↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/60

第30話 褒賞と代償

孤児院の件で褒賞がでるという。



俺たちは朝早く呼び出された。

アマンとヨルカに店を任せ、王城に向かう。



王城の一室。

神殿騎士アルトが俺たちの前に、革張りの箱を置く。



「王からの褒賞です」

開けると、金貨や銀貨が整然と並んでいた。



トラが「おおー」と言い、サリーが「声抑えて」と肘でつついた。レナは静かに頭を下げた。



「ありがとうございます」



アルトはレナを見て、少し間を置いた。

それから、こう言った。



「……トラ。少し時間があります。立ち会ってもらえますか」



トラの目が光った。

叫びそうなのをサリーが止める。



◇



城内の訓練場。



アルトの大曲剣とトラの剣が打ち合う音が、石造りの壁に響いた。最初の三合、アルトは余裕で受けていた。



四合目。



トラの剣筋が変わった。顔もやや変わって来た。

このまま変身してしまうのかも、と俺たちは心配した。



「——ッ」



アルトが半歩退く。初めて見る顔だった。

それから二人の速度があがった。



レナとサリーは、黙って見ていた。

十数合打ち合った後、二人の動きが止まる。



トラはアルトの右袈裟を撫で切ろうと

振りかぶったが、次の瞬間には、喉に切っ先が在った。



トラはアルトの瞳が放つ冷徹な殺意に、背中が冷える。



「……なるほど」



アルトは一言だけ言った。

トラは息を切らしながら、引きつって笑う。



「参った。アルト、強いなー」



アルトは少し考えて、うなずいた。



「朝のトレーニングに招待しましょう。明日から来なさい」



「おう!」



◇



帰り道。

四人で並んで歩いていた。



トラがアルトの強さを、身振り手振り語る。

レナが笑いながら聞いていた。



橋を渡ったところで、サリーが言う。

「煙が見える。……沢山」



俺たちは足を止めた。

店の方向、川の対岸。「炭焼きの煙か?」トラが目を凝らす。



草原のあちこちから、薄い煙が上がっていた。

「……なんだ?」俺の背中に嫌な予感が走る。



近づくにつれて、様子がわかってきた。

地面がそこかしこで削れている。



黒い装束の人間が、何人か倒れている。

——子供じゃない。大人だ。



「お帰り、ユウト兄ちゃん」



ヨルカが手を振った。

宙に浮きながら。



一旦、浮いていることは置いておく。



「……ヨルカ」



「なに?」



「こいつらは?」



ヨルカは少し考えた。



「わかんない」



それから、もう一度考え、

まるで翻訳するように、俺に教えてくれた。



——突然、こいつらが来たこと。

店の前に居たアマンを肩に担ぎ、連れていこうとしていたこと。



「は—? なんだ、こいつら」



エヴェラ:監視していた連中かしら……? 同じような黒い衣装を着ているね。



「あと一人」



ヨルカは視線を動かすと、

草むらから「ヒッ」と声がした。



見ると、長い草の陰に、青い顔の男が一人、

震えながら座り込んでいた。



コイツは他の奴より、上等な服を着ていた。

指揮官なのかも知れない。ヨルカは、そこまで計算しているのか?



エヴェラ:ヨルカなら、そのあたり考えているでしょうね。——恐怖魔法か。闇属性はやはり適正が高い。



エヴェラが頭の中でうっとりと呟く。



俺はヨルカを見上げた。



——非殺傷。それでいて、これだけの制圧力がある。……賢いのは知ってたけど、こんなことまで出来るのか?



「いい魔法だな。よくやった」



褒めて伸ばす。そういう方針だった。



ヨルカは少し笑った。



——さて、どうしよう?



トラとサリーが倒れている男達をつつく。

レナは怯えるアマンを抱きしめていた。



◇



ヨルカは浮いたまま震える男に近づき、

ピンメッセージを送った。



男はよろよろと立ち上がり、

逃げるように走り去っていった。



「何を送った?」



「上の人を連れてきて、って」



俺たちは顔を見合わせた。



エヴェラ:いい判断だと思うわ。浮いていたのも難易度が高い飛行魔法を誇示するためね。つまりヨルカは——



「ねー、こいつら、どうしよ?」



サリーが寝転んだままの黒装束の尻を蹴とばす。

俺はこの後の処理を考える。



「……生きているよな? 水ぶっかけておこう。死んでたら……、また考えよ?」



俺たちは、倒れている者たちを一か所に集める。

黒服の下の鎧からして、監視をしていた影の一族とは違う。——どう見ても王国軍だ。



彼らは生きており、「上司は走って逃げた」ことを伝えると、

頭を下げて帰っていった。



「逃がしちゃって、いいのかよ?」

トラが本当に不思議といった顔で問う。



「ヨルカが上司を呼んだからな、まずはそいつと話そう」



俺はトラの肩を叩きながら言った。レナが不安そうに立ち上る煙を見上げる。



震えるアマンを抱きしめる。

「怖かったろ。よく店を守ってくれたな」



アマンは金髪の眉毛を震わせながら言う。

「……ヨルカが、助けてくれた。だから、怖くなかったよ」



アマンはこれまで、ずっと小さなヨルカを守ってきた。今、どんな気持ちなのだろう。彼の目はじっとヨルカを見ていた。



◇



翌日。



「天使の台所」に、男が一人現れた。

軍服を着ていた。階級章が多い。



名はスピック・フロス。

ルクサーン王国軍で中将をしているという。



ヨルカが見上げてくる。

「ユウトお兄ちゃん、ぼくに話をさせて。お願い」



こんな顔をされたら、断れるわけがなかった。

俺は「わかった」と言って、隣に座る。



ヨルカは男の前に座り、静かに目を向けた。

「——目的は?」その声は冷静で、いつもよりずっと低い。



スピックは一瞬たじろいだが、話し始める。



——この国は現在、魔王軍に加担した国へ進軍中。

先の魔王軍との戦争で兵は傷ついており、部隊の損耗を最小限にする必要がある。



「多彩な魔法が使える勇者殿に、是非この作戦に参加してほしい」



「俺が魔法を使えないことは知っているはずだが?」



俺の言葉に被せるように、スピックの毅然とした声が続く。



「——使えないわけではない。我々は、それを知っています。」



エヴェラ:知っていて要求するのであれば、宣戦布告ね。



「これはお前たちの戦争だ。俺には関係ない」



「我らが損耗しているのは、あなたの責任でもあるのですよ?」



スピックの鋭い視線に、俺は目をそらす。

……確かに、そうなのかもしれない。俺はこんな幸せに暮らしているけど。



エヴェラ:ユウト、すぐに誘導されないで。



俺を見て、余裕そうな表情を浮かべた男だが、チラリとヨルカを見て止まる。

―—―—―—ヨルカは重く、鋭くスピックの瞳を見つめていた。



「あのおじさんに……、伝えたはずだよ。ぼくが代わりに行くって」ヨルカが綺麗な声で言った。



スピックは何かを撃ち抜かれたように停止している。

胸の勲章が揺れた。



俺は手をクロスして

ヨルカの前にダメだ、を作る。



「行かせないよ。何言ってるんだ、だめだよヨルカ―」



ヨルカが俺に困った顔を向け、人差し指で、静かにするよう訴える。


 

俺は止めない。ヨルカを行かせるなんて無い。



「子供を戦場に送る気はない」



「ぼくは強いよ」



ヨルカがキリリとした顔を見せる。——やっぱ、子どもじゃないか。



「そもそも行く必要なんてない。俺たちはこの国を出て行く。追いかけてくるなら犠牲を覚悟しな」



俺は口を開けている将校に、そう告げて、退室を願った。



ヨルカは、不思議そうな顔のまま、黙っていた。



男は困った顔をして「明日また来る」と残し帰っていった。



◇



その夜。

神殿騎士アルトが来た。



険しい顔をしていた。

「ユウト殿。今回の件、断るのであれば——」



彼はそこで一度止まった。



「店の営業許可も、見直しになるかもしれません」

静かな声だった。感情は見えなかった。



「それだけでは、済まないかも―—」

それから、まっすぐ俺を見た。背中の大曲刀の柄が光る。



「贖罪があるとおっしゃっていた。従軍は、その一つになるはずです」



俺は何も言わなかった。



アルトは頭を下げ、「トラは才能がありそうです。継続して指導できるといいのですが」と言い残し、出て行った。



◇



夜。



みんなで車座になった。

——俺は言った。



「軍には入らない」



全員が少し安心して俺を見た。

入ればどうなるか、みんなわかっている。



俺は食堂ができなくても、この子たちと居れば

それでいい。——それが答えだ。



「代わりに、旅をしよう。まずはトラの故郷を探す。みんなの故郷にも寄ろう。」



「ええー行きたい。馬車買おうぜ」



トラは乗り気のようだ。だけど、周りを見回して言った。



「店はどうするの? この家は?」



「残念だけど、ここに封印していく。もし、ここに残って住みたいっていうなら残していく。俺は一緒に来てほしいけど」



サリーが、首を振り、いやいやする。

——友達に再開できたもんな。



「わたしは、お兄ちゃんに、ついていくよ」

レナが服を掴む。



……みんなも、俺の服を掴んだ。




「……ごめんな」



泣き声がする。

誰のかなんて、わからない。——俺も泣いていたから。



だって無理だろ。国と戦うとか、無理だろ。

エヴェラに聞くまでも無い。



今回、うまくこなしても。

ここにいる限り、狙われる。



「逃げるしかない。俺には、それしか思いつかない」



「——ごめん」



子どもたちが、それぞれ考えてくれている。

必死な顔で。怖いはずなのに。



しばらく誰も何も言わなかった。

その後、諦めたように、それぞれが動き出した。



トラが立ち上がり、キッチンに入った。

戻ってきた時、手に木片を持っていた。



開店初日、小さく掘った、看板のかけら。



サリーが胸にいっぱいの布を抱えてくる。

「これ、テーブルクロスなら持っていけるよね。自信作だから、さ」



レナは何も持ってこなかった。

ただ、厨房の壁を眺めた。テーブルに書かれた絵を見る。



アマンが最初に書いた「ユウト食堂」の落書き。

消さないでそのままにしてあったな。



「ここで、みんなに初めて料理を食べてもらった」

レナの声が少し低かった。



「頑張って作った」

アマンがテーブルに突っ伏した。



ヨルカは、みんなの顔を順番に見ていた。



この『家』 それから『食堂』……俺たちが積み上げたもの。

それを、全部すてる。



子どもたちに、コレを、捨てさせるなんて。


俺は、ヒドイお兄ちゃんだな。



◇



ヨルカはその夜、エヴェラに聞いた。

いつものように圧縮した言語で、短く。



「どうすればいい」



いつものように、1秒以下でエヴェラが返す。



エヴェラ:何をしたいのか、確認する。それから、どうすればそこに行けるか、考える。



ヨルカはほんの数秒、目を閉じてから立ち上がった。



◇



翌日。



俺は店をたたむため、準備をしていた。

誰かが来ても、俺たちは出て行く。



レナが閉店の張り紙をし、

トラは掃除をしていた。



ドアベルが鳴る。



スピック中将が、アルトとともに店に来た。兵士も何人かいる。

「ヨルカ殿でも構わない、という回答を得ました」



俺は立ち上がった。

「断ります。ヨルカも行かない。俺たちは出て行く——」



「ユウトお兄ちゃん」

ヨルカが必死に、俺に何か伝えようと顔を向ける。



「ぼくが行く」

透き通る水色の瞳には”意志”が宿っている。



「ダメだ」

——軍がやりたいのは無慈悲な攻撃だ。ヨルカに耐えられないし、させたくない。



エヴェラ:ユウト。行かせてあげなさい。心配され駄々をこねているのは、あなたよ。



「駄目だ」

——ヨルカと離れて暮らす。それが嫌だ。



エヴェラ:ヨルカは強い。彼女の足手まといにならないで。彼女なら安全に帰ってこられる。あなたと違ってMPも回復する。



「天使の台所が無いと、みんなが悲しい。ぼくも」

ヨルカが俺を見つめながら言う。



エヴェラとヨルカの同時の説得が俺を打ちのめす。



「店を続けられるのかも?」そんな思いが一瞬でも、頭に浮かぶのが許せない。俺は頭を振る。ヨルカが犠牲になる意味が解らない。



でも。


だけど。



レナやサリーもなぜかヨルカを止めない。トラもむしろ俺を止めている。



俺は黙った。

ヨルカがなんとか俺に理解させようと、顔をのぞき込む。



「店がなくなったら、みんなが悲しい。兄ちゃんが行っても、みんなが悲しい。ぼくが行けば、すぐに終わる」



「……ヨルカ」



「だいじょうぶ」



まっすぐな目だった。


サリーが「ヨルカにまかせよう」と言った。



トラが小さくうなずいた。


レナはヨルカの水色の瞳をのぞき込む。



アマンが俺の服を掴んだ。


「兄ちゃん、ヨルカは強いよ」



俺はしばらく、何も言えなかった。



エヴェラ:……ユウト。



俺   :わかってる。



俺はスピックとアルトに向き直った。



「条件がある」



◇



三つの約束。



一つ。毎週必ず一度は帰ること。



二つ。毎日、日記を書いてピンメッセージで送ること。ただし長距離はMPが重いため、ユウトからの返信は緊急時のみとする。



三つ。ユウトが止めろと言ったら、すぐに止めること。



スピックは全て受け入れた。

ヨルカも可愛い笑顔で「わかった」といった。



俺はもう一つ、付け加えた。



「もし約束が破られたり、ヨルカに何かあった場合。俺はこの国に向けて全力の魔法を放つ。その後、どこかへ消える」



スピックは青い顔見せたが、アルトは表情を変えなかった。



「……承知しました」



「明朝、迎えの馬車を送ります」



◇



その夜。



「天使の台所」はにぎやかだった。



みんなで飯を食った。

いつもより、席をくっつけた。



アマンが「気を付けて」と繰り返した。

ヨルカが「だいじょうぶ」となでる。



それだけで、少し空気が緩んだ。

俺たちは全力でヨルカの好きなものを作った。



ケーキも。

明日のお弁当だって。



ヨルカが俺の隣に来た。

服の裾を、ぎゅっと掴んで、しゃがむ。



「お兄ちゃん」



「なんだ」



「ここにいる」



俺は何も言えなかった。



エヴェラ:……ユウト。泣かないの。



俺   :泣いてない。



エヴェラ:泣いてるよ。



ヨルカを抱きしめる。

最後の夜が、静かに更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。