただ一人、婚約者であるルイだ。
婚約したからと言って強制的に結婚をするわけではないが、私はルイが大好きだから
……結婚したいのは、ルイしかいない。
私は腕を掴んでいるレイ様の手を優しく退ける。
そしてレイ様の頭を撫でた。
「でもね、ルイと自分を比べなくてもいいと思うわよ」
そう言うとレイ様の暗くなっていた瞳が少しだけ、ハッと見開かれた。
「私はルイが好きだから、想いには応えられないけど、十分あなたは素敵な人でしょう?」
私にはルイがいて。
きっと、レイ様にも私以外の素敵な人がいるはずーー
この言い方は、少しひどいかもしれないけれど。
「ローズ……」
レイ様は少し困ったように笑った。
その瞳は涙で光っているように見える。
「ごめん、ありがと……」
「謝らなくていいわよ」
笑っていると扉がバンッと勢いよく開いた。
「ローズ!!」
入ってきたのは、ルイだった。
急いできたのか、はあはあと息を切らしている。
「ふふっ」
私は思わず笑ってしまった。
「これじゃあ、舞踏会の日と変わらないわね」
私がそう言うとレイ様も吹き出した。
「確かに。兄さん、ごめん。もう胸ぐらは掴まないでね」
さっきまでの悲しそうな表情と変わって、少し顔が解れているように見えた。
良かった。いつものレイ様だ。
そう思い、私は微笑む。
「好きにしろとは言ったが……無理矢理つけられないか心配で」
「あら、ルイが好きにしろって言ったの」
入ってくるなり、頭を抱えてルイはそう言うので、私は驚く。
「あー」
少し気まずそうにレイ様は横を向き、頭をかいた。
それを見てルイはレイ様を少し睨む。
「もしかしてレイ、ローズに無理矢理指輪をつけようとしたのか」
「えーっと……?」
誤魔化すように笑うレイ様にルイはツカツカと攻めよった。
「信じてるって言ったんだけどなー、でもその前に俺がローズを簡単に放すとおもう?」
「イイエ。オモイマセン、ニイサマ」
ギラギラと目を光らせるルイにレイ様はカタコトでしゃべった。
あははは……。
苦笑いしていると、ルイが私を見て眉をへの字にする。
「ローズも。俺のあげた指輪つけてなかったら、今頃レイと結婚することになってたんだよ?もっと危機感持ってくれない?」
「スミマセン、ルイサマ」
「よろしい」
少し怒られたが、ルイはきっと私の事を特別大事にしてくれているのだろう。
そう思うと、自然に口元が緩んでしまう。
「だから、昨日慌てて指輪付けに来てくれたのね」
「それは言わなくていい」
小声でそう言うとルイはしーっと人さし指を口元に立てる。
それを見てレイ様は面白そうに笑う。
「あははっ。そっか、幸せそうだね」
まだ少し涙で瞳が光っているレイ様だけれど。
彼のその笑顔は私が大好きなルイの笑顔にそっくりだった。
ーーもう、大丈夫そうね。
私がやるべき事はやった。
そう思い、ルイを見る。
自分を変える事。
近くにいてくれる人を大事にする事。
そして、もう二度とあの悪夢を引き起こさないこと。
きっと、前の人生とは違う道を歩けるだろう。
「ローズ、俺の城へ来てくれないか。急だけどこれから戴冠式なんだ」
「えっ!?」
「兄さん、俺も聞いてないって!!」
「大丈夫。先に王家の者だけでするやつだから」
「分かったわ」
「早く言ってよー」
大事な人と一緒に生きていける人生を。
きっと私は、私の人生は変える事ができたから。
戴冠式の後、まさかルイに王城のバラ庭園でプロポーズされるなんて、この時は知らなかったけど。
♡♡♡
そのヒロインはまだ知らない。
自分が悪役令嬢という“設定″から抜け出せたということを。




