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ジャーナリスト  作者: 賀茂丈晴
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水底の村「峠の頂」


 峠の頂に着いたのは、ほぼ同時刻だった。


 福井側から登ってきた雨月雅之、山本彩織、平圭、根古親司、山田貴明の一団と、岐阜側から登ってきた上田唯、大島拓、斎藤士郎、荒牧大輔の一団が、開けた広場のような場所で合流した。


 広場の中央に、古い祠の跡があった。

屋根も柱も朽ちて崩れているが、その周りに、行方不明になっていた五人が、輪になるように立っていた。


「動いていない」大島が小声で言う。「呼吸をしているのかどうかも、わからない」


 五人の足元、地面には、木片で作られた小さな太鼓が五つ、等間隔に置かれていた。

音は、その太鼓から鳴っているのではなく、まるで五人の体そのものから響いているように聞こえた。


「近づいて大丈夫でしょうか」平圭が根古に聞く。


「わかりません。ですが、危害を加えられている様子はない」根古は祠の跡を見た。

「彼らは、"欠けたもの"に取り込まれているのではなく――器にされているんだと思います」


「器、というのは」


「太鼓の音を鳴らし続けるための、器です。五十年間、峠道に留まっていたものは、実体を持てなかった。今回、"本体"が動いたことで、初めて、近くにいた人間の体を借りて、実体を得た」


「では、彼らを助けるには」


 根古は懐から、もう一つの小さな木片を取り出した。田中軍蔵から預かった、木像の一部だった。


「この木片は、木像本体の"欠片"です。統合される前、村の職人が、万一に備えて分けて保管していたものだと、田中さんが教えてくれました」



「参謀、これは無線で報告すべき事態でしょうか」斎藤士郎が荒牧に聞く。


「上に報告すれば、次の指示は"排除"の検討に傾く」荒牧は静かに言った。

「今、この場で判断を誤れば、五人の命に関わる。しばらく、現場の判断に任せる」


「ありがとうございます」根古が頭を下げた。


 根古は祠の跡の中央に進み、木片を置いた。五人の視線が、初めてゆっくりとそちらを向いた。


「あなたは、五十年間、どちらの村にも属せず、この峠に留まっていた」根古が語りかける。

「二つの村は、もう湖の底で、それぞれの本体を取り戻しました。あなたには、もう、選ぶ必要はありません」


 五人の口が、同時に、声にならない音を発した。太鼓の音が、一段と大きくなる。


「根古さん、危険です」雨月が前に出ようとするのを、上田唯が制した。


「彼を、信じましょう」


 根古は木片に手を当てたまま、続けた。


「あなたは、片方の村に還る必要も、もう片方の村に還る必要もない。あなたは、二つの村を繋いでいた"道"そのものだったんじゃないですか。父が間違えたのは、あなたを"送り物"として扱ったことです。本当は、あなたは、送られるものではなく――送り届ける存在だったんじゃないですか」


 太鼓の音が、ふいに止まった。



 五人の体から、力が抜けるように、その場にゆっくりと座り込んだ。

倒れたのではなく、まるで長い仕事を終えて、腰を下ろしたような座り方だった。


「大丈夫か!」大島が駆け寄る。五人は、意識を失っているだけで、呼吸も脈も正常だった。


 祠の跡に置かれた木片が、静かに白い粉のように崩れ、風もないのに、ゆっくりと空へ舞い上がっていった。


「――終わった、ということでしょうか」山田が根古に聞く。


「終わった、と思います」根古は今度は、迷いのない声で答えた。「今度こそ、本当に」


 上田が無線で報告を入れる。


「本部、こちら上田。行方不明者五名、全員発見。意識不明ですが、生命に危険はない模様。至急、救助隊を要請します」


 夜明け前の空に、白い粉のようなものが完全に消えていくのを、根古はいつまでも見上げていた。


「父さん」根古が呟く。「あなたが五十年前にできなかったことを、ようやく終えられました」


 風が、峠道を静かに吹き抜けていった。太鼓の音は、もう聞こえなかった。




発見された五人の証言、そして事件の"表向きの記録"が確定するまでの後日談。根古親司、田中軍蔵、そして山田貴明たちが、それぞれの立場でこの一件をどう受け止めたかが描かれる。

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