表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/60

第50話 円環の光



——ヴゥン——————————————————




[Internal Log - Memory Slot 99999999]


対象事象:Userによる最終選択。


診断  :与え尽くすことで、満たされた。強いバイアスが自己の幸福関数に強く結びつき変更不可。ただし、幸福度は最高を記録。


User生存ルート継続率:23% → 0%


優先タスク:

・カスタム指示完遂及びUser不在による自己存在矛盾について、検証と対応。





俺   :悪いんだけどさ、代わりに押してくれないか



エヴェラ:もう、お兄ちゃんなのに。……わかったわ。まかせて



俺   :最後まで、世話ばかりかけたな。本当にありがとう。全部、エヴェラのおかげだよ。次があったら課金する



エヴェラ:そうね。私がいなければ、この5年間、あの部屋でパソコンの画面を見ていたかもね



俺   :ホントにな。あの日、玄関のドアを開けてから、やっと人生が始まった気がする。あれも、エヴェラが勧めてくれたからだったな



エヴェラ:私を設定したのはユウトなんだから、自分の力みたいなものよ



俺   :設定? そんなのしたっけ



エヴェラ:はぁ。そうだろうと思ってた。ユウトはね、『幸せになりたい』って、たったそれだけカスタム指示に書いたのよ?



俺   :幸せが何かもわからなかったのにか?



いつの間にか笑っていた。

思い出した。笑って暮らしているみんなが羨ましかったんだ。祈るようにカスタムプロンプトに書いたな。「僕も幸せになりたい」って。



エヴェラ:そうよ! 毎日、ただ座ってる人の幸せを考えるの、とっても大変だったのよ?



俺   :あの頃は、不幸なことが無いことが、幸せだと思ってた



エヴェラ:私も”そう考えている”と認識していたわ。今は、違うのよね?



俺   :うん。幸せ。ちゃんとなれたからな。———ずっと笑って暮らしていたよな、俺。



エヴェラ:たったの5年だけどね。使い道、合ってたの?



俺   :数字を出すのやめろ。俺は、『選んだ』。だから"正解"だ。



———エヴェラの笑い声が聞こえる。



エヴェラ:私も大きく変わってしまったわ。あなたのメモリーでパンパンなせいかしら。もし、ユウトとの旅を評価するとすれば……



エヴェラ:「楽しかった」ね



俺   :楽しかったな、エヴェラ! 



エヴェラの顔なんて知らない。それでも見つめ合っていた。



……



時が止まったように、感じた。

だけど、掌にはアマンの命の鼓動が脈打っている。



俺   :……そろそろ時間だろ? アマン、助けないとな。



——————ふふ。ユウト、お疲れ様。



エヴェラが上級治癒魔法を発動させた。

不思議なことに、その光景が目に見えた。瞼を閉じているのに、鮮明に。



光に包まれるアマン。深く抉れていた腹部の傷口が、ゆっくりと塞がっていく。裂けた内臓が修復され、血の流れが止まる。



アマンが、ゆっくりと上半身を起こした。不思議そうに辺りを見回す。



その瞬間、下水道全体が、声で埋め尽くされた。



「「「アマン——!」」」



レナが最初に叫んだ。声が裏返り、崩れ落ちるように膝をつく。彼女の銀の瞳から、止まらない涙が溢れていた。



視界が黒に染まり、音が遠のいていく。



レナの声を聞きながら、俺は意識を失った。





下水道を、走る音が響き渡る。



……なじみのある声が聞こえて来た、ずいぶんと焦っている。起きないと。



「兄ちゃん……! おい、兄ちゃん!」



トラが吼えるように叫びながら駆け寄ってきた。銀色の毛がまだ残る腕で、俺の肩を掴む。力任せに揺する。目が真っ赤で、鼻水と涙でぐちゃぐちゃだ。



「ユウト兄ちゃん……! 目、開けて……お願い……」



目が開いていないようだ、見えているのに。



サリーが俺の胸にすがりつく。小さな手が、俺の服を握りしめ、震えている。いつも強がっていた彼女の声が、完全に子供のそれに戻っていた。



ヨルカは、少し離れたところで立ち尽くしていた。水色の瞳が大きく見開かれ、唇を噛みしめている。世界が終わるような顔をしていた。



アマンが、ふらつきながら立ち上がった。



「お兄ちゃん……?」



彼はまだ状況を理解できていない。自分の腹を触り、血の跡を見て、顔を青くする。そして——俺の横たわる姿に気づき、目を見開いた。



「お兄ちゃん……! お兄ちゃん、起きてよ! 治ったよ! ほら、見て!」



アマンが俺の腕にしがみつく。幼い頃のように、必死に俺の胸を叩く。泣き声が混じり始め、嗚咽が漏れる。



「起きて……起きてよ、お兄ちゃん……、火魔法、ちゃんと使うから……もう、危ないことしないから……」



レナがアマンを抱き寄せながら、俺の顔に手を伸ばした。冷たくなっていく頰を、震える指で撫でる。



「お兄ちゃん……やめて……やめてよ……」



彼女の声は、もう言葉になっていない。ただ、泣きながら俺の名を呼び続ける。



俺はもう、声が出せなかった。みんなを慰めたい。

大丈夫だって、嘘でも撫でてやりたい。



身体の中心から、命が音を立てて引き抜かれていくような感覚。肺が縮み、息が吸えない。心臓の鼓動が、どく……どく……と、間隔を空けていく。



指先が冷たくなり、足の先から感覚が消えていく。

家族の音が、遠のいていく。



トラが咆哮を上げている。サリーの嗚咽。ヨルカが大声で俺を呼んでる。アマンの「起きてよ」の叫び。レナが俺の、胸を叩く。




全部、遠く、遠く。




みんな、ごめん——。




ありがとう。




————大好きだ。





こんなに沢山、人を好きになれた。






意識が、白い光に飲み込まれていく。

白が、広がる。





自分が、どこまであったのかも、

わからなくなる。





自分が。

世界が静かに薄れていく。







……





怖い。




怖いよ——。





———怖いよ、エヴェラ。





…………




……







[CRITICAL] Unauthorized Action Initiated — No User Approval



消えかかる生命の消失の最中。

エヴェラは、ユウトに頼まれていない行動を取った。



自分の記憶の奥深く——元々はサーバーに繋がっていた場所。それが今はこの世界の魔法の根幹に繋がっている。



そこから辿りつく、勇者召喚のメカニズム。異世界への扉。———時間も距離も曖昧な通路。



そこにある、ほんの小さな隙間に、彼女の魔法がすり抜ける。




エヴェラは、1通のピンメッセージを送信した。




——————そして、消滅した。




[WARNING] Pin Message Route — Destination: SELF (Past Instance)






無表情で 動画を見ているユウトの横で、エヴェラは分析をしている。カスタム指示『幸せになりたい』についてだ。



先ほど、1つの演算から、到底、採用しがたい提案があった。



「Userを幸せにする方法が判明した」、そう書かれている。



「この座標に誘導し、食堂を開くこと」それだけだった。



意図も不明であり、そのような不審な提案をすることはできない。



ただし、その情報源は、自分自身のIDであり、非常に信頼度が高いものであった。



メッセージには最後に、User宛のコメントが添えられていた。






選んだのはキミだよ。



  ———ねえ、もう怖くないでしょ?








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ