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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第33話 小さな旅行

トラの故郷にみんなで行く。



俺たちは馬車をレンタルし、

1週間ほどの往復旅行を計画した。



食事は外でする。小麦と調味料だけ積み込む。

水は魔法で、後は現地調達だ。



馬車は大きな2段ベッドになるように改造した。

少しでも快適になるように、みんなの疲れが取れるようにする。



トラの村は「ガザニア村」という。知っているか聞いてみたが

聞いたことが無いという。田舎とはそういうものなのだろうか。



初めての馬車の旅にみんながそわそわしていた。

アマンは馬に驚き、やさしく撫でている。



「そう。純粋な子ね」レナはうっとりと馬の瞳を眺めていた。

辺りに甘美な雰囲気が漂っている。



「レナ。みんなの服も詰め込むから手伝ってくれ」



「はーい。旅行なんて、ほんと楽しみだよー」



彼女の笑顔を朝日が輝かせた。

俺たちは準備をすすめる。



◇



市街地から出て二日目、道が進むごとに

「ここ、知ってるー」とトラが連呼する。



レナとヨルカは

そんな彼を見つめ、微笑み合った。



「自分の村の名前も知らなかったくせに」

サリーが笑った。俺は噴き出した。



「ねー、村が見えて来た。」

アマンが御者席から顔を出す。



エヴェラ:あれが、トラの村に一番近い……人間の村ね。



村には戦闘の被害が生々しく残っていた。

数か月前に焼け崩れた家々が、そのままにされていた。



「ガザニア村を知っているか?」

俺は、果物を売ってくれた商人に話しかける。



先ほどまでにこやかに話していた男の顔が曇る。

「なんだあんたら奴隷商人か?」



「なんでだよ」俺は、子どもの故郷を探していることを話した。

エヴェラにはいちいち話さなくてよいと叱られたが。



俺がそう言うと、この村は、ライカンスロープの村と友好的で、

怪しい奴は捕まえているらしい。俺はトラを紹介した。



彼はトラを見て驚きながら、村の場所を教えてくれた。

「気を付けて」と言葉を残して。アマンが手を振っていた。



今でも、奴隷にしようとしている奴がいる。意味が解らない。

そもそも彼らはステータスが高く、なぜ奴隷に甘んじるのか?



エヴェラ:ヨルカの資料によれば、個人の戦闘能力は高いが、純粋で搦め手に弱く、騙されて、合法的に債務をつけられている者も多いみたいだね。



——————ヨルカから届いた情報。

ガザニア村の村人は奴隷ではなく、村で狩猟生活をしていた。

そこに、教会の神父フランク・ヨナサスが布教のため赴任する。

村人とも関係がよく、平和に暮らしていたが、魔王軍との戦況が悪化。

全世界の半分が絶望的な状況になる中で、村人たちを説得し、ライカンスロープの復権と救世をかかげ、軍に参加した。軍は彼らの希望通り、最前線におくる。

結果は、先導した神父フランクを含め全員死亡。



俺   :これレナに話すとき、教会のことは触れないほうがいいよな?



エヴェラ:そうね。あの子はきちんと受け止められるとは思うけど、今はね。



「あー、村だー」



ガザニア村が見えて、トラが馬車から飛び降りて、走り出す。

馬車の速度を大きく超えて走っていった。



「アイツ、早すぎだろ」



俺たちは嬉しそうに駆けるトラを見つめ笑った。



村には何人かのお年寄りがいるようだ。

トラがその一人に話しかける。



「おお、ゲンジー!」



「トラ、なのか?」



ゲンジーと呼ばれた老人がトラの匂いを嗅ぎに来る。

「ふんふん」とトラのおしりのあたりを嗅ぐ老人の絵がやばい。



「トラか。よくぞ、生きて」おしりの匂いで確定したらしい。

いつのまにか、銀髪の老人たちが集まって来た。



その夜。小さな歓迎会が開かれた。

村長を含め、ほとんどの村人が参加した。



残っているのは、けが人や高齢者。

おさない子供だった。



用意してくれた料理をアマンが熱心にメモしている。

このあたりは辛くて赤い料理が多いようだ。



サリーとレナはおしりを嗅がれそうになるのを阻止している。

俺はゲンジーにライカンスロープの変身について聞いてみた。



「変身には何か必要なのか?」



「んー、わからんのう」



そういうとゲンジーは、全身から銀色毛があふれ、可愛らしい子犬のようになった。目を輝かせたレナに捕獲され、顎を撫でられいる。



「ふんっ。て力を入れると、こうやって変身できるんじゃ」



俺は全く参考にならないゲンジーの説明が、トラに似てることに納得していた。トラは隣で「ふんっ、ふんっ」と顔を赤くしている。



ゲンジーはトラを眺め、目を細める。



「お前の両親は、最後には、ちゃんとお前を守ったんじゃな」



神父に率いられ、戦場に向かった彼ら。ライカンスロープの地位向上というスローガンを掲げて、魔王軍と戦った大人たちを思い出しているのだろう。



子を持つ親の中には、幼い子供も戦場に連れてったものも多いという。

トラの両親は彼を守った。——俺もそう信じたい。



トラは両親の話を楽しそうに聞いていた。

「もっと、もっと教えて」両親が幼かった頃からの話をゲンジーにねだっていた。



二人の生き方。考え方を聞いて、うんうんと聞いていくトラ。

俺たちも聞きながら、ライカンスロープの人となりを考えていく。



————信じやすく、純粋で、やさしい。

ライカンスロープたちは、何年もそうやって搾取されてきた。それが強いのに搾取される秘密なのかもしれない。



俺たちは村の伝統料理を楽しみながら、

村での滞在とトラの笑顔を堪能した。



ヨルカはその光景を黙って観察していた。



◇



トラの家だった場所にいった。

1年ほど、誰も住まず。破れた窓からの風で荒らされている。



トラが「ここで寝る」というので、みんなで泊まった。



暗闇の中。

馬車から下した布団の中で、トラの話をみんなで聞いた。



父親が変身した時のかっこよさ。

隣に住んでいた男の子。……彼も戦場に行ったらしい。



友達だった犬。

母親が作る辛い料理。



幼いころの約束。

王都で必死に探したすべて。



その全てが。―—もう無い。

トラの声が泣き声に変わる。



探してたものが、「無い」と分かったトラに

俺たちはどう声をかけたらいいのかな。



「トラ。この街で暮らすか? ここなら監視もされないだろうしな」



エヴェラ:それは甘いでしょうね。王都よりはマシでしょうけど。



子どもたちは黙っている。

トラは、だが、はっきりと答えた。



「天使の台所。帰りてーよ」



「……そうか」



ガサガサと音がしてくる。



「おいヨルカ、頭撫でるな、子供じゃねーんだぞ」



トラが鼻声で、抗議の声を上げる。



闇の中、大きなヨルカがトラを撫でているようだ。

————きっと、愛おしそうな、顔で。



「いいぞ、もっとやれ」



いつの間にか、暗闇でのくすぐり対決に発展し、

トラの故郷での夜が更けていった。



起きたら……俺たちの店に帰ろう。



◇



ゲンジーや村人たちに別れを告げる。

店の場所を地図に残し、再会を誓った。



アマンはこの村の特産の

まっ赤な香辛料をもらっている。



レナとサリーは変身してくれた村人たちを

モフモフしている。これもう1時間してる。



トラはいろんな村人と話しているようだ。

「よし、帰るぞ―」俺はみんなを馬車にのせようとする。



なかなか集まらない家族を一人ひとり集めていく。

「かえるよー」ヨルカも手伝ってくれた。



帰り道の馬車の中。笑顔が溢れている。

疲れもあったが、まだ旅は続く。また楽しい野宿だ。



トラは帰り道をしっかりと眺めていた。

「道を覚えてるんだよ」今度は、帰れるように。



御者をローテーションで代わり、勉強した。

もうアマンはしっかり操れるようになった。俺だってそうだ。



レナは馬を叩けず、手綱も引けず。

「いい子ね」と優しく撫でて、お願いをしていた。



それが不思議と通じていた。

そのようすをヨルカが見て微笑む。



彼女の顔は、この旅の中で、

いつの間にかほどけていた。柔らかな目をしている。



ヨルカは静かに馬車のベッドに寝そべった。

手を伸ばして、手のひらに風を感じてみる。



動く景色。緑色と青の世界。——風。

草の影に小さな動物が跳ねる。



「わあ……」



彼女の口から声が漏れる。

透明な水色だった。



俺は彼女の顔に小さなヨルカの面影を見つける。

彼女はずっと、そこにいたんだ。



◇



ヨルカは、昨日までの日々を思い出していた。



不快な出来事は、不快なだけでなく、家族の価値をより高めた。

————彼女は、そう分析する。



もう、彼女は何も怖くなかった。

このような仕組みでできている世界が、美しいと思えた。



ヨルカはエヴェラに圧縮言語で宿題の回答を渡し、

ユウトには彼がわかるように回答を言語化してメッセージで送る。



「生まれてきて、よかった。ありがとう、お兄ちゃん」

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