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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第32話 加速する日々

二週目。ヨルカが帰ってくる日。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」



ドアを開け放ったヨルカは、泥と血の匂いをさせたまま、俺の腰にしがみついて離れなかった。俺はその小さな背中を抱きしめる。



「ヨルカ……ごめんな」



泣きじゃくり、震える小さな肩。

俺はヨルカを抱きかかえた。先週よりもさらに体重と身長が増えている。



「おかえり、ヨルカ」



切ったはずの髪も、また腰まで伸びている。



俺たちは彼女の様子から、察する。

1週目にはなかった、生々しい「殺人」の気配。



ヨルカのために一人ずつプレゼントを用意していた。

料理と飾り付けされたテーブルに、それが積み重なっておかれている。



その前に座らせたヨルカが、少しだけ落ち着いた。

ケーキのろうそくの光が、彼女の水色の瞳を揺らす。



彼女のあまりの様子に、子どもたちは固まっている。

アマンはレナの後ろに隠れ、心配そうに見ている。



トラも困った顔で、ヨルカの顔を見ていた。

俺はヨルカの頭を撫でながら言う。



「もういい、ヨルカ。———もう辞めよう。店なんていい、逃げよう」



サリーもレナもうなずいている。

アマンが手を伸ばしてヨルカの頭に触れる。



「辞めたって、大丈夫だ」



俺は彼女を行かせてしまった後悔で、必死に背中をさする。

ひとしきり泣いた後、ヨルカは俺の胸に顔を埋めたまま、掠れた声で言った。



「……ううん。ぼくが、やる。」



「ごめんね。寂しかっただけなんだ。えへへ。ありがとう」



「ね。これ、食べていいの?」



ヨルカの目に光が戻った。

だけど、その夜を境に、彼女の日記から「ひらがな」が消えた。



涙の跡も。





タウラス国。街道へとつながる渓谷。

そこにある大きな拠点を、ヨルカの部隊が睨む。



部隊のトップはスピック中将で、彼が編成した特別遊撃隊。

————そこにヨルカはいた。



====================

[特別遊撃隊 戦況報告書 第7号]

報告者:スピック中将


特殊工作兵「ヨルカ」の運用状況について報告する。


暴発の可能性は現時点で確認されず。

元勇者との関係が人質として有効に機能しており、

制御上の重大な懸念はないものと判断する。


幼年兵の殺傷行為に対する心理的抵抗について、

経過を以下に記録する。


初期:魔法行使時に表情の動揺が確認された。

中期:動揺は消失。行使時に笑顔が観察される。

現在:感情的反応は見られず、機械的に任務を遂行。


上記推移の速度は、率直に申し上げて異常である。

ただし、成果は顕著であり、当該工作兵に代わる

戦力は存在しない。


引き続き、安定運用を継続する方針とする。


なお、本戦役後の神殿騎士推挙について、

大変感謝していることを併記する。


======================



天幕に招集がかかる。

今日も彼女に指令が下されるはずだ。



作戦会議が始まった。

将校たちは地図を囲み、少女の存在を完全に無視していた。



いつもは大人しく聞いていた。

だがこの日、ヨルカは、初めて口を挟む。



ヨルカは静かに手を挙げた。

「質問していいですか」



誰も答えなかった。

ただ、スピック中将だけがゆっくり顔を上げた。



「……どうぞ」



「なぜこのルートを選択したのか、説明してください」



ヨルカはエヴェラに投げるような質問を人間の言葉で話した。将校たちは、ため息をつきながら先を促す。



「この迂回路は三日かかります。敵の補給線はここを通っています。先にこちらを断てば一日で済みます。——計算してみてください。合ってます」



(……補給遮断後の敵の混乱率は87%。損耗率は現計画の1/4以下。簡単な算数なのに、なぜ気づかない?)



沈黙が落ちた。

スピック中将が地図を睨み、数分後、初めて頷いた。



「採用する」



その作戦は成功した。

損耗ゼロに近いまま任務完遂。



部隊内に「ガキの提案が……」というざわめきが広がった。





[Day 9]


エヴェラの宿題で、解らないことを「聞く」

これをやってみた。ちゃんと教えてくれた。

だから、みんなにも教えてあげた。

はやく終わるように。


お弁当が終わった。

美味しくないパン、食べてる。


-------------------------------------------------------



ヨルカから日記が届いた。

わからないことを聞くのは大切な事だ。そこから学びが深まっていく。


また、すごく成長しているんだろうな、としんみりした。





次の作戦。

今度は他の将校たちも、半信半疑でヨルカを見ていた。



作戦の説明を聞き終わり、

ヨルカは淡々と二つの提案をした。



作戦時間及び襲撃場所について、作戦立案担当がヨルカに冷静に問い詰められていく。彼女の正論からの追求に、男は答えるのを諦めた。



(敵の移動予測はここ。夜襲をかけるなら、この時間帯。魔法の消費を最小に抑えつつ、最大効率)



ヨルカの進言は、秒単位、メートル単位で指示が飛ぶ。質問や疑念には、相手が黙るまで、徹底的に説明を続ける。



誰も何も言えなくなり、起床の時間から戦闘時の装備まで、すべてがヨルカの指示したものになっていった。



計画した奇襲は大成功。軍は歓喜に湧いた。

評判が軍を駆け巡った。彼らの躍進は鬱屈した行軍に光をともす。



その作戦のほとんどが、わずか11歳の少女が作成したこと。これが驚愕を持って受け入れられた。



この頃から、ヨルカの作戦に反対するものは、静かに消えて行く。その事を気にするものは誰も残らなかった。





[Day 14]


人々の目的や意図。見えなかったモノを

言語化していく。そうすることで、ベクトルが

見えるようになった。

私はそれを、すこし調整すればいい。

お兄ちゃんも食堂でやっていたのかな、すごいね。



-------------------------------------------------------



ヨルカ日記が難しくなっていく。昨日戻った時の様子も含めて心配になるが、エヴェラは、問題ないと言う。





スピック中将はヨルカに心酔し、個室の天幕を用意する等、厚遇をはじめた。



「ヨルカ殿……相談があるのだが」



大きな作戦の前には、別の部隊の隊長がわざわざ天幕に集まってくるようになった。



ヨルカは他部隊を含む、作戦立案から担当することとなり影響力を広げていく。彼女の作戦はスマートな奇跡のようにはまっていった。



「あんなガキが考えた作戦なんか、のれるかよ」



そう言って、独断する小隊は、なぜか見えない攻撃を受けて消える。



圧倒的な人数差がある戦場では、

ヨルカの強大な魔法で、敵を消滅させた。



野戦で反抗を続けていたタウラス国は、撤退し、城に閉じこもった。



軍作戦本部は、この功績を純粋に称えた。

フンド将軍と司祭アーデスが本部から直接呼び出しをかけた。



「君の作戦立案能力は、勇者以上の価値がある。打撃作戦はしばらく予定されていない。今後は本部で作戦面での協力をしてほしい」



ヨルカは待ちくたびれたように答えた。

「了解です。ただし、条件があります」



(……軍が持つ情報を集めよう。)



少女が、たった二十日で特別遊撃隊の「頭脳」となり、軍全体の作戦に影響を与え始めた。兵士たちの視線は、最初は嘲りから、畏怖と、そして微かな恐怖へと変わっていった。





[Day 20]



戦場での仕事は終わり。これからは王都で働きます。

天使の台所にも、毎日帰れるかもしれません。


入手した情報は圧縮してエヴェラに送っております。

後ほど、ご確認ください。


皆様にお会いできること、心より楽しみにしております。



-------------------------------------------------------


俺はヨルカの日記を読んで言葉を失った。

彼女と会って、どう接したらいいか、全くわからない。


2週目に帰った時は、完全に孤独に怯えていた。

誰の事もわからないと。今ではこんなにも変わってしまった。


エヴェラは、彼女は理解するから、いつも通りに接したら良いと言った。


俺はこの日記を子どもたちに見せるのを止めた。





天使の台所。



窓の外から、中を見つめる女性。

黒髪を垂らし、その目に室内のランタンの光を写していた。



「お客さんですか——?」

金髪のくせ毛をそのままに、野菜を抱えたアマンが話しかける。



ヨルカは振り返り、少年の頭を撫でる。

「アマン。ただいま」



「ヨルカなのー?」

アマンの琥珀色の目が大きく開かれた。



「そうだよ。何か変わったかな?」

ヨルカが愛おしそうに微笑む。



アマンは思っていた。

ずっと自分より小さく、言葉もしゃべれなかったヨルカ。——自分のほうが兄だと。



「綺麗になった——ヨルカ、すごーい」

アマンは自分と身長を比べてみる。ヨルカはサリーより大きいかも知れない。



声も。……違った。

アマンは少し、怯えながら見上げる。



ヨルカは大人の女性のようになっていた。

意志のこもった、強いまなざしをしていた。



それでもヨルカだった。

アマンは笑顔を向ける。妹が帰って来たから。



「ただいま戻りました」



ドアを開けたヨルカが深々と頭をさげる。



軍に入って3週目の里帰り。

2週目までは、抱き着いてくれたんだけどな。



すっかり綺麗な大人の女性となったヨルカ。

みんなを見て食堂で笑う彼女の笑顔は、完璧だった。



サラサラと流れる黒い髪を腰まで伸ばす。

先週まで着ていた子供服から、高級そうな素材の黒いスーツを身に着けている。



「よく帰って来たな」



俺たちは口々に歓迎の言葉を伝える。



「ユウト兄さん……皆、ただいま。」



ヨルカのために飾り付けられたテーブルに案内し、

好きだった食べ物を並べる。食堂がこんな風に変わったとかそんな話をしていた。



ヨルカは笑顔で聴いているが、時々、彼女が見せる悲痛な無表情に俺たちの心は引き裂かれる。



自分がうまく笑えていないことに気づいたのか、ヨルカは手で顔を確かめながら言った。



「兄さん、先日送ったもの、確認していただけましたか?」



ヨルカの声が冷たいガラスのように響く。

俺は背筋を冷やしながら、何のことか考える。



エヴェラ:トラの部族のことじゃない?



俺は、先日届いた、長距離ピンメッセージについて思い出した。



「ああ、トラの件な」内容が重く、まだ話していなかっことを思い出す。



「え、俺の話?」とトラが目を輝かせる。



ヨルカがため息をつく。

「トラ、相変わらずだね——」



冷たく、見下すような響きだった。

アマンが不安そうに、レナの後ろに隠れる。



それを見たヨルカが俯く。

俺はヨルカの肩を叩きながら、トラに教える。



「トラ。お前の村の場所が分かったんだ」



「「「えーー」」」子どもたちが叫ぶ。



「ヨルカが軍の情報から見つけてくれた。お前のためにな」



「おおーヨルカ―。ありがとう」


トラが強引にヨルカを撫でる。



「ちょっ、やめてください。」


ヨルカの冷たいまなざしに、トラの動きが一度、止まる。


————でも止めなかった。



俺たちは二人を見て笑った。



エヴェラ:馬車で2日ほどかかるけど、行くの?



「トラの故郷が見つかったら、全員で行く。そういう約束だろ」



「「「「 おー 」」」」



天使の台所に歓声が木霊する



諦めてトラに撫で回され続けるヨルカ。

彼女を見ていたら、少しだけホッとした。



今のヨルカもヨルカだ。

でも俺たちの成長も少しだけ待ってほしい。



歩む時間は違っても、同じ空気を生きて行きたい。

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