第38話:囚われのアーロン
「だから、俺は何もしてないって! ルキウスを呼んでくれよ!」
地下牢に入れられたアーロンは必死で訴えたが、見張りは地下に続く扉の警備に戻ってしまった。
(くっそ、なんでこんなことに……)
「なあ、誰か!」
喉が嗄れてきてアーロンはどっかりと壁にもたれた。
(俺、どうなるんだ……?)
これまで投獄された王妃などいたことがあるだろうか。
(ほんと、歴史に名を残す王妃になりそうだな)
そのとき、階段の方が騒がしくなってきた。
何か揉めるような声が聞こえる。
しばらくして、地下牢の前の通路に一人の女性が現れた。
「エレノア!」
アーロンは思わず声を上げた。もう敬語など使う余裕はなかった。
「来てくれたのか!」
「ええ。見張りには話をつけたわ。元王妃というのは、こういう時には役に立つわね」
にっこり微笑むエレノアに、急に力がわいてきた。
聡明で王宮に影響力もあるエレノアは頼もしい味方だ。
「ルキウス様が来られなくて私が代わりに来たの」
「ルキウスに何かあったのか?」
「妖魔が出現したらしくて、封印を確かめに行かれたの」
「また妖魔が!?」
嫌なことは重なるものだ。あのルキウスがアーロンより優先させるはずだ。
エレノアがぎゅっとふたりを分かつ鉄格子を握った。
「それより、事情を聞かせてアーロン。ダイアンと何があったの?」
アーロンは最初しおらしかったダイアンが急に豹変したと話した。
「わざわざ侍女を外に出して二人きりにしたし、あれは計画的なものだ」
「動機は何かしら? 仕返しにしては自分を切るなんて恐ろしいことを……」
アーロンはハッとした。
「そうだ、ダリルも関係しているかも! ダイアンはダリルの婚約者で、俺のせいで出世できなくなったって……」
「ダリルというのは?」
「ブラックホーク騎士団の団長で、公爵家の長男だ」
「騎士団……」
エレノアの顔が青ざめていく。
「どうした、エレノア!」
「ルキウス様は騎士団を連れて行ったの……」
「!!」
アーロンに恨みを持つダイアンの婚約者であるダリルが今、ルキウスと共に行動している。
「これってまさか全部繋がっているのか?」
アーロンはハッとした。
「まさか……標的は俺じゃなくてルキウス!?」
ルキウスのそばには腕の立つ屈強なアーロンがいる。絶対的な味方であるアーロンをルキウスから隔離し、王宮の外にルキウスを連れ出して殺す計画だったら――。
嫌な汗がにじみ出る。
「ダリルとダイアンが共謀してこんな大がかりな暗殺計画を?」
エレノアが信じられないという表情でつぶやいた。
「わからん。俺がそばにいないとはいえ、ルキウスの周囲には近衛兵がいるし……」
だが嫌な予感はつのっていくばかりだ。
地下牢にいる自分。王宮を出たルキウス。すべてが暗殺計画の筋書きどおりに進んでいるような気がしてならない。
「今すぐルキウスの元へ行く!」
「ええっ、どうやって!? あなたへの嫌疑はまだ晴れていないのよ?」
驚くエレノアにアーロンはにやっと笑ってみせた。
「俺には特技があってね」
アーロンはぐっと鉄格子を両手で握った。ぐうっと力を込める。アーロンの腕の筋肉が盛り上がっていく。
「!!」
徐々に鉄格子が曲がっていく。その隙間が広がっていくのを、エレノアが目を見開いて見つめている。
「うおおおおっ!!」
一気に力を放出させると、鉄格子が飴細工のように曲がり、隙間が大きく広がった。
唖然としているエレノアに、アーロンは笑ってみせた。
「馬鹿力の家系なんだ。親父曰く、戦闘民族の末裔なんだと」
父親がずっと自分は特別だと言っていたのはおそらくこの人並み外れた怪力のことだろう。
(力自慢だけじゃどうにもならなかったけどな……)
今だけは受け継がれた怪力に感謝し、アーロンは体を屈めて牢から出た。
「アーロン様、鼻血が!」
「ああ、平気だ」
アーロンは垂れている血をぐっと拳でぬぐった。
普段怪力を出さないのは恐れられるからだけではない。体に負担がかかるからだ。
(結果的に隠しておいてよかった。奥の手として使えた)
アーロンは足を忍ばせ、階段へと近づいた。




