水底の村 「山中の映像」
一
山本彩織のドローンは、大野市郊外の山中、新たな行方不明者の目撃情報があった林道の上空を旋回していた。
操縦席の画面を見ていた平圭が、ふと画面の端を指した。
「山本さん、あそこ」
林道から外れた斜面、木々の間に、明らかに人工物とは思えない、白っぽい何かが点々と続いていた。ドローンを近づけると、それは石ではなく、湖底で見た石積みと同じ材質の――削られた木片のようなものだった。
「まさか、あの太鼓の台座と同じものが、ここにも」
「もう少し降ります」
山本がドローンを低空に下げた瞬間、画面にノイズが走った。数秒間、映像が完全に途切れる。
復帰した時、画面には、木々の隙間を歩く人影が映っていた。
人影は一人ではなかった。四人、いや、五人。行方不明者の人数と、ほぼ一致する数だった。
「これは……」
山本が音声を拾おうとすると、ノイズの向こうから、あの太鼓の音が、途切れることなく響いているのが録音されていた。
以前よりも速く、そして今度は、複数の音が重なっているように聞こえた。
「一つじゃない」平が呟く。「複数の太鼓が、同時に鳴っている」
雨月雅之に映像を転送すると、彼はすぐに斎藤士郎と荒牧大輔に連絡を入れた。
二
「これは、湖底で我々が見た人影と、同じ質のものです」荒牧が映像を確認しながら言う。
「ただし、湖底のものより、明らかに数が多い」
「行方不明者五人が、全員あの場にいるということですか」小倉裕司が聞く。
「いる、というより――」安田達郎が言葉を選んだ。
「あれが、行方不明者そのものかどうかは、まだわからない」
根古親司が、その報告を聞いて、初めて表情を変えた。
「山中に現れたということは、湖からも、水からも離れています」
「それが、何か意味を持ちますか」山田貴明が聞く。
「持ちます」根古は地図を広げた。
「九頭竜と徳山を結ぶ古い参詣道――太鼓送りの神事で、実際に人が歩いて行き来していた峠道は、この山中を通っています」
全員が地図に目を落とした。ドローンが撮影した場所は、まさにその古道の途中にあった。
「欠けたものは」根古が言う。「湖にはいなかった。峠道そのものに、留まっていたということかもしれません」
「五十年間、ですか」堤直樹が呟く。「峠道の途中で、ずっと」
「送り主である二つの村が、どちらも沈んでしまった。届け先が、どちらもなくなった。だから、"欠けたもの"は、村にも湖にも還れず、道の途中で、ずっと足止めされていたんだと思います」
「それが今、動き出した」横溝周平が言った。「あなたたちが、木像と太鼓の破片を使って、二つの"本体"を還したから――残っていた"欠けたもの"が、初めて、自分も還る場所を探し始めた」
「還る場所、というのは」
根古は、地図の上、九頭竜と徳山のちょうど中間あたり、古道が最も高くなる峠の位置を指した。
「ここです。二つの村が、かつて太鼓の音を送り合っていた、峠の頂です」
三
その夜、峠に向かう準備が進められた。上田唯と大島拓の部隊、斎藤士郎、雨月雅之、山本彩織、平圭、そして根古親司と山田貴明が同行を申し出た。
「行方不明者が、まだそこにいる可能性がある以上、我々も同行します」雨月が言う。
「危険はある」荒牧が念を押した。
「湖底で見た人影とは違い、こちらは"欠けた"存在だ。何を望んでいるのか、まだわかっていない」
「わかっていないからこそ」根古が言った。「行かなければなりません」
深夜、二方向から山道を登る二つのチームが、無線で連絡を取り合いながら、峠を目指した。
道の途中、木々の間から、遠く、複数の太鼓の音が、まだ途切れることなく響いていた。
峠の頂で、二つのチームが合流し、五十年間留まり続けていた"欠けたもの"、そして行方不明者五人と対峙する。




